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第十三話 心が満ちたりてくる時 「ねじれ女子の婚活物語」〜38歳OL マリエさんの場合

(心と体がつながるって、どんな感じなんだろう?)
マリエさんは最後の一口のキッシュを美味しく味わいながら、そう思いました。

結局マリエさんは、何も買わずにアパートに帰ってきました。

あのピンクのシフォンのワンピースのことは、ずっと気にはなっていましたが、
購入に至る決断をすることは、今は無理そうな感じだったので諦めたのでした。


床にペタンと腰を下ろして、窓を見上げてみると
美しいオレンジ色の夕陽が今にも沈んでいくような情景がみえました。

マリエさんは少しの間、それをボーッと眺めていましたが
お腹がかなり減っていることに気が付きました。

(お腹空いたな 夕食どうしよう?)
いつもだったら‥ 棚の中にあるアレ‥と思いましたが、さっきみたいに自分に聞く、をしてみることにしました。


(夕食は何食べたい?)
と、マリエさんが自分の心に聞いてみました。

するとお豆腐に薬味がたくさんのった美味しそうな冷奴のイメージが湧いてきました。

(え、豆腐食べたいの?)

冷奴にはネギとか生姜とかミョウガとかたっぷりのっている感じです。
生姜はチューブだと安いのですが、ミョウガはそんなに安くありませんし、冷奴以外に使う料理がわかりません。
(豆腐とネギとかミョウガとか生姜チューブ買うだけでコンビニのお弁当の価格とおんなじぐらいになるじゃない)
とも思いました。

そしてスーパーまで行くのもめんどくさいと思いました。

戸棚にはさっき真っ先に頭に浮かんだ常備用カップラーメンが入っています。
いつもだったら、これを迷わずに選ぶマリエさんです。


「めんどくさがらないで、スーパーまで買いに行くんだよ。カップラーメンとか栄養のないもの、いい年齢の女子が食べたらダメだよ。ネギ切ったり、生姜を擦ったりする手間隙を自分にかけてあげるのって、女性はすごく大切ですよ」
と、超厳しいりーくんの声が聞こえました。

最後がなぜか丁寧語だったのが、まるで祖母が話しているようだとちょっと苦笑いしながら、
「はいはい」
と言いながら、マリエさんは重い腰をあげてスーパーに買い物に出かけたのでした。

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「ああ、美味しい。薬味たっぷり冷奴って、こんなに美味しかったんだね」

マリエさんはたっぷりのネギとミョウガ、おろした生姜がこれまたたっぷりとのった冷奴が、こんなに美味しいだなんて知らなかったと思いました。
この冷奴に鮭をソテーしたものとトマトスライスをプラスして夕食のメニューにしました。

(なんだか、自分を大切に扱えている気がする)

「夕飯ヘルシーだね。夜ご飯が軽いと、朝お腹が減るしダイエットにもなるし、いいよね」
さっきまで声だけだったリーくんは、今はかわいい黒うさぎとしてマリエさんの横に寝そべっています。
りーくんの頭を撫でながら、マリエさんは自分を大切に扱えていなかった過去を思い出していました。

それは恋愛だけに限らず、食事や洋服や、遊びもいつも友人の後ろからついていく、そんな感じだったな、と思いました。

そういえば、小学校の時にお母さんが買ってきた洋服を着て登校したら、同じ洋服を着ていた同級生がいて、とても気まずく恥ずかしい思いをしたことも思い出しました。

マリエさんのお母さんがよく言う、
「あなたのためを思って」というフレーズも、なぜか頭の中にこだましています。

「時間がかかってもいいんだよ。女の子はまず先に、自分を大切にすることが大事なんだ。
マリエさんがマリエさんを大切に扱っていると、マリエさんを大切に扱ってくれる男性がやってくる。逆にマリエさんを大切にしてないとそんなことをする人が寄ってくる。どんな人かは、マリエさんが知っての通りだよ」
マリエさんに撫でられて、気持ちよさそうにリーくんが言いました。

「自分を大切にする、かあ。なんか大きなお題だなぁ。私そういうのやってきてないから、慣れるのに時間かかりそう。」

「大丈夫だよ。そんなに時間はかからないよ」

「自分で選ぶのは、なんか失敗しそうで怖いけど」

「大丈夫。失敗しないよ。今日も自分の気持ち、大切にできたじゃない。」
りーくんは気持ちよさそうに目をつぶって、マリエさんに言いました。

マリエさんは自分で選んだ美味しいキッシュや、自分のために用意した夕食を思い出しながら
心が前よりもずっと満ち足りた気持ちになっていることに気が付きました。


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マリエさんの毎日は、なんだか忙しくなってきたようでした。

毎日のお弁当に夕食づくり。
お化粧品のチェックでドラッグストアを会社の帰りに回ったり、ダイエットサイトをチェックしたり。

お酒はとりあえずやめたらどうなるのかを実験すると体重はするすると落ち、合計で三キロほど減っていました。
毎日のウォーキングや簡単なストレッチなども家でやっています。
結婚相談所は、あと2カ所、話を聞きに行く予約も済ましていました。


ある日のランチの時間。

「マリエさん、痩せたし、お肌がなんかきれいになったんじゃない?艶々だよ。なんかやってるの?」
とゆきこさんが聞いてきました。

「あ、ご飯を玄米に買えたり、お酒をいまやめてるからかもしれない。お腹の調子がいいからかなあ」

「へえ~。全部自炊だよね~」
ゆきこさんは相変わらずお母さんが作ってくれたお弁当を食べています。

「実はね、結婚相談所に登録しようと思ってて。」
マリエさんがボソッと言うと、ゆきこさんは驚いた顔をしました。


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