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多様性を活かす思考と対話の手法〜教育のためのTOC 【週刊新陽 #82】

先週、校門に立っていると雪虫が飛んできました。

冬の訪れを告げると言われている雪虫。そのとおり今週に入って急激に寒さが増しています。藻岩山の紅葉も進み、学校の木々の葉もどんどん落ちて、いよいよ本格的に冬が始まりそうです。

さて、そんな今週の『週刊新陽』は10月19日(水)開催の『中つ火を囲む会』で体験した『教育のためのTOC』のレポートです!

対話のための思考ツール

教育のためのTOCとは、クリティカルシンキングと対話のためのツール。大ベストセラー『ザ・ゴール』の著者であるエリヤフ・ゴールドラット博士が開発した「制約理論(TOC:Theory of Constraints)」がベースになっていて、
・ものごとのつながりを考えるブランチ
・対立を解消するクラウド
・目標達成のためのアンビシャス・ターゲット・ツリー
という3つの「考えるための道具」があります。

生前、ゴールドラット博士は、人々が充実した人生を送るためには、真の全体最適を目指し、助け合いながら働かなければならないということを、常にメッセージとして伝えていました。そんな博士が最後に生み出したのが、「教育のためのTOC(TOCfE)」だったのです。

「教育のためのTOC 日本支部」ウェブサイトより

今回、NPO法人教育のためのTOCの理事である吉田裕美子さんが新陽高校に関心を寄せてくださったのをきっかけに、中つ火を囲む会に協力いただくことに。

なんと吉田さんをはじめ11名の方がボランティア参加し、小グループでの対話のファシリテーターを引き受けてくださいました!(今月の中つ火を囲む会は完全オンライン実施)

「教育のためのTOC」の皆さんが
ボランティア参加してくださいました

まずは吉田さんから、TOCfEについての紹介と多様な意見を活かす対話の方法について。

私たちは常に何か考えて、それを言葉や記号に置き換えて表現している。その表現には、その人の経験や知識あるいは信念から来る「仮定(物事を捉える背景や前提条件)」がある。

この一人ひとりの「仮定」こそが社会や組織の多様性を活かすことにつながるが、普段のコミュニケーションでは「仮定」を言語化することは少ない。なぜなら「仮定」は自分にとって当たり前のことだから。
クリティカルに考え、自分と相手の「仮定」を明らかにしながら対話するために、TOCfEでは3つのツールを使う。

なお、世界経済フォーラムが2年に一回発行している『The Future of Jobs Report(仕事の未来レポート)』によると、今後求められるスキルとして近年必ずあがるのがクリティカルシンキング(批判的思考)。どんな仕事にも欠かせないコアスキルとして上位にランクインしています。

クリティカルシンキングのためのTOCfEの考え方や手法も、私たち教職員だけでなく、きっと生徒にも還元できるツールだと思って今回学びました。

ゴール達成を阻害する障害を目標に置き換える

まず3つのツールのうち最初に使ってみたのが『アンビシャス・ターゲット・ツリー(ATT)』。目標達成に向けた計画を立てるためのツールです。

ATTの作成手順はこちら。
1. アンビシャス・ターゲットを決定する
2. 障害を発見する
3. 障害を中間目標に転換する
4. 中間目標の達成順序を決定する
5. 中間目標を実現するための手段を考える

本来は、「困難が伴うとしても達成しがいがあると感じられる目標=アンビシャス・ターゲット(AT)」と「その目標達成を妨げている現状=障害」を探ることから始めるのですが、今回は事前に吉田さんと相談して「生徒が主体的に学びたいと思っている状態」をATとすることにしました。

今回、新陽の先生たちは【手順2】から体験。障害となっていると考えられるモノ・コトを挙げ、それを中間目標に転換する、というワークに挑戦しました。

教員が4名ずつ分かれたzoomのブレイクアウトルームにTOCfEのファシリテーターが1名入ってグループワークがスタート。「生徒が主体的に学べない状態」を思い浮かべながら、なぜそうなってしまうのか、阻害している要因は何なのか、「できない理由」を挙げていきます。

生徒自身に問題を感じる先生もいれば、学校やクラスの環境、授業や先生からの働きかけや声がけに原因があるのではないか、という意見も出ました。

次に、各障害の対になる中間目標を出します。

コツは障害が取り除かれた状態を表現すること。どうやって障害を乗り越えるかという方法や手段は後回しです。中間目標を実現するための方法や行動は【手順5】で出すため、ここでは考えないのがATTの流れなのですが、中間目標(状態)を考えるのと障害を取り除く手段が混ざってしまいがち。慣れていないと思考を構造化することは難しいな、とあらためて感じました。

今回はTOCfEを体験することが一つの目的だったので、生徒が主体的に学べる状態に向けた中間目標の整理や具体的な手段を考えるところまでは行きつきませんでしたが、思考の整理や言語化、構造化についてヒントを得られた先生が多かったようです。

このATTはPBL(Project-Based Learning)で計画を立てたり見直したりするのにも使える、と吉田さんからお話があり、生徒が活用するイメージが沸いた先生もいたようでした。

つながりを紐解くクリティカルシンキング

残りの時間であと2つのツールについて紹介していただき、少しだけ体験しました。

クラウド』は問題を特定するためのツール。自分の中にある悩みを解決したり他者との意見の対立を解消したりする際に活用できます。

「ある問題は同時に取ることができない2つのアクションからなるジレンマの構造」というのがクラウドの考え方です。相反する行動の元となっているニーズに共通する目標を探ることで、二項対立の罠にはまらず解決策を導くことができます。

吉田さんから、「親が子に指示する」と「指示しない」という全く逆の行動について小学生がクラウドを使って読み解いた事例が紹介され、誰でも使えるシンプルなツールであることが分かりました。


最後は『ブランチ』。原因と結果のつながりを分析する論理思考のためのツールです。こちらは、教育のためのTOCの会員である平方さんが解説してくださいました。

例えば、「ゲームばかりしていないで宿題しなさい。でないと成績が悪くなるよ。」と親が子に言うとします。これを分解してみると
・子どもがゲームをしている→宿題しなさいと子どもに言う
・宿題をしない→成績が悪くなる
といった原因と結果の関係が見えてきます。

この原因と結果のつながり(「→」の部分)について「なんで?」と考えてみるのがブランチ。

子どもがゲームをしているのを見ると、ゲームばかりして宿題を後回しにするだろうと親は思うので「(あとまわしにしないで)宿題しなさい」と言う。それは、子どもがよくゲームに夢中になって他のことを後回しにしているのを知っているから、だったりする。

また、親は宿題=勉強だと思っていて宿題をしないと成績が悪くなると考えていたり、ゲームは遊び(で役に立たない)宿題は学び(で役に立つ)と思っているのかもしれない。

クラウドは、理解するためのプロセスそのもの、とのことでした。

平方さんによると、ATTもクラウドもブランチも、TOCfEのツールは基本的に「つながり」を見える化し説明するためのもの。それは、人それぞれが持つ「つながり」は多様であり、確認して対話することが大切だから。

「なんで?」を繰り返し「つながり」を紐解くクリティカルシンキング。自分や相手の言動の背景にある仮定(物事を捉える背景や前提条件)への解像度を上げることで言葉の受け取り方が変わったり、リフレーミング(物事の見方を変えてみること)で新しい発見ができたり、多様性を活かす対話に欠かせないスキルだと実感しました。

【編集後記】
平方さんから、クリティカルシンキング(批判的思考)は「吟味思考」とすると分かりやすいのでは、というお話がありました。批判的という日本語はやや否定的というニュアンスを含むのですが、もう少しフラットに「あらためて考えてみる」くらいがちょうどいい、と。対話にクリティカルシンキングを取り入れるのにも「吟味思考」という表現は良いな、と思いました。

平方さんのnoteも参考になります↓

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