【創作大賞応募作】 あまのじゃく
『神は死んだ』じゃなくて
別のカタチになっちまったのさ。
──また始まった。
時々この男は、癪に障る物言いで語り出す。
続けて男はこう言う。
あるときは海。
あるときは雷、あるときは土や山。
エジプトでは太陽を崇め
エルサレムではヤハウェを唯一神とした。
泥のなかで咲く蓮の花から、仏は生まれた。
では、現代の神仏とは何だと思う?
インターネットやSNS、宣教師含むメディア?
オーディンや毘沙門天にとって替わった核兵器?
消費の連鎖で底なしの渇きに突き落とすグローバル?
寿命を100年に伸ばし、有りもしない種を開花させるテクノロジー?
そうだ。そいつら全てが現代の神であり仏さ。
ヘッヘッヘ。"世代交代"したのさ。
そう言って、グラスにウイスキーをなみなみ注ぐ。
男の身体中が樽臭い。
この店のバーテンダーは女。
カウンター越し。客がいるにも関わらず、セブンスターを吸ってスマートフォンを操作している。
こいつもダメだ。
お前も一杯どうだ?…へっへへ。
全くもって、変な店に来てしまった。
とことん運がない。
そうだ。私には運がない。
だから私は死んだのだ。
通り魔に腹部を数回刺されて死んだのだ。
──いやいや待てよ。
私は死んだ。
じゃあ、ここはどこだ。
す、すいません。
ここのマッチをいただけませんか?
ライターのオイルが切れてしまって…
バーテンダーの眉間にぐぅっと皺が寄る。
あからさまに苛立った形相。
せっかくの美人が勿体無いほどクソ女だ。
バーカンをスッとマッチ箱が縦断する。
表面に描かれた少女と犬が顔を寄せ合っている。
こんな店には似合わないほど愛嬌たっぷりだ。
箱には『Heaven』と印刷されていた。
──ヘブン。
そうか、ここがあの世か。
ほう。もう気がついたか。
例の酒浸りの与太男が、うつらうつらと眠たそうにしながらこちらにそう言う。
俺はかつての神。
そしてこのバーテンダーがかつての女神。
生憎だがお前は地獄行きだ。
──そうして私は、
再びこの世に生まれた。
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