くろいろ
夜。
空の色は夜になっても変わらない。澄み渡った青空も、曇り空も、ただそこでじっとしている。
治したはずの虫歯が痛い。顎を突き抜けて頭の先までピクニックをしにやってくる。砂糖をいっぱい使った甘いケーキと、リンゴがまるまる入ったアップルパイをもって。朝が来るのを待っている。
小さな男の子が私に教えてくれる。
この歯はぐらぐらしているんだ。たぶん頑張ったら抜けるんだけど、もうちょっと一緒にいてあげてもいいかなって。って。
それでもいいんじゃない?たぶん。
痛いのは嫌だしね。
落ちる。
口の中が血生臭くて、歯がないところが腐ったトマトみたいに。
不快に柔らかい。
黄色じみた歯には黒い斑点がいっぱいついていた。いや、穴なんだからなくなっていたのか。
なんにせよもう痛みに悩まされることはない。
屋根の上に。できるだけ高く遠くに投げる。音は聞こえない。
腕が少し疲れただけ。
全部忘れてしまおう。あの時の痛みも。あの汚れも。
じきにもっときれいなものが生えてくる。
夜になる。誰も来ない。何も。
少しだけ不安になる。
切り離された彼は今頃一人でその痛みを抱えているのだろうか。
彼に繋がっていた血管は、彼から伸びていたのだろうか。
もうそろそろどこか地面には落ちたのだろうか。
夜は、夜空は、夜の色は。
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