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「挑戦する!」を叶えた生徒たち〜高校生が考える宮沢賢治展 Vol.2 【週刊新陽 #75】

8月2日〜3日、札幌市役所(1階市民ホール)で『高校生が考える宮沢賢治展』が開かれました。

2日間の来場者はなんと247名!平日にも関わらず大勢の方がお越しくださったこと、心から感謝申し上げます。

今年5月にサツドラHD様ご協力のもと開催した『高校生が考える宮沢賢治展』。その生徒たちの想いに共感した札幌市の広報部長・加藤さんが協力してくださることになり、2回目の展示会が実現しました。

「新陽高校・宮沢賢治文学を研究する会」の4人。
新陽高校の探究コース3年生です。

賢治さんと札幌

前回は『オツベルと象』を中心に置いた展示でしたが、今回は『銀河鉄道の夜』と『心象スケッチ「札幌市」』がメイン。札幌市役所でやるなら市民の皆さんに還元できることを考えた、という4人。札幌市の加藤さんとも「札幌市の人たちを笑顔にするイベントにしよう」と約束したそうです。

実は宮沢賢治は修学旅行の引率で北海道に来ていて、そのときの復命書が残っています。普段見ることのできない貴重な資料を北海道や札幌市と繋げながら見てもらえるような流れを作ろう、と3テーマで展示を構成しました。

《展示テーマ》
・『心象スケッチ「札幌市」』
・『銀河鉄道の夜』
・修学旅行の復命書

生徒が自分達の力でいろいろ取り組んだのも今回の特徴。資料を貸していただいたり協賛いただいたりご協力くださる先も多かったにも関わらず、その方々への連絡はほとんど生徒から。また、ポスター制作やチラシの配布も生徒がやりました。

さぞかし大変だったろうと思って聞くと、2回目だったので比較的スムーズにできたとのこと。探究コースで学んだPBL(Project-Based Learning)の経験も活きました。仲の良い4人なので互いを熟知していて、全体を見て進めるメンバーや細かい部分を詰めるメンバー、自分の興味分野を極めるメンバーなど、それぞれの得意な関わり方でプロジェクトを進めました。

展示は、事前に考えたレイアウト案をもとに最後は現場で微調整しながらセッティング。でも実は2日目、この並び順を変更しました。想定した流れと来場してくださった方々の動きが違うと1日目に感じたのだそうです。

当初考えていたのは、『銀河鉄道の夜』の版画のあとに「銀河鉄道の夜と札幌市のつながり」、そして「札幌市と賢治さんの関わり」という流れ。まずはひととおり見たお客様が『銀河鉄道の夜』の版画に戻ってくることを想定したものでしたが、実際は、一巡して(戻ることなく)帰ってしまう方が多かったのです。そこで2日目は、つながりを知ってから『銀河鉄道の夜』の世界を見ていただけるよう順番を変えました。

この気付きも、生徒たちが意図的に来場者と対話したことで生まれたもの。4人が積極的に案内したり来場した方からの感想を書いていただけるようポストイットを用意したり、今回は発信するだけでなく相手からの反応を受け取ることができるシチュエーションを意識したようです。

二度目だからできたこと

--市役所での2回目の展示会、大盛況でしたね。感想を聞かせてください!

【佐藤歌夏さん。以下、歌夏】本当にたくさんの方の協力で実現した展示会だったので、とにかく感謝の気持ちと達成感でいっぱいです。

今回は、お客様との距離が近かったと思います。前回はたまたま生まれた対話でしたが、今回は意図的に対話を生もうとして、実際に対話できた手応えがあります。

それと、多様な方々が来てくださったのも嬉しかったです。外国人観光客や耳の不自由な方、世代もおじいちゃんおばあちゃんから小さなお子さんまで本当に幅広く。「耳が悪いので、目で楽しめる展示会に行くのが好き」と話してくださった方もいます。

「新聞を見た」と記事の切り抜きを持ってきてくださった方は1人や2人ではなかったし、わざわざ予定を変更してこちらに来てくださった方もいました。帰る時に「よかったよ」「またやるなら来ます」と声をかけられ、開催できてよかったと実感しています。

北海道新聞の記者さんが1日目に取材してくださって
2日目の朝刊に記事が出ました!

【寺分光牙さん。以下、寺分】前回は進路活動のため当日ほとんど関われなかったので、今回も他の3人に比べると段取りが分からなくて、お客様が来ても自分は後ろに控えている感じだったんです。でも1日目が終わった時に響に「もっと案内しなよ」と背中を押されて、次の日は積極的に声をかけるように意識しました。

そうしたら2日目は全然違う日になって、学べたことも多かったと思います。花巻市と縁がある方がそれを教えてくれたり、展示についてのアイデアをくれた方もいたり、とにかく人と話すことって大事だなと感じました。

僕より賢治さんに詳しい方もいっぱいいて、自分から話しかけることで得られることがあると実感しました。

【髙橋響さん。以下、響】僕はこのプロジェクトに加わった動機の一つが、賢治さんが教師だったことなので、復命書を読み込んで教師としての賢治さんの姿が見えたのは貴重な経験でした。

例えば、復命書の字は他の作品の原稿と違ってとてもきっちりしています。内容もすごく細かく記録してある。でも同時に、やっぱり賢治さんじゃないと書けないと感じるような表現も多くあります。

また、前回の展示会を通して対話の大切さに気づいたので、今回は「どうやったら対話が生まれるか」を意識して臨みました。復命書を見ながらお客様と語り、賢治先生を深掘りする体験ができました。

【宮下凛さん。以下、凛】私は、実はわりと軽い気持ちで「前回と同じようにやればいいや」と思っていたのですが、市役所ロビーで開催するという重圧が徐々にのしかかかってきて、前日は緊張でほとんどご飯が食べられませんでした。始まったら3人がいてくれたこともあって意外と平気だったんですけど(笑)。

前校長の荒井ゆたかさんが初日の朝一番に来てくださったり、知り合いもたくさん寄ってくれたりして嬉しかったです。加藤さんも何度も顔を出してくれました。中学校の友達など、以前の私のように文学に興味がなかったような人が気軽に足を運んでくれたのもよかったです。

2日目の午後、ふと「あ、終わっちゃう」と急に寂しくなって、そこからは「あと何時間」とカウントダウンしてました。2年間活動らしい活動ができていなかったので、「やっと青春っぽいことができた!」感覚で、それがもっと続いて欲しくて。

【歌夏】(その感覚)あった!お昼食べた後「あと3時間で終わっちゃう〜」って焦ったよね。

【響】でもまだ終われないし、卒業しても続けたいな。詩碑ができるまで。

【寺分】そうだね。その前にまず岩手だね。そのためにもちゃんと受験終わらせないと(笑)。
(※この冬4人はプロジェクトの研修旅行として岩手に行く予定です。)

対話からはじまる探究

--来場した方の反応はどうでしたか?

【寺分】いろいろな方とお話ししてみて、『銀河鉄道の夜』は考察が分かれることがわかりました。みんなが知っているけど捉え方が違うので、対話が成り立ちやすい作品とも言えます。一方で、自分の考察がまだまだ浅かったことを痛感もしました。

【歌夏】今回、展示会への感想や賢治さんへの想いを来場者の方に書いていただきました。どのコメントも心に響いたのですが、たとえば1枚のポストイットびっちり感想を書いてくれた中学生がいたんです。そもそも私は「文学に興味を持ってもらいたい」とこのプロジェクトを始めたので、中学生や小学生が会場に来てくれたこと自体が大きな一歩になったと感じています。

【響】僕は、あるお客様に「高校生が考える宮沢賢治展とあるけど、実際どう考えたの?」と聞かれました。そこで、教師としての賢治さんに興味があること、あの時代に教師でありながら自己のアイデンティティを表現した文章が残っていることがすごいと思う、と伝えました。

今の時代でさえ、個性を発揮するのは難しいことがあると思うんです。賢治さんの時代では自分を出すことは決して簡単じゃなかったと思うし、教師という職業であればきっと尚更。賢治さんはどんな想いだったんだろう?当時の生徒たちはどんなことを考えたんだろう?と思い巡らしました。

同時にそれは、いま求められている教育のあり方なのでは、とも思います。新陽高校では多様性を掲げていますが、多様性には、まずみんなが自分のことを表現できてお互いを知ることができる場であることが必要。学校でそれを実現しようとするとき、誰がまず自分の個性を表現するかといえば先生なんじゃないか、と。

展示会を通して、多様性を体現する教師としての賢治さんに触れることができるのは貴重だと思う、と、その方と話をしました。

【凛】開催時期を決めるとき、どうやったらたくさんの人に来てもらえるか考えて、小学生の夏休みの自由研究に使ってもらえるかもしれない、と8月上旬にしたんです。子ども向けのスタンプラリーも作ったりして。

実際は小さいお子さんの来場は多くはなかったのですが、親子で来てくださった方もいたし、平日の昼間なのにたくさんの方が来てくださってびっくりしました。目標100人だったので(笑)。

2日目の来場者「132」名!!

【響】とにかく今回はとにかくいろいろ良すぎました。達成感というか「集大成」感がすごかった!

【歌夏】たぶん4人とも、新陽を受験するとき探究コースの面接で「なにか挑戦したい」と言ったと思うんですけど、3年目にしてようやく自分で動いて作る、をやりきれたと思います。

終了後、札幌市の広報部長の加藤さんと髙橋励起先生と。

【編集後記】
実は宮沢賢治は北海道に3度も訪れていて「札幌市」という詩も残しているほど、北海道や札幌とは縁があります。2024年は宮沢賢治が生徒を引率して札幌を訪れてから100年。そこで4人と励起先生は、「札幌市」の詩碑を建てたいと考えました。現在、詩碑建立に向けた署名活動を行なっています。ぜひ彼らの想いを応援してください!

〜署名活動にご協力ください by 新陽高校・宮沢賢治文学を研究する会〜
宮沢賢治来札100年!開拓紀念のニレの広場に宮沢賢治の心象スケッチ「札幌市」の詩碑を建てたい!!

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