ERP会計:1-7 「思考スピードの経営」を支えるAI(前編)

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 今回は少しミステリー仕立て、謎を残した状態で「後編」に引き継ぎたい。
 ビル・ゲイツの1999年刊行(日本語版)の著作に『思考スピードの経営』がある。さまざまな場所に散在する複雑な情報を適切に組み合わせることで、多くのビジネスイノベーションが可能になることを解き、同書の中で予言されたビジネスモデルの中には現実化されたものも多い。価格比較サイト、ソーシャルメディア、パーソナルアシスタント端末等が代表的だが、ビジネスの世界では、文字通り「思考スピードの経営」が可能になるところまで来ている。

 具体的なケースを考えてみよう。ここでは、あなたは小売スーパーチェーンの社長だ。さきほど、あなたのもとにある店舗の業績進捗が遅れているというレポートが届いた。月の半分が経過したのに、月間の売り上げ目標の4割にしか届いていないといった具合である。
 あなたは秘書に命じて経営企画室長に連絡を取り、進捗遅れの要因の特定を命ずる。経営企画室長は、データ分析のエキスパート(どの会社にもいるExcelグルーだ)を呼び、急ぎ要因分析をおこなうように指示を出す。
 エキスパートは腕の見せ所だ。まずは日付別の来店客数推移を見る。ある日付を境に夕方の来店客数が有意の落ち込みを見せている。幸先良し。が、その後が続かない。カード会員情報なども動員し、各種顧客属性と購買商品など、軸を切り替え、あるいは組み合わせを試行錯誤するが、大きな落ち込みを見せている軸が見当たらないのだ。
 万策尽きたかに思えたが、ここでエキスパートは1つの閃きを得た。押しても駄目なら引いてみろというではないか。売上が「減って」いるものではなく、売上が「増えて」いるものから、何か得られる洞察はないだろうか?

 種明かしは次回に回すとして、このサイトの読者の皆さんには、ぜひ何が起きていたのかを想像していただきたい。

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