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事業部制組織(3)

事業部制を敷いた企業の多くは事業部ごとのP/Lを作成し、売上と利益責任を明確化するのが常だが、ここにも経営実務上では悩ましい論点が存在する。

事業部利益と管理可能利益

代表的なものは「管理可能利益」と全社共通費配賦後の「事業部利益」のどちらを事業部業績もしくは事業部長の成績とするべきかだ。

基本的な考え方について理解されたい方は文教大学 志村正教授のHPにコンパクトに業績管理会計についてわかりやすくまとめられた資料(PDF)が載っていたので、まずは読んでみて欲しい。

このテキストにもあるように、一般的な教科書や管理会計講座では「組織業績」としては「事業部利益」「(個人)業績評価」としては「管理可能利益」で評価すべきとされている。

しかし、実際には組織別P/Lと業績評価用P/Lの2種類を用意するのは煩雑といった点や、責任センターの長である事業部長には管理不能費を含めた共通費用や本社スタッフ費用も意識して利益を出して欲しいといった点もあり、事業部長等個人評価も、事業部貢献利益や事業部利益で見ているケースが多いのではないだろうか。

さすがに業績評価上は、管理不能費や共通費配賦については計画時の概算額や配賦率を固定して、最終的な管理不能費の増額による再配賦の結果だけで評価上の事業部利益も下げて評価することがないように工夫しているケースが多いと思う。

そうであれば、後は計算の問題だけなので、管理可能利益で評価しても良いものを「事業部利益」で評価することが多いのは、個人的にはこれらの要素に加えて、伝統的な日本企業(特に流通業や部品製造業)では「あまり暴利を貪ってはいけない」「利益を出し過ぎると顧客や納入先にとやかく言われるから」といった考え方・志向が根底にあるからではないか。
事業部利益ベースでは数%の利益率でも、貢献利益では十数%、さらに管理可能利益で見れば20%や30%といった利益率になり、全社の営業利益率や経常利益率との違いに社内組織間で心理的な戸惑い・露骨な対立が発生してしまうからではないだろうか?

俺の事業部は30%以上も(管理可能)利益を上げているのに、全社の(営業)利益率が低いのは全社共通費やスタッフが多いせいだ! 
いやいや、企業としては内部統制や社員のエンゲージメントなどに以前より費用をかかるのが時代の要請だ。事業部にはもっと利益を上げてもらわないと困る。事業部利益ベースでは数%しか儲かってないだろ。云々

多くの管理会計の教科書では、事業部制の管理会計について数ぺージ記載する程度で、(組織と人の)マネジメント・コントロール機能として重要な論点についてまでは、あまり深く掘り下げていないように思える。

また、これらの論点に加えて、日本企業では財務会計と管理会計(責任会計)の整合性を厳密にとろうと「財管一致の原則」が根強くあるのも課題の一つだと感じているが、これについては別テーマとして今後、取り上げてみたい。

事業部制の業績評価

事業部制の業績評価について深く掘り下げた書籍として、デービット・ソロモンズ教授の「事業部制の業績評価」があるが、これも残念ながら絶版になってしまった。英文初版は1965年。その日本語訳復刻版だったそうだが、以下の目次構成になっている。

第1章 事業部制組織
第2章 事業部制会計と会計基準
第3章 事業部業績尺度としての利益
第4章 事業部利益測定上の諸問題
第5章 投資利益率と残余利益による事業部業績の評価
第6章 事業部間の振替価格
第7章 事業部の業務活動に対する予算統制
第8章 非財務的な業績測定尺度利益

今回は事業部の業績評価のうち「利益とは何か」についてのみ、述べさせてもらったが、本書籍ではさらに進めて、「事業部業績の利益」とは何を物差し(尺度)としてみるべきか? 社内取引に関わる振替価格や予算統制の問題、そして第8章では後のバランススコアカードにもつながる非財務的な業績評価尺度といったテーマについて触れている。

多くの日本企業では事業部制が導入当初に策定した「管理会計制度」をそのまま30~40年以上踏襲しているところが多いかと思う。しかし、その根底には当時、未整理だった課題や割り切って作った制度を内包したまま、今日まで来ていることも、この機会にぜひ理解しておいてもらいたい。


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