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『タクシー運転手〜約束は海を超えて〜 』『1987、ある闘いの真実』 映画で学べる80年代韓国民主化闘争

香港でも連休なので、ちょうどムービープラスで韓国映画『タクシー運転手〜約束は海を超えて〜』(17年)と『1987、ある闘いの真実』(17年)があり、夜中に二本立てを楽しもうとビール片手にボタンを押した。

映画の出来はすこぶる良く、二本続けて観ると、80年代韓国軍事政権時代の民主化運動の闘いの歴史「光州事件」と「民主抗争」を知ることが出来、韓国の近代史に疎い自分にはとても勉強になったのだった。

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タクシー運転手〜約束は海を超えて〜

後にアカデミー賞受賞『パラサイト 半地下の家族』(19年)主演で、世界に名前と顔を売った韓国を代表する名優ソン・ガンホが演じる主人公キムは、妻を亡くし11歳の娘を一人で育てるシングル・ファーザー。ソウルで個人タクシーの運転手をしながら生計を立てている。
日本のドイツ公共放送(ARD)特派員のピーターは、ある日東京のBBC特派員から「韓国の光州で不穏な動きがある」と教えられる。1980年当時の東京で何もおこらないつまらない記者生活にうんざりしていたピーター(←日本は平和ボケすぎてエキサイティングではないからな)は、神父と偽り韓国へ入国し光州へ行くことを計画する。
金に困っていたキムは、運転手同士の昼食時に10万ウォンで光州へ行くうまい話を盗み聞きし、ちゃっかりその客を横取りしてしまう。
キムは楽な仕事で大金が入ると喜んで光州へ行ってみたら、道が軍隊に封鎖されていた。なんとか客であるピーターを市内へ連れていってみると、そこは軍が市民を虐殺している、信じられない恐ろしい場所だった...

この映画の作り方のうまさは、観客が何も知らないドイツ人記者と一緒に光州へ行き、同じ体験ができること。当時の韓国人も、軍部による情報統制をされていたため、同様に歴史の目撃者になれるところ。

主人公のキムは、ソウルの学生デモを商売の邪魔だと毛嫌いしていた。だが、光州へ行き恐ろしい現実を目の当たりにし、考え方を変えていく。客である外国人ピーターと同じ「旅」をすることで、正義とは何かに目覚めるのである。

韓国映画のクオリティーの高さは、目線の高さだといつも思わされる。社会的で描こうとする目線は高いのに、描いているものは常に「庶民」の目線なのだ。だから世界中が共感するのだ。

この映画も、どんな国の観客が見ても、早くこの悲惨な現実を光州の外に、世界中に伝えてほしいと願うはず。そういう共感が感動を生むのである。

映画としても、サスペンスやカー・チェイスの見どころ満載。ドイツ人記者のピーター役トーマス・クレッチマンもいい。韓国史の汚点ともいえる「光州事件」をエンタテインメント作として世界に知らしめたチャン・フン監督の力量は素晴らしい。ある意味アカデミー賞取った『グリーン・ブック』(18年)より傑作である。

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1987、ある闘いの真実

一人の男が死体となって風呂場で転がってる。医者が来る。蘇生しようと試みる。だが死んでしまう。そんなファースシーンから始まるこの映画は、1987年の韓国国民全員の怒りのマグマが国を変えた「6月民主抗争」へ至る過程を描くチャン・ジュナン監督の力作だ。

この映画を見ていて面白いのは、数々の「歴史の必然」があることだろう。この時代にこの人がいたからこうなったということ。

蘇生できなかった男性は、当時ソウル大学の学生 。その処理をすぐに火葬してもみ消そうとする内務部治安本部対共捜査所長パク(キム・ユンソク) 。一方内務部が検察に火葬許可を取りに行くと、飲んだくれで一匹狼なチェ(ハ・ジョンウ)は逆らって許可を出さない。

それによりマスコミに知れるところになり、とある新聞社も社をあげて徹底追及のキャンペーンをはることになる。(←この正義感も高揚させる)

全斗煥大統領の命をおび、検察・内務部もなんとかこの事実を隠蔽しようとするが、強引に押さえつければつけるほど、ほころびが徐々に大きくなっていく。

現実にいた未来ある学生たちの崇高な命をないがしろにする軍部に突き付けた韓国市民の怒り。これが泣かずにいられるか。どんな国の観客が見ても、この市井の人たちの命がけの「正義感」は、感動するだろう。

だが「この反共めが!」と怒鳴り散らす、内務部治安本部対共捜査所長のパクも脱北者で、家族を北に殺された過去を持つ。韓国映画の持つ「悲しさ」とは、北と南に分断された同胞同士が争い、殺しあわなければならないという現実があるから。それは日本で初めてヒットした『シュリ』(99年)でぼくが気づかされた韓国の悲劇。

1961年から足かけ26年間も続いた軍事政権時代も、これにて終わりを告げる。
韓国国民の民主は自分たちの手で勝ち取った、そして多くの犠牲を払った「民主主義」なのである。

二本続けて観ることの面白さは、一本目の『タクシー運転手〜』で描かれた1980年5月「光州事件」の真実は、1987年の韓国内でも知らされていなかったという事実。あんなに命がけのスクープだったのに、韓国内ではまだ報道されていなかったのだ。延世大の新入学生たちが、その映像を見せられるシーンが本作にはある。

それと映画好きなら『タクシー運転手〜』の光州の気のいい運転手は、この『1987〜』の刑務所のレジスタンスの看守(ユ・へジン)じゃん、とか、その奥さん役は『パラサイト〜』のソン・ガンホの奥さん役チャン・へジンじゃん、とかの楽しみ方もある(笑)

映画としても一級品であり、キャストも素晴らしい。いささかもダレるところがない。これも韓国映画の傑作の一本だろう。

1980年の「光州事件」と「1987年6月民主抗争」を詳しく知りたい方はWikipediaや専門書の方が詳しいのでそちらへ譲るが、K-POPやドラマにハマってる若い人たちも、こういう韓国の民主化へ至る歴史があったからこそ、現在の自由な世界を満喫できているという事実を知っておいてほしい。

そして、この映像を眺めながら、2020年の今日現在(5月3日)も香港で起きている民主化要求のデモがどんな意味があるのかも日本の若い方々に知ってもらいたいと思った。

てなことで。

(配信もあるでよ↓ ¥199、¥399)




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