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逃げた父親

父の通夜の日。

訪れたSさんが思い出話をしてくれた。

建設会社を営むSさん。

大きな体に日焼けした肌、つるつるの坊主頭は相変わらずの迫力。


「町の祭りんとき、昔は夜店が出とったんや。そこに何人かチンピラが来てんな。

K(父)はとにかく喧嘩っ早かったから、

『祭りの邪魔すんな!!』

言うて、いきなりチンピラに殴りかかった。こりゃいかんと思ってワシも加勢したわ。

そしたら警察が来てしもて、ふと気づいたらKがおらん。

ワシだけ連れて行かれて留置場や。

留置場におったら、ヘラヘラ笑いながらKが来て、

『おう、居心地はどうや。』

やて。

Kはケンカ売るのも早かったけど、逃げ足も速かったわ。」


泣きそうな顔をしてSさんは笑った。


そういえば母も言っていた。


ある日の夜。

返り血を浴びて真っ赤になって帰ってきた父。

酔ってタクシーの運転手とケンカになったと言う。

たぶん父が悪かった。

そして、ケンカ相手も違う意味で悪かった。

温泉場のチンピラとつながってた運転手さん。

チンピラから数百万のお金を要求された。


その日以来、父が帰ってこなくなった。

逃げたのだ。


母はお金を用意した。

怖かった母は、お金を渡す時に一緒に居てほしいと自分の弟に頼んだ。

チンピラが来るはずだった日の朝。

そのチンピラが別件で逮捕されたニュースが新聞に載っていた…


九死に一生を得る?

逃げ足も速かったが、とにかく悪運の強かった父。

「人に迷惑をかけるな!」

が口癖だった父。

(いえ、あなたが1番迷惑かけてますけど…。)


それでも、Kさんも、私の叔父さんも父が大好きだった。

多くの友人に恵まれた父だった。


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