ERP会計:2-3 在庫の悪用 循環取引(前編)

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 在庫を利用した粉飾取引のひとつに「循環取引」というものがある。ありもしない売買取引があったことにして、その結果、売上が立ち、利益が上がったように見せかけるというものだ。
 この取引の中核をなす取引は次のようなものとなる。売上が欲しいA社が、この取引に協力してくれるB社に、商品を販売する。B社は一定の利益を乗せて、あらためて同じ商品をA社に販売する。
 これを2社相対でやったならさすがに目立つだろうが、間に1社をかませるだけで、とたんに「普通の」取引に見えてくる。途中に入るZ社は善意であっても構わない。伝票を通してくれれば口銭(手数料)を払うといった取引(直送)慣行のある業界も多いし、そうでなければ若干のアレンジをするまでである。
 ありもしない取引だから、それに見合うキャッシュを実現する事は、永遠にありえない。その一方で、このキャッシュの回収を、半永久的に先送りするというのが、この循環取引のミソである。
実際には、現実世界でこの循環取引がおこなわれる場合(注1)には、もっと多くの中間取引をかませることで、発覚を難しくする工夫がなされるわけだが、基本的構造は変わらない。
 冒頭にこれを、在庫を利用した粉飾取引と書いた。では、この取引の結果、在庫にはどのような変化が生ずるのか、そして、どんな対策を講ずることで、こうした不正取引の発見を容易にし、さらには未然に防止することができるだろうか。その論は、後編に譲りたい。

注1)循環取引に分類される事件はあまたあるが、我々の業界で驚くべき規模の事件が発覚したのは、わずか10年前のことだ。

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