閉鎖病棟24時
私が精神科の閉鎖病棟に入院した時のお話しです
7.8年前の話です
私は比較的症状が軽かったのですが、
地元で有名な精神科に入院させられました
閉鎖病棟です
朝の10時から夕方4時の間以外は、病棟が閉鎖され、更に許可された人しか出入りできません
最初は戸惑いましたが、段々慣れてきました
枯れ専の私は、80代前半のおじいさんと仲良くなりました
デイルーム(テレビが設置され、長テーブルと椅子があり、そこで食事したり患者同士で話をする場所)で、夕方おじいさんの隣に座ってテレビを観ていました
すると、そこにツカツカとやってきた女性患者(名前を忘れたのでAさんとします、40代前半くらい?小太り)が、
私の前のテーブルにバンッと手を置き、
「ちょっと、私の旦那に手出さないでくんない?」と目の前で私を睨みました
ビックリした私
「え?旦那さんなんですか?」とおじいさんを指差しました
Aさんは、「そう、私の旦那!色目使わないで」と言って去っていきました
こわ~
確かにAさんとおじいさんは、デイルームで仲良くしてるところを何度か見かけましたが、
おじいさんには、ちゃんと奥さんがいらっしゃって、よくお見舞いにきます
Aさんは何かの妄想に取り憑かれてるのだな、と思いました
病院の外の喫煙所に座っていると、
Aさんがやってきました
「うわ…またなんか敵意剥き出しで言ってくるのかな」と思って逃げようとしたところ
Aさんがにこやかに私に話しかけてきました
「見てこれ、私の家」
Aさんが私にスマホを見せてきます
そこには立派な部屋が映されています
「へーすごいですねぇ」と私は返しました
得意気になったAさん
また別の写真をスマホで見せてきます
「これ私がモデルやってた時の写真」
見るとAさんとは明らかに別人の、欧米白人女性の写真です
ゾッとしました
Aさんやば…
現実と妄想がごちゃ混ぜになってるようです
「キレイですね~」と愛想笑いをして、その場を去りました
私はその後、なるべくAさんに関わらないようにしました
ある朝早く目が覚めた私は、デイルームで朝食を待っていました
朝食までまだ時間があるので、デイルームには他に一人居るくらいです
女性患者Bさん(40代前半くらい、ミニスカートを履くのが好きです)が、ツカツカとやってきて
ナースステーションの窓をノックしました
デイルームの隣にナースステーションがあり、患者が入ってこれないよう窓だけが設置されています
中に居た女性看護師が窓を開け、対応します
Bさん「また眠ってる間に口の中に毒いれましたね?喉が痛くて仕方がない、もうこういう嫌がらせやめてくれませんか?」と怒ってます
看護師さんは、「そんなことしていませんよ」と言います
それでも曲げないBさん
「毒入れないでください!訴えますから!」
看護師さん「眠ってる間の様子は見に行きましたが、口開けて眠ってましたよ」
怒ったBさん
窓をピシャッと閉めて去っていきました
Bさんも何かの妄想に取り憑かれてる…
ていうか、看護師さん可哀想…
こっちまでおかしくなりそう…
早く退院したい…
Bさんともなるべく関わらないようにしました
部屋の中に居るのも退屈なので、デイルームで過ごしてました
すると、後に仲良くなるMちゃんが居ました
手首、腕、首筋に自傷した切り傷の跡がたくさんあります
全身にタトゥーも入れてます
目も座っています
デイルームに座っていた男性患者に
「俺(Mちゃんは自分のことをこう言ってました)、ガス吸って朦朧としてたら、新撰組の斎藤一と土方歳三が刀で斬りかかってきた、抵抗するために大声あげたら、気付いたら病院に居た」などと話してます
話された男性患者は頭をガシガシと掻いた後、
「う~ん、俺はMちゃんの言うこと信じるよ」などと言ってます
私は聞いてて「?」です
Mちゃんもヤバい
でも私は仲良くなりました
Mちゃんはいつの間にか入院患者の中で人気者になり、話してるととてもクレバーなことがわかりました
Mちゃんから連絡先を渡され、退院後も連絡を取り合うようになるんですが、それはまた別のお話
ある日喫煙所の椅子に座ってタバコを吸っていると、隣に座っていた女性から
ジェスチャーで「タバコ一本ちょうだい」と言われました
私はタバコを一本あげて、ライターで火をつけてあげました
どうやらこの女性は、いろんな人にタバコをねだっているようです
女性を見ていると、着ている服はボロボロ、タバコの火で焼け焦げた丸い穴もありますし、ガリガリです
女性が何が悲しいのか、無言で涙をこぼし泣き始めました
心配して見ていると、同じ病棟らしき他の患者がやってきて
「◯◯ちゃん、大丈夫?ほら、立って」と言って両手を差し伸べました
顔見知りの看護師さんもやってきて「◯◯ちゃん、ここに居たの~」などと言われ、
何か可愛がられてます
段々分かってきました
世間一般からしたら「頭おかしい」ですが、
ここではそれも「個性」として受け入れられているのだと
私は入院は恥ずべき事だと思っていましたが、
この病院の居心地の良さから、
入院することを厭わない人達が居ることを知りました
少し話すようになった中年男性が、
もう何回目の入院なのか、この病院の事を知り尽くし、冷蔵庫で自作のアイスコーヒーを作って、皆に配るなどしていました
かなり手慣れています
中年男性が、退院することになった時、
「俺また秋にはここに入院するからさ」などと捨て台詞を吐きました
恥じることもなく、臆することもなく、
どこか自慢気です
ああ、この病院は精神病患者の蟻地獄になっているんだな、と思いました
私は一人部屋から大部屋に移されました
一部屋に4人
その部屋が最悪でした
20代前半くらいの若い女性患者が
大声でしょっちゅう一人言を叫んでいます
眠れません
看護師さんに相談すると、空いてた隣の大部屋に移動してもらえました
そこもまた最悪でした
後から入ってきた50代くらいの女性患者が、夜中明かりをつけて起きています
「ふんっふんっ」と言って枕を殴っているようです
音と明かりで眠れません
見回りに来た看護師さんに「ちょっと何やってるの!」と注意され、静かになりました
その女性患者は、何か見えないものが見えているようで、しょっちゅう虫を払うように、手で見えない何かを払ってます
朝デイルームに居ると、女性患者がナースステーションの窓を開けて、
「あんたたち、出身大学どこ!?」と叫びました
看護師さんたちは「それはお教えできない決まりになっています」と返しました
「フンッ」と言って女性患者が窓をピシャッと閉めました
また見えない何かを手で払っています
夕食後、デイルームでゆっくりしていると、
何やら叫び声が聞こえます
「ちょっと何なのよあんた!!」
声の主は、20代前半のキレやすい女性患者Cさん
30代前半の女性患者Dさんにキレているようです
どうやら、Dさんがイヤホンで音楽を聴きながら歯磨きをしていたところ、
隣の部屋で聞こえるはずもないイヤホンの音をCが聞いて
「うるさい」と注意したら
Dさんが「は?」と返してきたので、キレたのこと
看護師さんたちが、駆けつけます
「いい年した大人があんな返し方ありえない!!」とCさんはまだ怒りを抑えられていません
以前Cさんは、電話で皆に聞こえるように
同じ部屋の入院患者の悪口を言っていました
Cさんは、多分精神病というより性格が悪いだけなんじゃないか…?と私は思いました
Dさんも変わった人です
私が仲良くなった女性患者のHちゃんに
「私12歳の頃出産したの、Hちゃんって名前をつけたの、もしかして私が産んだHちゃん?」
などと言ってます
どこまで本当かはわかりません
Hちゃんは「いえ、違います」と否定しました
就寝前、デイルームに居ると、男性患者が看護師さんに何やら相談しています
「同じ部屋の患者が夜中ラジオをかけててうるさくて眠れない、隔離部屋に入れて眠らせて欲しい」と
「隔離部屋の方がうるさいですよ?」と看護師さん
「それでもいい」と男性患者は言いました
その男性患者、眠れなくてイライラしてたのでしょう
喫煙所に居ると、一人で大声を出して騒いでるおじさんが居ました
おじさんが去った後、男性患者は「うるせえ!じじい!」と叫びました
おじさんが戻ってきて「なんだ?今うるせえって言ったのはどいつだ!?」と怒鳴りました
男性患者はもちろんのこと、喫煙所に居た全員が沈黙しています
おじさんはまた去っていきました
いや、病気だから仕方ないんだけど…
ここに居るとこっちまでおかしくなりそう
外の世界に戻りたい
しばらくして、私は退院することになりました
この病院で学んだことは特にありません
とにかく早く外に出たい一心でした
気付いたことと言えば、閉鎖病棟の入院患者は人権があるようでないこと、部屋は別であるけど男女が同じフロアに詰め込まれること(夜這いとかあったらどうするんでしょう?)などです
これ以外にもいろいろすごいことがありましたが、このへんで
私はもう二度と入院しません