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経営戦略 総論(4)

思い描いた経営戦略がうまくいかない事象について、もう少し別の観点から深堀した書籍と連載を紹介したい。

5冊目としてロンドン・ビジネススクール准教授フリークヴァーミューレン氏(当時)が書いた「ヤバい経営学」を上げたい。

いままで当たり前とされている経営戦略や経営手法と実際の経営者の意思決定を検証していくと、「戦略的意思決定などしていないのに、今回の成功はわれわれの戦略によってもたらされた」と後付けされた成功物語に基づくものが多かったり、実際には別の弊害が出ていたり、一時的な成功の後に大混乱が生じたことには、あえて触れていないことが多い。

この本ではそうした事例を数多く上げて、物語風に面白おかしく検証しているが、読み進めていくと、これまで定説とされた戦略(組織改革、M&A、MBO、イノベーション等)や成功事例と言われる企業や経営者に100%の信頼・信用はできなくなる。

本書の最後に「裸の王様は別に裸だって構わない」と書かれているが、ビジネスのありままの姿はそういうものだし、バカらしいことも起きているかもしれないが、経営者自身が自分は裸であることを認めれば、風邪を引く前に何かを起こせるはずだと。

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さて、6冊目は一橋大学 沼上幹教授の「経営戦略の思考法」である。

もう絶版になってしまったようだが、経営学の立場から経営戦略やマーケティングの定説に、なにが実践時の足かせとなってうまくいかないのか、論理立てて分析している名著だと思う。
初版の帯には「先手必勝の矛盾、シナジー崩壊、選択と集中の失敗、組織の暴走」とあるが、これ以外にも「顧客の声に耳を傾けてはいけないとき」や「差別化戦略への疑問」も興味深い。

この中で私自身は特に「シナジー崩壊」の中で述べられている「シナジーのコスト」が最も実務の中で苦労してきた論点だ。事業が拡がり、多くの他組織やグループ会社、場合によっては海外事業会社との連携により、全体最適やスケールメリットの観点からはシナジー効果が発揮できることが明らかなのに、実際にはそれぞれに利害が絡みあい、一筋縄ではうまくいかない。
なぜなんだ?と思っていた時に、この本の中で「経営幹部はシナジーを発揮して」と簡単に言うが、「追加コストなしにシナジー効果が得られると多くの人が誤解している」と、うまくいかないメカニズムを端的に説明していた。自分には目から鱗だったが、実際の経営の現場でも日本人的な「和の精神」と同程度で議論されている「シナジー効果」がお題目に終わってしまうのは、このメカニズムが日本企業にあまり理解されていないためだと思われる。

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最後に、日経ビジネス誌に最近まで連載されていた杉浦 泰さんと楠木健教授の「逆・タイムマシン経営論」を紹介したい。

これまで流行った経営コンセプト(バズワード)について、「サブスクリプション」を皮切りに、「ERP(統合基幹業務システム)」「SIS(戦略情報システム)」「組織改革」を上げ、それらの多くが「飛び道具トラップ」の罠にハマってしまったと論じている。
毎回、大変興味深く読ませてもらったので、続編に期待するとともに、一冊の本にまとめてもらえたらと思う。

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