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【小説】未来から来た女(8)

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『昼間の専業主婦って楽チンなもんだナァ・・・』と、漠然と思いながら、義母直伝でオレの大好物の肉じゃがに、箸を進めていると、『ばあさんに抱きつかれた!ってなんだ?それ・・・』自分にまるで関係ない話に、リラックスしきって聴きながら、少し大盛の肉じゃがに、義母の柔らかい微笑みを重ねて見ていた。
 オレは、空っぽのお茶碗を、美穂に差し出す。飯のお代わりはもちろん、話の先へ急ぐことも、合わせて督促する。『そういえば、広島にも不義理してるナァ・・・脚に水がたまって辛いって言ってたナァ・・・・お母さん』
 お代わりの飯をよそい終えて、食卓に戻った美穂は、お茶碗を手渡しながら、可笑しなことを言い出した。『そのばあさんが、若い頃にこのマンションに、住んでたって?・・・マジかヨッ!・・・それって認知症ジャン!』オレは、今日、珍しいことがあったって、美穂が言うから、なんだろうって随分期待していたのだが、単なるボケばあさんと、昼飯食ったって話しかヨォ・・・と、がっかりもし、呆れもした。
『会社じゃあ~上司と部下の板挟みで、四苦八苦の毎日というのに・・・美穂なんか、見ず知らずのばあさんの波乱万丈の人生を、愉しんでいるのか・・・』オレは、そんなどうでもいい、他人様の人生になんか、まるで興味なんかない。堪えていた睡魔に襲われ、ソファーへ逃げて、うつらうつらしていたら、美穂の右手で鼻柱を小突かれた。『何するんだ!』と、寝ぼけていて、慌てて応戦しょうとしたら、ホクロがどうたら、こうたらと言っている。『ばあさんの右手首の同じところに、美穂と同じホクロだって?』オレは、正直のところ、言い知れない戦慄が、背筋を駆け抜けるのに耐えていた。口では、「そんなバカなぁ!」と言ったが、『未来の美穂!かも・・・』と、ほんの一瞬でも、信じかけている自分に驚きもした。
 洗い物にキッチンに立った美穂を残して、オレは自分の城へさっさと退散することにした。


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