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日本建築の屋根を特徴づける「唐破風」

こんにちは、Akiです。
建築好き通訳ガイドの視点から、建物の魅力について紹介します。

日本の寺社や城郭などは、日本人だけではなく、外国人観光客にとっても人気の建物ですよね。日本の伝統建築を鑑賞する際に、建物の特徴的なデザインについて知っておくと、その体験がより楽しくなると思います。
今回は、日本建築の特徴である屋根、その中でも破風(はふ)についての話題です。

日本建築における屋根と破風

日本の年間降水量は世界平均の2倍近くあり、世界的に見ても雨が多い国です。そのため、日本建築は軒の深い大きな屋根を持ち、さまざまな材料と意匠、そして付加された装飾物を持つ屋根は、日本の伝統建築を特徴づけるものといえます。

屋根にある破風(はふ)と呼ばれる部分は、もともと建物の妻側(つまがわ:棟と直角にあたる両側)の三角形の部分、もしくはそこに取り付けられた板のことをいいます。
破風には、シンプルな三角形の「切妻破風(きりつまはふ)」や「入母屋破風(いりもやはふ)」、屋根の上に置かれる装飾的な「千鳥破風(ちどりはふ)」、弓のような曲線を持った「唐破風(からはふ)」などの種類があります。

この中で、日本特有の破風である「唐破風 (からはふ) 」に注目してみましょう。

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高松城・月見櫓(つきみやぐら)1676年上棟

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高松城・艮櫓(うしとらやぐら)1677年上棟

唐破風の由来

唐破風はその名称から、中国由来と思われがちですが、日本特有の破風形式です。その歴史は平安時代にさかのぼるといわれています。日本では中国の先進的な文物を「唐物(からもの)」と呼んで珍重し、何か目新しいものに「唐(から)」という名を付ける傾向があったので、「唐破風」と呼ばれるようになったものと思われます。

ときどき、寺社や城郭などの英語の説明で、唐破風のある唐門(からもん)を、単に”Chinese Gate”とか、"Chinese-style Gate"とだけ訳したものを見かけることがあります。
これだけだと中国式の門という、誤解を招きかねない表現なので、唐破風とそれを持つ唐門は、日本特有のものであるという説明の必要性を感じます。

唐破風の普及

唐破風は鎌倉時代以降、その見た目の装飾性の高さ(派手さ)から、寺社・城郭・貴族や武家の屋敷などで使用され、現存する多くの建物に見ることができます。

唐破風が特に流行した時代は、建築史家の藤森照信先生の言葉を借りると、次の通りです。
「日本には珍しく派手でにぎやかな造形であれば、好まれる時代は一つしかない。すぐ予想がつくように信長が安土城で、秀吉が聚楽第でしたい放題をした安土桃山時代である。」(「藤森照信の建築探偵放浪記―風の向くまま気の向くまま」より引用)

江戸時代にも、唐破風は日光東照宮や格式高い寺社など、記念碑的な建物に多く使われています。

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京都 西本願寺・唐門(桃山時代の遺構)

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鎌倉 建長寺・唐門(江戸時代初期)

珍しい唐破風の例は、沖縄の首里城正殿に見られます。
沖縄の首里城は一見、中国の故宮(紫禁城)に似た城郭ですが、正殿は正面に大きな唐破風を持つ建物で、和風の意匠が見られる建築です。このことから、唐破風が日本建築の大きな意匠要素であったことがうかがえます。

ちなみに首里城では、唐破風の破が「破れる」という意味で縁起が悪いので、縁起のいい「玻」という字を当て字として使い、「唐玻豊(からはふう)」と呼ばれています。沖縄らしい美しい言葉の響きですね。

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沖縄 首里城・正殿(2019年7月撮影)

首里城正殿は、江戸時代の1715年に建築され第二次大戦で失われた建物をモデルに復元されたものでしたが、残念ながら2019年に焼失してしまいました。その再建が待ち望まれます。

現代における唐破風

唐破風は日本の屋根を大きく特徴づけるものとして、江戸時代以前の建築物だけではなく、明治に建てられた第二期の歌舞伎座でも使われました。
そして、2013年に建築家・隈研吾氏のデザインにより完成した、第五期の歌舞伎座まで踏襲され続けています。

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東京 歌舞伎座(2013年竣工)

また、関東大震災後の東京で再建された、多くの銭湯の顔としても使われ、その特徴的な外観からそれらは「宮型(みやがた)銭湯」あるいは「宮造り(みやづくり)銭湯」と呼ばれています。
東京・小金井市の「江戸東京たてもの園」(文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、復元・保存・展示する野外博物館)に移築・展示されている「子宝湯」は、スタジオジブリ・宮崎駿監督のアニメーション映画「千と千尋の神隠し」に登場する、湯屋「油屋」のモデルの一つともいわれています。

東京の宮型銭湯はかなり少なくなりましたが、それでもまだ残っているものがあるので、街中で見かけたら、外国人観光客に説明するとおもしろいでしょう。

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江戸東京たてもの園 子宝湯(1929年) 入母屋破風、唐破風

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東京・上野 燕湯(1950年 再建)入母屋破風

このように唐破風は現代にいたるまで、日本建築を特徴づける大きな構成要素になっています。

参考文献

「藤森照信の建築探偵放浪記―風の向くまま気の向くまま」 藤森照信、経済調査会
「英訳付き ニッポンの名前図鑑 日本建築・生活道具」 淡交社編集局 (編集)、山本成一郎 (監修)
「首里城公園 ホームページ」


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