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【小説】未来から来た女(14)

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しばしの沈黙を破ったのは、美穂の方だった。

「結婚以来、七年間ずっと騙し続けてたのね・・・アイとのことを内緒にしてたのね・・・」涙をにじませながら美穂は遠くを眺める。「違うんだよ!美穂!」狼狽える悠太。「なにが・・・」睨みつける美穂。「アイとは最近、偶然再会したんだって・・・」美穂にとって、最近、偶然に再会しおうが、以前からずうっと続いていようが、大した問題ではなかった。大好きな悠太の心の中に、いまアイがいることが許せなかったのだ。多分、悠太にそれは理解できない感情だろう。妻の美穂と、恋人のアイとは、比較対照できない関係だからだ。つまり、男性と女性の感情のちがいなのだ。アイがいることが、美穂の存在を否定していることにはならない。女性には理解しがたい、男性の身勝手な感情と、卑下されようが、揶揄されようが、性なのだからしかたないことだと悠太は懸命に思う。
 美穂とは、一緒にいるだけで心の芯からリラックスできるし、なにしろ素の自分をさらけ出せ、これからも一生つきあうのだろ。一方、恋人アイは束の間の癒しでしかない。たったいま、悠太が男として生きている証明のために・・・。といっても、情のない刹那的関係だ!と侮辱などされると心外だ。今の悠太には、アイも必要なのである。そして、やっぱり、どうしょうもない性なのだと思う悠太である。
 だれが言ったのか忘れたが、悠太は思い出していた。妻との付き合いはクラシック音楽と、恋人との付き合いは流行り唄と、付き合うようなものだと。
「判ってくれ!」悠太の口から出た言葉に、一番驚いたのは悠太本人だったのかもしれない。美穂の思考が空転しているのが見えるようだった。「悠太!大好きだったのに・・・」と、つぶやく美穂の瞼に、新たな涙が光る。背を向ける華奢な肩を、小刻みに揺らす美穂。まず、悠太は、なにがなんでも、「ごめんなさい!」と、言うべきだっただろうに・・・。そして、愛してる!って。


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