【ショートショート】うらめしや、いとおしや

「宇宙人と幽霊、どっちが強いか？」っていう身も蓋もないディベートごっこを昔した事がある。

ボクは宇宙人側に立ち、キミは幽霊側に立った。

　ボクの言い分は、霊の存在も（まったく信じちゃいないが）一種のエネルギーだから、電子や陽子や中性子みたいな粒で、宇宙人はそういうエネルギーの粒子を操って分裂させたり、無理やりに融合させたりも出来る。そういう科学技術を駆使してユーレイもヒトも街も空も、宇宙に存在する全ての物体を破壊したり動きを止めたりできる。だから宇宙人の方が強い。という空想科学だった。

　キミの言い分は、宇宙人に敵意や支配欲があるならそれを上回る敵意と悪意で死霊という特権を駆使して何度も呪うし、それは物理的な理屈では破壊出来ない。宇宙人が目や耳や脳と云った器官を有するなら、本来それら器官が持つ＂危機に備える＂という恐怖に対するセンサーも当然あるはずだから、強烈な恐怖、すなわち強烈なストレスを与えて脳を破壊することも可能。よって幽霊の方が強い。といういかにも精神科医らしい見解だった。

昨年キミは持病を悪くさせて逝ってしまった。
そして今度は私の番、というより我々人類の番だ。

──巨大隕石はあと数時間で、大気圏に突入します。このニュースをご覧になっている全ての皆さん、つまり全ての人類。祈りましょう。今はもう、今やもう…

　皮肉にも、全てのメディア、民族、宗教、インフルエンサー、政党、テロリストたちが立場や主義の違いを超えて今この瞬間、空に向かい手を合わせている。
　元々我々は「平和」だの「正義」だのを掲げ、争ってきた。今や全人類が皆同じ脅威に直面している。
＂敵の敵は味方＂の理論で我々は、人類史上最初で最後の団結を果たした。

「やれば出来るじゃないか、人類」

ボクにはその声が聞こえた。
キミの声だ。

──あ！え？巨大隕石が…なんと！？嘘だろ…奇跡です！奇跡が起きました！あの巨大隕石が、まるで砂で作った城のようにサラサラと宇宙の塵となって消滅していきます！信じられない！アンビリーバーボー！

あのディベートは結局、お互いが譲らず決着がつかなかった。

だからキミがこう言った。

「じゃあもし、宇宙人の幽霊が現れたら、そいつがきっと一番強いんじゃないか？ハハハ！」ってね。

ありがとう。

私は宇宙そらに向かってそうつぶやいた。