遺産分割(調停)の進み方

 遺産分割の協議や協議がまとまらず調停となった場合、どのような観点から進めていくのか、東京家裁が公開している調停の進め方を基に述べたいと思います。

1 相続人が誰か。

 まず、相続人が誰なのかを確定しないことには、協議・調停の当事者が確定しません。

 被相続人が生まれてから亡くなるまでの除籍謄本・戸籍謄本・改製原戸籍謄本などを取り寄せて確認します。

 戸籍謄本等は配偶者・直系尊属(両親・祖父母など)・直系卑属(子・孫など)は原則として取得することができますが、これらの人以外の第三者は、自己の権利行使のためなどの正当な理由がある場合に限り取得することができます。生まれてから亡くなるまでに転籍が繰り返されたり、離婚等があると何通も取り寄せをしなければならず煩雑です。弁護士等に依頼するという方法もあるでしょう。

 この確認の過程で、被相続人が再婚で前妻との間に子がいることが判明したり、認知をしていたり、養子がいるなど、思わぬ相続人の存在が判明することもあります。

 ここで、養子縁組の効力を争うということであれば、養子縁組無効確認の訴えなどを起こして、相続人の範囲を確定することになります。遺産分割の調停を申立て後、ここで争いがあれば、調停はいったんストップし、訴訟の帰趨を待つことになります。

 また、認知症や障害等で意思能力に問題がある相続人がいる場合には、代わりに意思表示をする成年後見人等の選任の申立てをすることになり、配偶者と未成年の子が相続人の場合、配偶者は未成年の子の法定代理人親権者ですが、利益相反となってしまうため、特別代理人の選任の申立てをする必要があります。

2 遺産分割の対象となる遺産の範囲

 次に遺産分割の対象となる、相続人間で分配する対象となる遺産が何かを確定します。

 原則として、被相続人が亡くなった時点で所有し、遺産分割をする時点で存在しているものが遺産分割の対象となる遺産となります。

 遺言や先に遺産分割協議をし協議書等で分け方が決まっている財産は、遺産分割(調停)の対象になりません

 したがって遺言の有無や内容、先立って遺産分割協議をしたか否かの確認がされるでしょう。相続人全員の合意があれば遺言の内容に従わず、相続人間で遺産分割協議をすることが可能なので、その点の確認した上で、なお分割協議が必要なのかどうかの判断をすることになりますし、遺言の効力を争うのであれば、別途遺言無効確認の訴訟を起こすことになります。

 相続人に対し、生前に贈与がされたり、遺贈がされた財産は特別受益として相続財産とみなされ(民法903条1項)、持戻しの免除の意思表示があるのか(同3項)、推定されるのか(同4項)もこの場面で確認がされるでしょう。

 東京家裁の書式では、贈与等がされた財産、既に分割された財産について、その旨を記載した財産目録を提出するよう求められています。

 相続法改正により、共同相続人の全員の同意(処分をした共同相続人の同意は不要)により、遺産分割前に処分された財産についても遺産として存在するものとみなすことができる(民法906条の2)とする規定ができたので、これについても確認されるでしょう。

 なお、名義は相続人であるけれど、実質の所有者は被相続人である(またはその逆)など遺産の範囲について争いがあるのであれば、遺産の範囲の確認をするための訴訟を起こすことになります。

3 遺産の評価

 預貯金・現金などは金額がはっきりしていますが、不動産等の評価額については、評価方法により変動が生じ、争いになる場合があります。

 相続税評価額、公示価格等を参考に評価額を当事者間で合意するか、不動産鑑定士等に鑑定を依頼し、評価額を確定をするなどの作業が必要になります。

 調停の場合には、裁判所に鑑定費用を納め、裁判所から鑑定人に依頼がされます。

4 各相続人の取得額の確定

 確定された遺産の範囲と評価額を前提に、各相続人の法定相続分に基づいて、また、特別受益や寄与分、遺産分割前の預貯金の払戻しや処分などを考慮して、各相続人の取得額を確定します。

 寄与分に争いがあれば、別途寄与分を定める処分の調停・審判を申し立てることになります(もともと寄与分を主張する相続人が早い段階で申し立てることも考えられます。)。

5 分割方法

 確定した取得額をどのような方法で分割するかを決めていきます。

 現物分割(物を分ける)

 代償分割(物を分けるが差額をお金で払う)

 換価分割(売却したお金を分割)

などの協議します。

6 合意した場合、まとまらなかった場合。

 これらの段階を踏まえて、合意・調停成立なれば、協議であれば合意書を取り交わし、調停であれば、裁判所が調停調書を作成します。

 協議でまとまらなければ、調停を申し立て、調停でもまとまらない場合には、審判に移行し、最終的には裁判所が分割方法等を決定します。

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