木工・漆芸 督田昌巳さんを訪ねて
こんにちは、のぶちかです、お世話になっております。
さて久し振りのnoteは、鹿児島の督田昌巳さんの工房へこーすけ(妻のあだ名)伺った際のインタビュー記事となります。
のぶちかは4年前に督田さんの作品を初めて拝見した際、侘びたテクスチャーのそれが漆器と聞いてとても驚き、
「焼き物ではなく漆芸でこの様な表現が可能になるのか!」
と、強く感動したのです。
また、テクスチャだけでなく古陶磁や茶陶の優品を彷彿とさせるボディ作りと相まって、茶陶好きののぶちかとしては強く強く惹かれるものがありました。
それから2年位、ずっとインスタの投稿を楽しみに過ごしていたのですが、遂に我慢できず2022年に工房へ伺い、オファーさせて頂いた次第です。
そしてこの度、それほど待ち望んだ督田さんの個展が遂に開催できる事となりましたので、今回も事前にインタビュー記事を起こしました。
ファンの皆様だけでなく、古陶磁や茶陶ファンの皆様にもぜひ御一読いただけましたら幸いです。
のぶちか
木との出会いや木を素材に選ばれたきっかけについて教えて下さい。
督田さん
身近に木があったんでしょうね。もともとそのずっとなんか作ってる感じだったので。別にそれは自分で選んだのではなくて、なぜだか木だった。でもきっかけは別にないです。
のぶちか
そうなんですね。もういきなり木でしたか?
督田
いや、ちっちゃい頃はガラクタ拾ってきて分解したりとか。ずっと小さい時からとにかくガラクタが好き。あとは壊れたものが好きです。
のぶちか
それはなぜだと思われますか?
督田さん
壊れたものが好きな人に生まれてきたんでしょうね笑。
のぶちか
幼少の時はその様な感じで、学生時代は美大だったりとか。
督田さん
いえ、(美大には)行ってないです。音楽やったりしてました。今でも音楽はギター弾いたりしています。
のぶちか
それで先ほど(インタビュー前の雑談時)作品を表現される際に音っていうワードを(使われたのですね)。
督田さん
音って言うと音にこだわってしまうんですけど、例えば映像っていうのは見えるから直接その印象が頭の中に入ってくるんですけど、音っていうのはまず見えないもの。
本来、見えないものってみんなは信じないでしょ。だけど、音は見えないものだけど聞こえてくるし、音が聞こえると音から映像だったりとか、その感覚がすごく広がってくるってところで…。音っていうのはうねりなんです。
だから音って言い方をしたけど、雰囲気っていうか印象というか、オーラっていうか、そういう事なんですね。音って言い方をするのが一番分かりやすいかなぁと思って。
のぶちか
僕自身、陶芸に関しては幼少期から身近だったのですが、木に関しては身近でなかった分、陶芸以上に作る上での難しさを感じていますが、木でのもの作りに対して最初、練習はどの様な感じで行われていたのですか?
督田さん
今作ってるものはもうそのアドリブっていうか。器系は感覚で作って自分の浮かんできたのをすぐ形にしやすいんですが、家具っていうのは指物なんでまずほぞで組む作業があるから図面を引かないといけないし、木工技術に加えて木の使い方とかそういう色々な決まりを知らなきゃいけないんです。
確かに陶芸と比べると、そこは大変な点はたくさんあるんですが、例えばそれを理解するとそこから自分でしっかり考えて作っていけば、色んな知識がどんどん増えましたし、長くやればやるほどそういうのを覚えていくんですよね。
ただ、家具をずっと作ってると、自分の中に浮かんだ絵を形にする為に、まず図面引いてってやっている内に、その一回作ったものをなぞって作ってるだけっていう、そのただただコピーしてるだけっていう感覚になっちゃう訳です。
家具作りは図面を引かないと作れないんです。その構造を考えて作りとか形まで考えなきゃいけないところがあって。もうどうしても不可能な形があるんで、ほぞ組みだとね。釘打ったりビス打ったりだとどうにでもなるんですけど。
でもそういうのをずっと作っている内に、そういう風にただただコピーしてるのが嫌になって。そしたらアドリブで作れるものとして「ちょっと作ってみれば、こんなの」って言ってくださった作家さんがいて、その方のきっかけがあって、器とかそういうオブジェを作りだしたらちょっと面白いんですよね、自分のすごく性格に合ってて。
そういうのを作り出してから逆にそういうアドリブが家具の方に帰ってきて、家具とかも図面を引かないで、絵だけ簡単に書いてそこから作る様な感じになってきましたね。だからそっちの方が全然面白いです。
のぶちか
もう全て独学なんですか?
督田さん
習うっていうプロセスがあった方が一番良いかもしれないですけど、逆に人によってやり方が全然違うんですよね。だから習う人によって違うという事は、答えはその人それぞれが色んなやり方を見つけられるっていう事だと。ただ絶対に決まりがあるんですけど、そこはもう単純な少ない事で、独学でも意外とできました。
のぶちか
凄い…。
督田さん
当時は教えてくれる所が無かったし、今みたいにユーチューブ先生もいなかったんで、自分で本を調べてそっからやっていくんですけど、(それでも分からないところは)聞きに行ったりして。で、独学しか無かったから独学です。
のぶちか
作る為の工具とかあるじゃないですか。ああいうのとかも何があったら良いのかとか…。
督田さん
分かんなかったですよ、全然笑。だからやりながら覚えていきました。僕は頭で考えて色々こう計画して練る前に手が動いちゃうんで。
だからその何も無い時から、道具とか分からない時から工具を揃える前にもう作り出しちゃう。で、作りながらやってると、こうする時に何か要るって気付いて、その道具を調べて買ったりとか、そういうのが多かった。「あっ、こんな作り方してたけど、実はこうやって作るんだ」と、分かってくる事が多かったですね。
のぶちか
練習中の期間は、他に何かお仕事とかもされながらだったんですか?
督田さん
昔、音楽やってたりした時もバイトみたいな事をしながらやろうとしてたんですが、色んな仕事をちょこちょこっとしようとしても、僕は結局作る事しかできなくて、どうやら笑。それをどうやって仕事にしていこうかっていう様な、食べていく為にこの仕事をしてるっていうそういうちゃんとした事ではなくて。
僕がここにまだ生き続けられているのは、自分が作る事しかできなかったけど、作ったものがどうやらちょっとはお金になって、家具でもなんとかその売れてくれたんで、たまたま生き続けていられたっていうだけで。もしそうじゃなかったらまぁとっくに死んでる訳で。だからどうやって生きていこう?どうやっていこう?と考えられる人を尊敬します。
のぶちか
器制作を始められて何年位になりますか?
督田さん
5~6年(2022年時点)だと思います。茶稽古を始めてからが4年位経ったから…。
のぶちか
どちらですか?
督田さん
裏千家です。
のぶちか
僕も裏でした笑。
督田さん
あっ、そうですか笑!
のぶちか
はい!結局、家業的に「お茶やれないとダメじゃん」みたいな事を親に言われてそれで。高校の時だけですけど、だけど今になってとても習いたいです、お茶とお華をもう一回ちゃんと。
督田さん
華は良いですよね。
のぶちか
そうですねぇ。
督田さん
それこそもう一番、音がしてくるし。なんか同じような形でもどっかが違って。そういうのがやっぱり好きなところですね、日本的なところっていうか。西洋の美って結構足し算が多くて目で見て形で分かりやすい…、その(造形の)複雑さとか。
日本の美的感覚っていのは、ものがここにあったら本当の美しさは作られたものそのものじゃなくて、そこに及ぼす影響のところにあるっていうか、気配が漂うというか。そういう美しさはすごく惹かれますよね。だからお茶を習っているんですけど。お華もできたら習いたいなぁと思いつつ、そこまではまだいってないんですけど…。
のぶちか
器制作に関してお茶を習われた事で何か変化がありましたか?
督田さん
最初は今ほどの気持ちは無かったんですが、お茶(稽古)をしたりする事でだんだん器っていうものが分かってくると、凄く面白いです、楽しいし。すごく今、色々な面から器が好きです。ただ、形を見て音を聞くだけなんで。知識というのは全くないんですけど、色んなものを見て確実に器に関して自分の好みが出てきたんで、面白いなぁと思います。
前は見ても好きかどうかも分からなかったんですけど、今は器を見た時、「あぁ、これ好きだ」ってものが出てきたんで、なんとなくちょっと楽しいですよね。自分で作るものにも少しずつ(影響が)あるのかなぁ、とは思いますけど。
のぶちか
木は今、何種類ぐらい使われていますか?
督田さん
普通に使うのは家具を作る時からずっと使ってるブラックチェリーという材料なんですけど。もう材料によって合う合わないがすごくあるので、この材料だったら自分の見えてるものに近付くってものがあるんで、たくさんの種類を使う事はできないんですけど、それで作ったりとか。あとはその辺にある丸太とか、「どっかの道路で木を切ったからあるよ」って言われたら、その木をチェンソー持って取りに行ったりとか。
のぶちか
ブラックチェリーと雑木というかランダムみたいな…。
督田さん
チェリー材と山桜とか栃の木とか栗とかその時その時かな。あとは胡桃もあります。
こーすけ
使う上での注意点などはありますか?
督田さん
全然、気を遣わないでそのままガンガン使ってもらえれば良いですよ、もう表面も剥がれるかもしれないけど。あの変わらないものってつまんないじゃないですか。使っていく上でその一つ一つが絶対変わるはずなんですけど、変わった先に割れたりとか、例えば、削れて嫌な感じが出たりしても、僕が木で作ってる物はメンテナンスすればすぐ元に戻るっていうか、ちゃんとできるんで。割れても陶器の金継ぎよりはもっと楽に直せるし、割れて直したらカッコ良いじゃないですか。
こーすけ
普通にお料理を盛って、洗って…。
督田さん
そうですね。洗う時にはスポンジだと多分スポンジの方が破れちゃうんで、(表面が)ザラザラしてるから。洗剤も使っても良いんですがもう綺麗に手で洗って、あとはしっかり乾かす事です、カビが生えちゃうので。
こーすけ
すぐ拭き取る方が良いですか?それとも自然乾燥…。
督田さん
自然乾燥でも良いです。拭き取る時は注意しないとタオルが表面に付いたりするので、だからもう立てかけて乾燥させてますね。
こーすけ
そういう風に使われてるんですか?
督田さん
はい、うちでもその様に使ってます。
のぶちか
いわゆる漆器みたいに(神経を使う扱い方)じゃなくて…。
督田さん
いわゆる漆器は重ねると傷が付きやすかったりと色々大変な面がありますが…。
のぶちか
もうちょっとカジュアルに気を遣わずに使っても大丈夫という感じですかね?
督田さん
はい。
こーすけ
例えば、料理の油染みが出た際はどうなるんですか?
督田さん
うちで使ってる皿だと種類によっては油染みが気にならないものもあります。素地をわざと古っぽく見せているタイプの皿は色が変わったりムラが出ちゃったりしますが、それを良いって言われる方もいらっしゃるし、もし嫌な方から「元の状態に直せますか?」言われたらちゃんと直します。
のぶちか
ちなみにメンテ費はおいくらなんですか?
督田さん
販売してすぐの時でも漏れる事がたまにあるんですよ。っていうのは木の性質上、どうしても動くので。ちゃんと検査するんですけど見落としたりする場合もあるので、作品として出してすぐ漏れ出したりしたものは、逆にメンテナンス料も無料ですし、送料も僕が負担してお戻ししたりしています(2022年3月時点)。
のぶちか
では普段使っている器をメンテナンスしたくなった場合は?
督田さん
材料費と少しの手間賃で充分です。その都度、器の状態を見て相談させてください。
のぶちか
これは心強いですね!お客様が喜びますね。買ったは良いけど「大事にしたい」っていう気持ちが強くて使えないままでいるケースも良く耳にするじゃないですか。それじゃあもったいないですもんね。
督田さん
はい。ぜひガンガン使ってください笑。
—終―
インタビュー
2022年3月17日
◆督田昌巳 木工展
会期:2024年6月8日(土)~13日(木)
営業時間:土日10時~18時/平日13時~18時
会場:JIBITA 萩市東浜崎町138-6
オンライン個展:個展終了後(詳細未定)