見出し画像

知的資産経営報告にみる、中小企業のDXの工夫

【今日のポイント】

中小企業においてもDXやデジタル化という言葉を聞く機会が増えてきましたが、まだまだ馴染みが少なく、導入が必要そうだが課題も多いと感じている方が多いかと思います。

行政などが提供しているDX推進に特化した事例集などの資料集とともに、公開されている知的資産経営報告書を眺めると、また違った視点から自社のDX導入のヒントが見えてくるものと考える次第です。


1.中小企業のデジタル化、IT化の課題・苦労

中小企業においても、生産性向上や人手不足解消、顧客への価値の提供方法や従業員の働き方の多様化への対応、CS(顧客満足度)やES(従業員満足度)の向上など、種々の目的から、デジタル化やIT化(ここでは、以下、「DX」と総称いたします)の必要性を語る記事を目にすることも多くなりました。

そのDXも、顧客分析やプロモーションなどのマーケティングから、電子契約などの商取引、リモートワークなど事業の各分野に渡っていますが、

その一方で、「DX人材がいない」「どのように進めれば良いかわからない」「費用対効果が見えないので取り組みにくい」など、各企業が抱える課題も各種のアンケート調査などで取り上げられています。

このうような中小企業の持つDX導入や運営に関する課題・悩みに対して、経済産業省では、以下の、デジタルガバナンス・コード実践の手引を公表しています。

出典:『中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き』

(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同様。)

『経済産業省では、中堅・中小企業等のDX推進を後押しするべく、DXの推進に取り組む中堅・中小企業等の経営者や、これらの企業を支援する機関が活用することを想定したDXの推進のための「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」を2022年4月に取りまとめました。』

(中略)

『 「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.0」として改訂しました。
 本手引きでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)って何?という方から、何から取り組めばよいか分からないという方までに向けて、全国各地のDXに取り組む企業11の事例の紹介やDXの進め方を4ステップで解説、またDX成功に向けた6つのポイントを記載しています。』

公的な資料としては、この手引やその中に記載されている事例などが、まずは参考になるかと思いますが、

本稿では、経済産業省の「知的資産経営ポータル」( https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/index.html )で紹介されている知的資産経営報告書の中から、DXに取り組んでいる企業様の事例をみることで、知的資産経営の視点からDXにどのように取組むか、あるいは活用するかというヒントをお届けできれば幸いに存じます。


2.経済産業省サイトに掲載の知的資産経営報告書にみる企業の工夫

上述の「知的資産経営ポータル」「知的資産経営の活用事例集(新着報告書を表示)」に、2023年6月時点で掲載されている知的資産経営報告書から、以下の2社を取り上げてみたいと思います。


● 2023/6(機能性食品・栄養補助食品製造)日成興産(株)

機能性食品などを製造している日成興産株式会社の2023年版知的資産経営報告書https://www.nisseikohsan.com/

 同報告書の上記ポータルサイトからのリンクはこちら。

https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/pdf/22/249_nisseikousan_2023.pdf

(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同様。)


『【将来の経営戦略】
全スタッフR&D化をベースに機能性食品・ローカル素材活用製品の開発・拡販を、全社員でかつDX・SDGsを推進しつつ取り組む。』

出典:経済産業省の「知的資産経営ポータル」( https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/index.html )

同社の知的資産経営報告書をみると、DXは現時点では、構造資産の中の同社の弱みの一つとして認識されていますが、

一方で同社の強みとして、多くの分野の専門家という人的資産、特許などの有効活用や製造プロセスの見える化などの構造資産、大学等との協力関係の関係資産を挙げておりそれらの強みを活かすために、
DXによる業務改革(生産効率の向上)を将来戦略の一つとして設定しています。
(なお、同社は他の強み、弱み、外部環境などについても、知的資産の分類ごとに、クロスSWOT分析の中で、複数取り上げているので、詳細は上記のURLから同社の知的資産経営報告書をご覧いただければ、大変幸いに存じます。)

上記のように現在はDX化が遅れているという課題を持っていても、従来から自社が持っている強みを今後さらに活かす手段としてDXを利用することで、DX導入の目的が明確になるとともに、
知的資産の中のどの分野でそれを実施するのかを設定することで、全体の取り組みの中でのDXの位置づけや他の施策との連携も見えやすくなると感じた次第です。


● 2023/1(物流サービス、人材サービス)株式会社ユウサイ

物流サービス(倉庫業務・運送業務・通関業務)と人材サービス(人材派遣・業務請負)を行っている、株式会社ユウサイの2023年版知的資産経営報告書。

(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同様。)

『【将来の経営戦略】
2027年に向けた8つの経営戦略を実行することで、顧客提供価値の増大を目指します。』

出典:経済産業省の「知的資産経営ポータル」

同報告書の上記ポータルサイトからのリンクはこちら。

https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/pdf/22/290_yusai_2023.pdf

同社の知的資産経営報告書では、「DX」ではなく、「デジタル」の用語を使用しています。

同社では、物流事業の中で、デジタルツールを強みの一つとして挙げています
また、外部の市場環境の今後の変化として、デジタル技術が進展することで、EC市場が拡大し、そこに自社の成長機会とともにその機会を活かすための将来に向けた経営戦略の一つとして、EC物流の強化サービスを提示しています。

そして、経営戦略であるEC物流強化の中で、デジタル基盤の強化やデジタル人材の育成を挙げていますが、
上記の知的資産経営報告書では、将来価値創造ストーリーの中で、今後取得すべき知的資産の一つデジタルスキルやそれと関連する教育プログラムなどを記載しています。

上記のように、外部環境の変化とその対応としての経営戦略、その経営戦略を進める上での課題としてデジタル関連の強化の設定、その課題への対応の一つとして必要な知的資産の中に人的資産であるデジタルスキルや構造資産である教育プログラムなどの取得という流れで、知的資産経営の視点からにデジタル化を組み込んでいます。


3.自社のデジタル化、IT化への適用のヒント

ここでは、非常にざっくりと2社の知的資産経営報告書からDXやデジタル化への取り組みを見てみましたが、

価値創造ストーリーを利用した、外部環境の変化の把握⇒自社の強み・弱みと外部環境から自社の将来に向けた経営戦略を立案⇒経営戦略推進のための課題設定⇒課題解決に必要な知的資産とその取得方法の設定

という流れと、

知的資産の分類である、人的資産、構造資産、関係資産の各項目ごとに外部環境と自社の強み・弱みを整理し、知的資産経営の視点からデジタル化への取り組みを検討する

という点では共通するものがあるかと思います。

また、現在はDXやデジタル化が自社の弱みであるとしても自社の強みや将来の環境変化の組み合わせによる将来構想の実現に必要な施策としてDXを位置づける際の方向性の定め方や提示方法としても参考になるのではないかと感じた次第です。

【今日のまとめ】

・中小企業では特に、DXやデジタル化は、導入には課題が多いと感じている方も多い。

・公開されている知的資産経営報告書を眺めると、自社の強み・弱みへの対応とDX・デジタル化の関係を、知的資産の分類などから構造的に把握しやすくなる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?