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#004 アクセントの奏法

はじめに
以下に記す奏法はあくまで私の基本的な考え方であり、すべてにおいてその奏法が正しいわけではありません。
なぜならば作曲者の記号に対する解釈の仕方、また、その国や地域、時代、音楽家の解釈等により奏法が変わるからです。

【アクセント】

accent アクツェント(ドイツ語)、アクサン(フランス語)、アクセント(英語)/accento アクセント(イタリア語)

アクセントは「強調」という意味を持つ単語です。
音楽でのアクセントは、「その音を強く」、「その音を強調して」、と一般的に楽典等に書かれていますが、「強く」、「強調して」と一言で言ってみても表現の仕方は様々で、漠然としています。具体的にどのように表現して演奏するものなのでしょうか。
今回は「アクセントの奏法」について語ります。

【アーティキュレーション記号を知る】

まずはじめに、「スタッカート、アクセント、テヌート、スラー」を「アーティキュレーション記号(=音の表現に関する指示記号)」と言います。
アーティキュレーション記号は大きく分けて「音価(音の長さ)の指示記号」「音量の指示記号」の二つに分かれています。
スタッカートは「音価の指示記号」、アクセントとテヌートは「音量の指示記号」、スラーは「音価と音量の指示記号」。これを楽譜では単体で、もしくは複合して音を表現しています。

複合して表現する場合には、「音価の指示」+「音量の指示」が原則になっています。(スラーは例外)
例えば、
「テヌート(音量)+スタッカート(音価)」、「アクセント(音量)+スタッカート(音価)」の組み合わせはあっても、「テヌート(音量)+アクセント(音量)」の組み合わせは基本的にはありません。

ちなみに、アクセントは、「音量の指示記号」です。ですから、アクセントが付いたからといって音が短くなることは基本的にありません。

アーティキュレーション記号の中でも、「アクセントは音量に関しての指示記号」ということを覚えておきます。


【アクセントを図形から考える】

記号を図形という観点で考えてみます。
アクセントはデクレッシェンド(decrescendo)ととても形が似ています。
これは「形は似ているが全く意味が違う」、また、「象形から解釈するのは危険」という考え方や意見もありますが、古典派音楽の時代に試行錯誤しながら音の表現を記号にしたことを考えれば、基本的には、図形からくる意味が全く無いとも言い切れません。
これは、手書きの楽譜を見てみるとよくわかります。
現代のように浄書された楽譜であれば、その両者は明確に見た目に違いますが、それをペンで書いてみれば、アクセントとでクレッシェンドは実に区別をつけるのが難しいことがわかります。
作曲家の自筆譜を見るとアクセントかデクレッシェンドか判別不明な楽譜も数多くあります。実際、アクセント以上、デクレッシェンド未満という微妙な表現が欲しかったということもあり得るかもしれません。

【アクセントの奏法について検証してみる】

アクセントは「強く」、「強調して」という意味ですが、具体的にどのような音形で演奏するのでしょうか。

ここから少し説明が難しくなります。
アクセントの奏法を理解するためには、まず大前提で「音の立ち上げ(発音)」の方法について知っておかなければなりません。

基本的に音の立ち上げの表現は3タイプに分けられます。

1.音量を膨らませていく、クレッシェンド型
2.クレッシェンドもデクレッシェンドもせず一定の音量に演奏する、テヌート型
3.音量を減衰させていく、デクレッシェンド型

音量を変えるスピードはさておき、実際に音の立ち上げはこの3通りしか存在しません。

音の出だしは、特に指示記号が書いていなければ、原則的に全て膨らんで出ます。(1のクレッシェンド型)(理由は#001 フレーズって何?を参照)

もし、テヌート記号(※テヌートは音を保つの意味)が付いている場合は、一定の音量で演奏します。(2のテヌート型)
そもそもテヌートという表現は、フレーズが常に音量が変化し、アップダウンしている原則があるからこそ必要で効果的な記号なのです。

そして、アクセント記号は三つ目の、「音の出だしが一番大きく減衰していく音の出し方」(3のデクレッシェンド型)に当てはまるのです。

つまり、アクセントは音の出だしが大きく、出した瞬間から減衰していくという音の形になるのです。

ちなみに、音が膨らんで出るクレッシェンド型は本当に少しの差ですが、0から人の耳に聞こえる音量になるまで多少なり時間がかかるので、実際の音の出だしより少し遅れて聞こえます。(よく、オーケストラは音の立ち上がりが遅いとよくいわれることですが、実際指揮台で聞くとそんなに遅いわけではないのです。)
それに対して、アクセントがついた音は、音の出だしの瞬間から大きな音で出るので、音の立ち上がりが速く、そして鋭く聞こえます。

ただ、アクセントを演奏する時にとても気をつけておかなければいけないことがあります。
次に一つの例を上げてみます。

もし、全音符にフォルテ、アクセントが書いてあった場合、どのように演奏するでしょうか。
実際にアクセントを演奏してみると、強調すればするほど、音が出た瞬間は大きいのに伸ばしている間の音が弱くなってしまうことに気がつきます。
本来、全音符を伸ばしている間がフォルテになっていなければならないのに、出だしにアタックをつけるとどうしてもそうなってしまうのです。
ではフォルテにするためにはどうしなければならないのでしょうか?

【アクセントは音の立ち上がりの指示記号】

実は、アクセントというのは音の立ち上がりに対する指示記号なのです。
それが四分音符であっても、全音符であっても、音が出る瞬間にのみ効力がある記号なのです。
音を強調して大きな音を出すことよりも、音の立ち上がりを速く、鋭く出すことによって強調するのがアクセントの表現の目的なのです。
当然、必然的に出だしの音も大きくなります。
基本的に音はロングトーンのような持続的に力を入れて出す音量より、瞬発力を使って瞬間に力を入れて音を出す方が音が大きくなるので、結果的にアクセントは強くなるのです。

演奏する上で気をつけなければいけないのは、アクセントがついた音は、音を立ち上げた後の音量が抜けないようにすることです。
瞬発力と持続力のどちらかにならず、両方を使うテクニックがアクセントを演奏するためには必要なのです。

【もう一つのアクセント、「マルカート」】


アクセントにはもう一つ種類があります。
山型になっているアクセントです。
ちなみに、この山型のアクセント、正式な名称をご存知でしょうか?
日本では、「アクセント」、もしくは「山型のアクセント」などと呼ばれることが多いでしょうか。
なぜかこの記号、これは日本だけでなく、世界中様々な呼び方をされ、統一された正式な名称が見当たりません。
おおよそ正式化は分かりませんが、欧米では「マルカート」と呼ばれることが多いでしょうか。もしくは、「マルテラート」(イタリア語でmartellare(槌で打つ)の意味。)とする文献もみられることがありますが、ここではマルカートとという呼び方で説明します。

マルカートとは、イタリア語で「印をつけた」の意味で、英語の「マーク(mark)」と同じで、意味は、「一つ一つの音をはっきり演奏する」ことです。

さて、この「マルカート」、同じアクセントでも音の出し方が違います。

【「マルカート」の奏法】

では、具体的にこの記号はどのように音を表現するのでしょうか。
この記号も音の立ち上がりの指示記号です。

「マルカート」は、アクセントが「3.音量を減衰させていく、デクレッシェンド型」だったのと対象に、「マルカート」は「1.音量を膨らませていく、クレッシェンド型」の音の出し方をします。

アクセントが、鋭く音が立ち上がり、すぐに減衰するのに対し、マルカートは、瞬間にクレッシェンドするように、押し出すように音を立ち上げます。

アクセントが出した瞬間から音が減衰するのに対し、マルカートは逆に出した瞬間、音が膨らんでいくので、アクセントより、マルカートの方が必然と音量が大きくなるのです。

アクセントと同じく、基本的に音はロングトーンのような持続的に力を入れて出す音量より、瞬発力を使って瞬間に力を入れて音を出す方が音が大きくなるので、演奏する上で気をつけなければいけないのは、音を立ち上げた後、音量が抜けないようにすることです。
これも同じく、瞬発力と持続力のどちらかにならず、両方を使うテクニックがアクセントを演奏するためには必要です。

【まとめ】

1.アクセントは音量に対する指示記号。

2.アクセントは、音の立ち上がりの指示記号である。(立ち上がり後には影響を及ぼさない。よって、立ち上がった後、音量が抜けないように気を付ける。)

3.アクセントとマルカートは音の立ち上げ方が対照的

今回は、「アーティキュレーション記号」の中から「アクセント」についての解説でした。

スタッカート編、テヌート編、スラー編他、また改めて取り上げたいと思います。


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奥村伸樹|指揮者
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