見出し画像

【ショートショート】窓辺の鬱屈

 杪夏の昼下がり、私は窓の外を眺めて電線で羽休めをしているスズメを数えていた。数えるのが億劫になるほどのスズメ達が、一直線に肩を並べてこちらを見下ろしている。ろく、なな、はち…頭の中で声が反響する。

 ふと、一羽のスズメが飛び上がると、それに引っ張られるようにわらわらと他のスズメが続いていく。周りの空気に流されるちっぽけな存在だな、と思った。

 中途半端に終わらせられてしまったのでモヤモヤしてしまった。こんなことなら最初から雲でも見つめていればよかった。あの何もかも知っていそうで、でも何も知らなそうな純白の巨大な雲は、遠くの扇状地を薄黒く染めている。

 雲なら唐突に消えてしまうことはない。堂々と空を泳ぐさまをじっくりと観察し、風を感じることもできた。

 私は今年で就活生となった。それまでは自己分析や業界・企業研究といった準備を進めてきた。だから何とかなると高を括っていたのだが、この時期になってもまだ就活をしていた。

 あれだけ何度も書き直した自己PR文を載せた書類はことごとく落とされ、面接までこぎつけても一次で落とされる始末だった。

 社会から「君はいらないよ」と言われている気分だった。私はすっかり自信を無くしていた。こんなはずじゃなかった。とっくに内定をもらって友達と遊び呆けているはずだったのに。

 みんな同じ黒いスーツを着ているのに、結果は平等じゃなかった。早い人は去年に内定を勝ち取っていた。私は夏休みが終わってもそれはなかった。

 もうどうだってよくなった。なんで就活しなきゃならないのか、そこまでして社会に属さねばならないのか。生きる理由なんてなかったから、そんな疑問が浮かんできた。

 あの雲のように、自由で、おおらかで、自らに捕われない存在になりたかった。そんなことを思いながら妬むようにじっと見つめていた。

 幼い二人の子供がキャッキャと向かいの家の庭で遊んでいるのが目に入った。あの子らも将来は、私のように就活という社会に属すための試練を受けるのだと思うと胸が苦しくなった。それと同時に社会を恨んだ。

 明日は地元の企業説明会がある。もうどこでもいいから受け入れてほしかった。この世界の歯車となることで安心したかった。私は不必要ではないという証拠が必要だった。それさえあれば、この苦しみから逃げ出せる気がしたから。

 雲は絶えず変化し流れ続ける。社会と同じように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?