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【人間観察】エスカレーターと少女に老婦人

その騒動は、午後四時過ぎのデパ地下で起こった。

やまのぼ が、夕飯の惣菜を買い求め、エスカレーターで、階上へ向かっているときのことだ。

買ったばかりの惣菜を右手にぶら提げ、ステップの左側に寄り、エスカレーターの上昇力に、身を委ねていた。

すると、40歳前後のご婦人が、やまのぼ の右肩すれすれに、急ぐように駆け上がって行った。

「エスカレーターでは、危険だから階段上りしない方がいいのだれけど・・・」と思いつつ、そのご婦人の後姿を見送っていると、ほぼ同時に二人の少女が、少し早足気味で、これまた階段上りで、やまのぼ の脇をスルリと追い越したのだ。

さっきのご婦人の娘さん達かなぁ~?

なんとなく、そんな想像をしながら、見上げたお姉ちゃんの方の運動靴の紐が、解けているのに気づいた。

やまのぼ は、危険を感じた!

間もなく、その予感が現実になった。

小学4年生ぐらいだろう、お姉ちゃんは、ステップに蹲ってゴソゴソし始めたのだ。やまのぼ が、「どうしたの?」と、尋ねると、お姉ちゃんは火がついたように泣き出した。

大変だ!靴ひもの端がエレベーターの壁とステップの隙間に入り込んで抜けなくなってしまっている!

やまのぼ が、縦に横に斜めにと靴ひもを、手繰り寄せてみるのだが、靴ひもは微動だにしない。

「誰か!緊急停止ボタンを!」

階上からも階下からも、そう叫ぶのが聞こえるばかりで、エスカレーターは、一向に止らない。

あと数段で最上段だ!

ステップが、次々と床の下へ吸い込まれて行っているのが恨めしかった!

その時だ!どこからとも現れた老婦人が、われわれの頭上から叫ぶようにいった。

「お嬢ちゃん!靴を脱ぐのよ!」

素早く、お姉ちゃんは、両足の靴を脱ぎ捨て、階上の床にピョンと飛び跳ねた!

近くにいた誰かが拍手をした。それが伝播したのだろう。

拍手の渦を聞きながら、やまのぼ は全身の力が抜ける、心地よさに酔っていた。

しばらくすると、妹ちゃんが母親を呼びに行っていたようで、母娘が現れ「ありがとう!」の連発を、やまのぼ に言ってくれるのだが・・・。

一番の功労者である老婦人の姿は、そこにはなかった。


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