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【ショートショート】虫の知らせ

忘れられない恋だったとしても
現状、貧乏暇無し日々の忙しさ
それから新しい出会いの分
在りし日の淡い思い出なんてものは
いつぞや記憶の片隅に追い立てられる。

あの子が好きだったガクアジサイの香りがしても
今じゃ季節の美しさにただただ心が躍るだけ。
藍は藍より出でて愛なんてご大層なものよりも
蒼くさく呑気に咲くのみ。ぱっぱらぱぁだ。
古傷の痛みなんてとっくのとおに寛解していた。

明けもや朝露が霧がかり
いきいきと伸びる朝顔のつたと
くたびれたフェンスの少し淋しい緑のコントラスト。
浮世の絵の如く艶やかな明星と天照す朝日
それからお役御免の月が映える。宵闇と朝の間。

挨拶もなく夢に出て来たあなた。

虫の知らせか。
逝ってしまったのか、と涙を流す私。
醜聞とはまさにこのこと。
青天の霹靂。潮の満ち引き。
塞がっていた傷口がミチミチと裂けひどく痛む。







「赤ちゃんが生まれたらしいよ」

旧友からの報せ。
そうか、と安堵する私。

そういう虫の知らせも有るのか。
いとをかし。
吉報に化けたスキャンダル
藍より不可思議。蒼く澄みわたるアジサイ。
さようなら。
どうぞ、お元気で。



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