ERP会計:1-1 ERPとは何か? 業務と会計のプロセス統合

■目次に戻る

 このサイトのタイトルの一部にもなっている「ERP」とは何か。Enterprise Resource Planningの略であり、日本語では「統合基幹業務パッケージ」などと訳される、業務アプリケーションシステムの1種である。
 英語を文字通りに訳せば、「企業資源計画」となり「統合」と言う文字などどこにも存在しないのだが、ここではまず日本語訳の方から見ていくことにしたい(英語のほうの意味合いについては、後で触れる)。
 では、何を統合しているのか。端的に言えば、①業務と会計の「プロセス」の統合と②業務と会計の「データ」の統合である。
 まず、①プロセスの統合とは何か。外食をして会計をする際に「伝票」というものが登場する。一見、レジ係が代金の計算をするための注文リストに見えるが、会計の世界では「売上伝票」と呼ばれ、これを全部集め、合計して、売上の記帳(会計帳簿に記載すること)がなされる。閉店後に電卓を叩いて売り上げ金額を合計する、これだけでも随分な手間になりそうだが、支店がある場合は、全店舗から売上情報を全て集めるプロセスが必要になる。売上だけではない。商品を販売するケースであれば、お客様に引き渡した(出荷)分の商品について「在庫」を減らし、その分を「原価」として、それぞれ記帳することが必要になる。さらに企業間取引であれば、後日この売り上げを「請求」するための管理も必要になる。かつては、これらすべての情報伝達を「伝票」というペーパーを介して行っていたのだ。
 仮にこれら一連の情報伝達を自動化し、伝票を廃することができれば、相当な手間を省くことができることは、容易に想像がつくと思う。ビジネスの観点では、この手間イコール人件費であり、ERPでも、かつてはこの部分でのコスト削減効果が一番に語られることが多かったし、今日でもその意味合い極めて大きい。
 が、①プロセス統合の真の意味合いは、この手間の削減ではなく、スピードの向上にこそあると筆者は考える。またこの点こそが、ERPは経営者のためのシステムだと言われる所以である。
 かつては月次で締めてみなければ売上が把握できなかったものを、週次、さらには日次で把握できるようになる。すると、たとえば売上未達の店舗には何がしかのテコ入れをしなければいけない、あるいは売上の達成が厳しいのであれば、コストを抑えることで利益を確保しよう、そういった意思決定をするのが経営者の役割である。我々現場の1人からすると、経費削減のお達しや、場合によっては人員整理などという痺れる施策も、こうした経営判断の結果なのである。
 さらに企業活動にとって最も大切なものとしてあげた「キャッシュを増やすこと」、これに直接資する効果も期待できる。
 中小企業の経営者にとって、最も頭を悩ます問題の1つが支払い資金の確保であろう。これが確保できないと、仕入先への支払いの滞り、いわゆる「不渡り」が発生し、倒産にもつながりかねない。
 支払い資金の確保の重要性は、企業規模が大きくなっても変わるものではない。一方、ビジネスが拡大・複雑化すれば、これを適切に行うことの難度は等比級数的に高まって行く。
 確保された支払い資金と言うのは、キャッシュを寝かせていることと同義である。キャッシュを増やすためには、寝かせた資金を最小化することが必要である。ただ、ビジネスが拡大・複雑化することによって、取引のパターンも支払いのサイクル(サイトという)も多様性を増し、一体どれだけの資金を確保すれば良いのかという予測が極めて困難となる。売上の見通し、支払いの見通しといったものが、迅速かつ一元的に把握できるようになれば、「増やす」ことに回せるキャッシュの比率を高められるという、直接的な効果も得られるのだ。会計の世界では、資金管理(treasury management)と呼ばれる領域だが、専門度の高い分野となるため、追って詳しく見ることとしたい。

■目次に戻る

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?