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【人間観察】負うた子に教えられて浅瀬を渡る

「メールが開けないんだ!チョット見てくれないか?」

ご無沙汰していた、客先の社長から携帯に、呼び出しがかかった。別に<仕事>ではないのだが、少しはネット関係に明るい<やまのぼ>は、便利に使われているのだ。でもそれが、本業の営業成績アップに繋がることは、双方ともで暗黙の了解済みだ。

「ありがとう!流石だ!」お礼を言い終えた社長が言い出しにくそうにしている。「どうしかしましたか?」「う~ん、山尾さん!ぼくは社長じゃなくなってるんだよ!」

「え~!それはおめでとうございます!いつから?息子さんにバトンタッチですか!よかった!」

仲の悪い親子で有名だっただけに、矢継ぎ早に<やまのぼ>は絶賛した。

「ところが・・・」元社長の表情は暗い。「どうして?」「ヤツったら少しも嬉しそうでないんだよ!」「だって!あれほど意見が合わずに息子さんと衝突していたのに・・・」「だろう?」

「社長!あなたが居座るからじゃないんですか?」「そうでもない!棚ぼたが嫌なんだって」「ほ~う最近の若者にしては骨があるじゃないですか!」「贅沢だよ!」

元社長は、どこまでもオヤジ風を吹かせる。

「結局のところ親なんて、肝心なことを子供にしてやれてないですよ!」「・・・」元社長は、まだ不満そうだった「新しい印鑑や、新しい名刺まで作ってやったのに・・・」「・・・」今度は、<やまのぼ>が黙った。

親子の関係は、金やモノは二の次だ。

「私なんか娘になんにもしてやれずに今日まで来ましたよ!」「・・・」元社長は、煙草をくわえたまんま上目遣いに<やまのぼ>を睨みつけた。「子供のころ、娘にはただ怒り散らしてばかりだった。大人になった娘にも、いつも愚痴るばかりで・・・」「それもそうだ」やんわりと元社長は応えた。

「なのに!子供に教えられるんだから!このごろは・・・」「老いたら子に従えかなぁ~」団塊世代同士のオヤジ達の頭上には少し哀愁に満ちた風が通り抜けたような気がした。


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