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【ショートショート】 恋煩い
ふと、ひとりで居ることが怖くなる。
人肌恋しいとか、猿のように腰を振りたいとか、守るべき対象が欲しいとか、これから先何十年独りぼっちでいることが退屈だとか、色々な理由がマーブル状に混沌として、漠然とひとりで居ることが怖くなる。
だから、画面の向こうの誰か目掛けて「俺はここだ!誰か助けてくれ!」とSOSを送ったり、近所で出会えそうな異性を見つけようとしてみる。
何の気休めにもならない。
「ホ別イチゴでOK」だの、「車は何乗ってますか?」だの、そうやって短いやり取りを交わした後に番外に追い立てられて終わる。
40手前で、恋だの愛だのちゃんちゃら可笑しいのだと、お前は箸にも棒にも掛からないのだと、現実を突きつけられ終わる。また時間を置いて、空虚な画面を見ては溜息を心の中で吐き出して、暇を持て余す。
それの繰り返しだ。こんな大人にはなりたくなかった。
ここまでの吐露で、煙草があと1本となった。
まあいいさ、と私は近所のコンビニまで煙草を買いに行く。
もわっと湿度を多く含んだ、疲労感を更に助長させる外気。こういう陰湿で鬱陶しい空気感にいつから抵抗する気概というものを無くしてしまったのだろうか、とオレンジ灯が続く国道沿いを歩きながら思う。
コンビニには外国人店員が一人いて、パンが積まれたケースを床に広げ、陳列棚の商品を入れ替えている。
私はレモン酎ハイと、アイスコーヒー用のカップに入った氷をレジに持っていく。
「すいません」、「…あのー、すいませーん」
何度か呼びかけ、ようやく外国人店員がレジにやってくる。作業を変なタイミングで止められ、苛立っているようだ。
「165番ください」
チッと舌打ちしながら店員は、煙草の陳列棚に向かう。本来なら私が苛立って一喝でもしてやれば良いのかもしれないが、それが出来ない。それが情けない。
私は、逃げるように外へ出て、喫煙スペースを目指す。そうして、袋から煙草のピン箱を取り出しラベルをはがし一本拝借する。
そして、私の背丈よりやや小さな郵便ポストを右隣にし、そのポストの上に先程買ったカップ氷と酎ハイを並べ、それらを調合していく。
煙草とキンキンに冷えたレモン酎ハイ。
「ただいま」、「おかえり」
酒呑みの最期のような一人芝居。
唯一の愉しみだ。
ゆっくりと炭酸とほのかな柑橘系の酸味がシュワシュワと喉の奥へと流れてゆく。心地いい時間だ。
「こんばんは」
その声は、おぼろの月に化かされたせいか、はたまたほろ酔い気分の一人芝居のせいか、分からなかった。
「こんばんは」
どうせ冷やかしか、通話中の誰かの声だろうと思い、半信半疑でそう答える。
「ライター持ってませんか?」
その声は私に向けられたものだった。
「あっ、…はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
「かわいいライター。野生爆弾のくっきー?」
「あはは。そうそう。好きなんですよ」
「面白いですよね、あたしも好き」
長く短い夏。
久しく罹っていなかった熱病。
それがキミとの出会いだった。
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