ERP会計:4-1-1b 戦略的購買 売買パワーが「ともに弱い」ケース(その2)

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調達4象限ー左下

「ともに弱い」ケースの対応指針
1. 需要管理
2. 共同調達
3. 調達集約
4. 調達データ分析

 「ともに弱い」ケースの後半は、上記対応指針の2~4をまとめて見ていこう。

 これらの方策は、要は購入量を増やすことでサプライヤーからボリュームディスカウントを得ることが目的だ。
 何らかの手立てで同一のサプライヤに対する発注量を増やすアプローチが「2. 共同調達」、サプライヤ数を絞り込むことで1サプライヤあたりの発注量を増やすのが「3. 調達集約」と区別できる。

 「2. 共同調達」について、テキストでは、大口需要家の調達にアウトソース(相乗り)する方式が紹介されるが、国内では伝統のある専門商社などは、この領域を1ビジネスとして切り出した形態と言えよう。当然、部門ごとに個別に発注するのでなく、企業ないしはグループとして発注窓口をまとめることで価格交渉力を上げるアプローチも王道だ(注1)。

 「3. 調達集約」の最たるものは、サプライヤ数の削減だ。90年代、国内自動車大手のコスト削減が、製鉄業界の再編を引き起こした。発注量をまとめることで、より大口を取り扱うサプライヤとの取引を可能とし、コスト引き下げを実現できる可能性もある。また、テキストでは、自動車業界におけるプラットフォーム化(共通化によりモデル数を集約することで、1モデルあたりの購入量を増やす)や、1回あたりの発注量を増やすことも、値引き余地を増す効果があるとする(注2)。また、発注量自体を増やすことはできなくとも、2次サプライヤまで巻き込み、長期的な協業関係を構築することで、価格引き下げに成功した例もあるとのことだ。

 そして、「1. 需要管理」も含め、いずれの場合も、ITを利用した「4. 調達データ分析」が欠かせない。
 設立間もない企業など一部ケースを除いて、最初のハードルになるのがマスタデータの不統一だろう。そもそもマスタ化されてすらいないかも知れない。たとえばA4のコピー用紙を、全社では1年に何枚使用しているか、即座に把握することができるだろうか?(注3)─ 1枚10円程度のものをと思うかもしれないが、顧客配布用の資料にミスが有って刷り直しすれば、1回で5万円程度の無駄な支出になる(注4)。ある営業担当の月間タクシー代が5万円といったところにはチェックを入れるのに、不思議なことだ。
 間接費だけではない。原価となる主要部材であっても、製造拠点ごとに生産管理システムが異なり、同じ部材が異なる品番で管理されるケースも少なくないはずだ。特にM&Aを経験した企業では、ほぼすべてと言っても過言ではなかろう。
 対応として、ERPのような仕組みに全社一気に切り替えるとか、M&Aであれば、どちらか1社のシステムに片寄せできればベストだが、実際には現場の生産管理システム等と切り離せないという制約のあることが多い。こうしたケースでは、何らかの形で、システムごとに管理方法の異なるデータを統合データ用に読み替えた上で、一元的に集約、分析可能な形に格納することが必要になる。

 さて、分析可能な形にデータを揃えることができたら、はじめにやるべきことは優先カテゴリの決定だ。品目ごと、あるいは幾つかの品目をまとめた品目カテゴリーごとの取引総額を見て、金額の大きいものは削減効果が大きいはずだ。
 また、同一品目ながら、部門ごとに発注単価が異なるケースでは、最安値に揃える交渉をサプライヤとおこなうべきだ。発注条件や時期によって金額が変わるケースもある。サプライヤと折衝し、最安値で発注できる取引条件を明示してもらい、実務に支障のない範囲で、できるだけその条件に近づけるなどの努力余地があろう(注5)。
 また、ある品目カテゴリー内の個別品目数が多いものも要注意だ。類似の用途でありながら微妙に仕様の異なる部材となっている可能性が高い。規格の標準化により、大きなコスト削減を実現できるエリアである。

注1)この場合、単に大口需要家だから値引きせよということでなく、サプライヤ側に立てば、値決めや請求入金管理の一本化により、管理コストが低減できるという効果も考慮し、価格交渉に臨むと良い。
注2)この場合も、サプライヤ側の原価構造に着目することが重要だ。出荷の都度、固定的にかかる経費比率が高い品目については、1回あたりの取引量を増やすことで、サプライヤ側も大きな経費削減を実現できる。
注3)文房具にはじまり什器・備品の類は、自社で独自の品番を管理する例は少ないだろう。メーカー品番を利用するという手もあるが、複数ベンダーと取引のある場合は、「同じもの」とみなすための紐付け処理が必要となる。
注4)コピー代と見れば、カラーで1枚30円、50ページを30部とすると、1回で45,000円の計算となる。
注5)納期に余裕をもたせる、発注ロットを揃える、季節変動を考慮するなど、多くの考慮点があるはずだ。

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