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【小説】未来から来た女(11)

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  ゴルフ解説者と、未来の美穂の話が、交錯する。

オレは、なんとかこの窮地を脱出しようと、ゴルフの実況中継を続けようとする。美穂は美穂で、主人の浮気を証明するために、絹糸を結わいた、ばあさんの武勇伝を熱弁。オレは、土砂降りどころか荒れ狂う嵐の中へ、放り出されてしまった。
 美穂に睨みつけられたオレは、今にも全部白状しそうになった。すんでのところで、美穂がトイレに立ってくれたので、吐露しなくてよかった。ひとりで静かに、胸をなでおろす悠太であった。ところが、トイレから戻った美穂の表情に、凛々しさが漲っている。オレはただ事ではないと恐れ戦く。
 帰宅したバッグには、絹糸が結わいたままだったてか・・・。悠太は、先日の社内コンペと偽って、彼女と一泊の温泉旅行へ行った。あのとき、自分のゴルフバッグやシューズバッグに、なんで糸くずが付いてんだろうと、不思議に思っていたのだが、こういうことだったのか・・・。美穂はすっかり御見通しなのだ!オレは観念した!
 オレが、「美穂!許してくれ!」と、言いかけたとき、美穂の口から「ミホ!許してくれ・・・」という。ばあさんのご主人も「ユウタ!」だったてか?オレは、リングサイドのロープに、やっとの思いで、掴まるボクサーの心境で、「シャワーだよ」と、美穂に言い残して、未来のばあさんに勝利の宣言を許した。 
 オレはシャワーを浴びながら、改めて観念した。昨晩、彼女の部屋を出る前に、不用意にも彼女愛用のボディシャンプーを、拝借してしまったことに、後悔する。女性は男性より匂いに敏感という。多分、美穂はあの匂いに気づいているにちがいない。
 悠太が、出たくないシャワーから出ると、美穂は誰かと楽しそうに、電話中だった。「そうなの?いいわ、伝えて置くから・・・。ウン!相変わらず、メタボだよ!・・・」美穂は、シャワーから戻った悠太を見つけて、急いでスマホを切った。「誰から?」「お友達のアイから・・・」二人の間柄が、よそよそしくなっているのを、お互いで確認しているような会話だった。


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