ERP会計:1-8 「思考スピードの経営」を支えるAI(後編)

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 売上減少の要因を分析するためのアプローチを、売上が「減って」いるものではなく、売上が「増えて」いるものに着目してはどうかという着想の転換をおこなった。
 するとどうだろう。来店客数が落ち込みを見せた時期から、カレーのルーとコーヒー牛乳という組み合わせでの購入パターンが「増えて」いることがわかった。
 勘の良い方ならお気づきだろう。 いわゆる「自衛隊カレー」、被災地などで自衛隊が炊き出しのカレーを作る。その際、カレーのルーに、少量のコーヒー牛乳を混ぜている。そうすることで、コクが増して美味しくなるというあれだ。
 が、なぜ、これらの商品の売上が増しているにもかかわらず、売上が減ったのだろうか。
 種明かしをしよう(もちろんこの話はフィクションだが、こんなこともあるかもしれないと言う程度には真実らしい説明を加えてみよう)。このコーヒー牛乳を使ったカレーの作り方は、以前から一部のマニアには知られていた。が、ちょうど来店客の減少が見られた頃に、カリスマ料理レシピ投稿者が、あるブランドのコーヒー牛乳を使うことで、このカレーのコクを何倍にも増すことができる、そんな投稿をした。ただ、このコーヒー牛乳はややマイナーなブランドで、当社スーパーでは取り扱っていなかった。グルメサイトの投稿に影響受けた顧客が、このコーヒー牛乳を取り扱っている近隣のスーパーに流れた結果、来店客数が減り、売上も下がったと言うわけである。一方で、指定のブランドではないものの、カレーにコーヒー牛乳という組み合わせという購入パターン自体が増えた結果、冒頭の結果がもたらされたわけだ。
 さて、くだんの分析エキスパート氏、ここまでの原因特定を行うのにどれだけのリードタイムを必要としただろう。社長が経営企画室長に、さらに部下に指示を伝えるリードタイムも計算に入れねばならない。
 社長であるあなたが要求するレベルは? 半日? 1時間? 30分? が、おそらく現場から帰ってくる答えは「2日ほどいただけますか?」なのではないか。
 「問題の店舗の売上が予算に届いていないようだが、何が原因か調べてくれ」、社長であるあなたは、こう口にするだけで良いとしたら?
 まず、音声認識が、あなたの指示を受け付ける。続いてAIが、その指示内容を認識し、ただちにエキスパート氏がやったように、期間軸で売上の減り始めた時期を特定するとともに、同じタイミングでの売上変動幅の大きい商品をリストアップする。ここまで一瞬である。
 さらに、カレーとコーヒー牛乳というキーワードで、Web検索をかけ、「自衛隊カレー」というキーワードを発見し、同キーワードの直近のアクセス推移を見て、カリスマ料理研究家の投稿を相関度の強いサイトとして一覧表示させるところまで、自動化することが可能だ。

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