ERP会計:5-4 ERPで売上アップ 受注業務の効率化(バック・エンド-2)

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 前回の、1)キャッシュフローの改善、2)利益率の向上に続き、「バックエンド-2」と題した今回は、3)貸し倒れリスクの低減について考えよう。

3)貸し倒れリスクの低減

 はじめに、「貸し倒れ」とは、製品なりサービスなりを納入した得意先が経営破たんし、支払いが受けられなくなる状況のことを言う。

 幅広く営業活動をおこなっていれば、様々な要因により、得意先の一部で経営が悪化する可能性をゼロにすることはできない。ただし、この可能性をできるだけ低くすることは、経営者に求められる当然の努力であり、その取組を総称して「与信管理」と呼ぶ。

 読んで字のごとく、ある得意先に対して、どれだけの「信用」を「与え」られるかを管理することだ。その上限を「与信枠」と呼ぶが、個人であればクレジットカードの利用限度額とまったく同じ仕組みである。つまり、ある得意先からの受注は、与信枠を超えることはできない。さらに、前回までの受注にかかる支払いがなされるまでは、与信枠から売掛残をマイナスした金額が、受注の限度額となる。

 これだけなら何も複雑なことではなさそうだが、法人間取引の場合、複数の取引窓口部門が存在することが多く、これを通算したり、逆に窓口部門ごとの与信上限を設定する等のきめ細かな管理は、実は容易ではない。クレジット枠を超えそうになったら別のカードでクレジット購入を繰り返し、結果、自己破産に陥るのと類似した構図だ。

 具体的には、隣の支店・支社で同じA社がどれだけ注文を出したかをリアルタイムに通算・把握することが必要になる。手作業や支店別の業務システム運用では、どう考えても無理な相談である。疑似リアルタイムに管理するためには、たとえば受注の引き合いを受ける都度、本社の担当部門に連絡し、受注可否の判断を仰ぐプロセスが必要となる。これを人手でやったのでは、当然、相当な業務量(=コスト)となるし、逆に、小額なので後で確認すれば良いだろうといった業務ルールに反した運用も可能となってしまう。

 ERPなら、こうした取引データはすべて一元的に管理され、受注残も売掛残も常に最新の値が全社で共有できる。引き合いがあれば瞬時に受注可否が判断できる。貸し倒れリスクの低減にとどまらず、業務スピードの向上にもつながり、自社のみならず発注側(得意先)にとっても、ベネフィットは大きいはずだ。

 最後に、どんなシーンで貸し倒れが発生し、それがどのような影響を及ぼすのかをケースベースで確認しよう。

 まず、比較的軽症で済むケース。我々A社が、これまでも継続的に取引していたB社から、大量発注と引き換えに支払いサイト延長延長の要請を受ける。サイトを延長するということは、その間、B社に売掛金相当の貸付をおこなっていることと同じであり、その分の利息を請求すべきだが、超低金利の時代でもあり、何より発注量が多いので、そこは条件的に相殺しても良いと考える。念のため、直近の決算でも相応の利益は出ているので、要請を受けた条件で取引をおこなう。ところが、受注後、しばらくすると驚くことに発注元の企業が倒産してしまう。ただ、全社レベルで見た場合には、経営の根幹を揺るがすほどの金額でなかったため、授業料が高くついた程度で済んだというケースだ。

 下記の『経理以外の人のための日本一やさしく…』には、このパターンでが物語仕立てで具体的に記されているので、初学者の方にはオススメだ。

 もう少し手が込んだケースとしては、架空の大量発注を通じた乗っ取りというものもある。たとえば中小の製造業A社としよう。
1) これまで取引のなかったB社から、ひじょうに良好な条件で、かなりボリュームのある新規発注の引き合いが来る。
2) A社としては、新規かつボリュームも大きいため二の足を踏みつつ、ビジネスとしての魅力が勝ち、その発注を受ける。
3) 結果、B社からはつつがなく入金もおこなわれ、A社は胸をなでおろす。
4) 続いてB社から、初回発注の数倍規模の発注引き合いを受け、前回の取引実績を踏まえ、A社はこれを受注する。
5) 納期到来、引き渡しとなったところで、B社は突如倒産、大量の在庫を抱えたA社は資金繰りがつかなくなる。
6) タイミングを見て、新たにC社がA社の支援を申し出る。ただ、その実質は経営の譲渡に他ならない。
 これは裏をたどると、倒産したB社と、支援企業のC社は裏でつながっており、資金繰りに窮したA社をタダ同然で乗っ取るために仕組まれた芝居という具合だ。同様の筋書きが、池井戸潤の小説にもあったと記憶している。

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