ERP会計:2-2 在庫はなぜ「悪」か? キャッシュが寝る

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 在庫があると保管のための費用がかかる。倉庫の家賃、物によっては空調費用。品質が劣化してしまう。在庫を持つことに起因する、様々なデメリットが挙げられる。
 いずれも不正解ではない。が「会計」の観点から言えば、在庫が悪である理由の第一は、「在庫がキャッシュを生まないこと」である。
 はじめに見たように企業活動で最も重要な事は「キャッシュを増やすこと」である。どのような性質の在庫であれ、在庫は動いて初めてキャッシュの増加をもたらす。極端な例として、今ある在庫が、それを仕入れた時とまったく同じ値段で換金できるでとしよう。この場合、在庫がそこにあると言う事は、現金をそのまま寝かせていると言うことと同じである(注1)。
 この商品(在庫)を動かす、すなわち売却し、それで利益を生み(キャッシュの増)、それをさらに次の商品の仕入れにあて…というサイクルを回すことで、継続的なキャッシュの増加を実現する(注2)。
 「貸借対照表」上の左側(借方)の金額の合計は、今会社にあるすべての資産をキャッシュに換算したらいくらになるかを示しており、在庫もこの一部を構成する。ROAという経営効率を指標があるが、これは数式で書けばR/A(スラッシュは分数を示す)であり、すなわち利益(Return)を資産(Asset)で割り算した結果だ。在庫があるだけ分母のAは大きくなるが、それが動かない限り分子のRが増えることはない。分子が不変で分母が大きくなれば、その計算結果は小さくなる。つまりROAが悪化するというのは、実は小学生の算数レベルの話なのだ。

注1)多くの在庫は、仕入れた時と同じ値段では換金できないし、鮮度や品質が落ちるというのも事実であるが、それは二次的なことにすぎない。また、中にはヴィンテージ物のワインやウイスキーのように、寝かせておけば価値が上がるものもあるが、これは在庫というよりも、むしろ投資とみなすべきだろう。
注2)法人間取引では、売上代金(売掛金)の回収を待って、実際のキャッシュ増が実現するが、この点については、後の章で詳しくみる。

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