ERP会計:1-2 ERPとは何か? 業務と会計のデータ統合

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「プロセス」統合の次は、「データ」の統合である。集めたデータを真に意味のある情報として活用し、いわゆるデータドリブン経営を実現するには、「データの統合」が不可欠だ。このデータの統合は、2つの観点で担保される必要がある。
 ひとつ目は、会計情報のもととなった、原因取引への遡及である。冒頭の外食の例でいえば、「売上」という会計情報から、そのもととなった1日分の「売上伝票」すべてに瞬時にアクセスできるということだ。
 たとえば、ある日の売上が極端に大きかった。そこで、理由を調べるために売上伝票を詳しく見てみたら、ひじょうに客単価が高い特別な宴会が入っていたことがわかったというような活用例が考えられる。組織が小さい間は、店舗に電話一本かければすぐ分かるかもしれないが、組織拡大や海外展開を進めると、徐々に件数が増えて手が回らない、あるいは時差ゆえにリアルタイムでは会話ができないことが増えてくる。ERPでは、「ドリルダウン」と呼ばれる機能を実装することで、ワンクリックで、このような明細への遡及を可能としていることが特徴だ。
 ふたつ目は、会計情報の内訳分析だ。例として、ある店舗の売上が目標に届いていない。原因追求のため、同エリアの他店舗と、あるいは対前年や対予算で、来店客数、客単価、売れ筋商品動向等を比較分析したいと考える。ところがこれは、一般ユーザーが想像するレベルの軽く1万倍は難しい話である。
 その理由は各種あるが、まずはデータ量の問題だ。平均来店客数が1日50組、1組が10点の注文をおこなう、来店時間帯を6つに区分し、全20店舗を展開しているならば、これに1年365日をかけ合わせただけで、2千万を超える組み合わせとなる。 これだけのボリュームのデータを取り扱うため、DWH(データウェアハウス)と呼ばれる分析システムを別途構築し、様々な業務システムから大量のデータを流し込み、専用のBI(ビジネスインテリジェンス)ソフトを使用して、分析加工するのが一般的だ。
 が、このやり方だと、当初の設計だけでも相当の期間を要するに加え、仕様変更(分析軸を追加したい等)が発生した際の対応工数増や、データ量が増えた際のパフォーマンス劣化等の問題が起きることが多い。
 また、データ分析のための専門的スキルを有した人材不足も問題だ。
 アナリティクス(分析機能)一体型のERPでは、すべての要件に対応できるわけではないにしても、初期設計のリードタイムや、項目追加時の対応工数等で、工夫が凝らされているケースが多い。またデータ分析のための特殊なスキルがなくても、AIや機械学習の力を借りて、主要な因果関係や相関関係を自動的に明らかにするような仕組みもすでに実用化の域に達している。
 以上、ERPというものの最大の特徴である、業務と会計の統合を2つの観点から確認したが、次項以降では、会計の観点からみた経営上の課題を分野別に見ていくこととしたい。

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