ビデオゲーム感想文          『APEOUT』をクリアした男

 こんにちは。のびです
 PC版が難しくてクリアを断念していたのだが、switch版がセールだったのを期に購入して再走。無事にクリアすることができた。結果、最後まで遊んでよかったと心の底から思える素晴らしい体験になった。

 プレイヤーは一頭の猿(APE)となり、自分を閉じ込めている、研究所・オフィス・船倉という様々な檻から脱出(OUT)することになる。チョークアートのようなざらっとした背景に記号のようなキャラクターたち、と海外の絵本のようなビジュアルの本作だがゲームバランスはかなりシビアだ。
 こちらはあくまでAPE。SUPERでもMAGICでもMACHINEでもないただのAPE。対して敵は文明の利器を手にしたHUMANで、彼らは容赦なく文明を行使する。銃ならなんとか二発まで耐えられるが、爆発物なら一発でODABUTU。さらにステージには無数のHUMANが配置されているため、まさにKOGUNHUNTOU。さらにステージのマップと敵の配置はリスタートする度にランダム生成されるため、死に覚えもできないという……この辺りの難易度設定がこのゲームのキツいところだ。
 プレイヤーは必然的にトライアンドエラーを繰り返すことになるのだが、こちらの手数は無慈悲なほどに少なく、シンプルだ。使用するのは移動キーと突き飛ばし(壁や別な敵に激突させることで倒せる)と掴み(掴まれた敵は前方に銃を乱射する)の二つの攻撃ボタンのみ。先に言った通り、こちらはただのAPEなので攻撃範囲は狭く外れることも多い。気を抜けばあっという間に銃弾を叩き込まれて蜂の巣にされる。された。どうにもならない。ここまでだと、高難易度の不自由なゲームという印象になるのだが『APEOUT』 はそれで終わりではない。

「ウホ…このゲーム…クリアできない…難易度…悪い文明…許さない」

 と、嘆きながら遊んでいると不意に今までクリアできなかったステージが突破できるようになる。敵との距離感、攻撃のタイミング、戦うか走って通過するかの判断、そういったことが遊べば遊ぶほどに分かってくるのだ。それはまさに野生の勘と呼ぶに相応しい感覚だ。自分の中の野性が呼び覚まされる。これこそがこのゲームの最大の魅力だと思う。
 そして、引き出された「野性」はBGMでさらに増幅される。『APEOUT」全編に流れるのは激しいジャズミュージックだ。音楽が前へ前へとプレイヤーを後押しする。さらにAPEが敵をSMASHするとき、ドラムやシンバルのパーカッション音が発生するので、あたかもジャズのセッションに自分も参加しているようなノリが生まれる。さらにランダム生成されるダンジョンも相まって同じノリは二度と生まれない。それはまさにフリージャズの世界だ。大げさではなく、自分自身に合うノリが見つかった時が難関ステージをクリアする瞬間でもある。最初は不協和音のように聞こえていたゲーム音が、気が付けば暴力的なまでに荒々しいジャズを奏でていることをプレイヤーは発見するだろう。そのためには何度もトライアンドエラーを繰り返さなければいけないというのが、このゲームのジレンマでもある。しかしそれを繰り返すだけの価値がこのゲームにはある。少なくとも私にはあった。

「この世でいちばん気持ちが良いエンディングのゲームかもしれない」
『APEOUT』をクリアした後に思わずTwitterで呟いてしまったように、怒ったAPEのような唸り声をあげながらよやくたどり着いたラストステージ、そしてエンディングは本当に気持ちが良いものだった。(よく考えてみれば(考えなくても)山ほどの人間に銃を突きつけられて、山ほどの人間を壁に叩きつけているAPEを操作している我々のこととか、動物愛護とか自然保護とか、もっと感じ取るべきことがあるのかもしれない。しかしそれらを脇に吹っ飛ばすくらいにラストステージとエンディングは爽快で気持ちが良い)私は拍手を送ったし、踊り狂った。ぜひ貴方にも4つの長いステージを駆け抜けてきたAPEの意思がたどり着く結末を見届けてほしいと思う。Steamでもswitchでも構わない、自分の中のAPE(野性)をOUT(解き放つ)のは今だ。


※ちなみに4ステージをクリア後におまけステージが解放される。こちらも大変素晴らしい。『APEOUT』では各ステージがレコードのDISC(これがめちゃくちゃお洒落。前半と後半がDISCのA面とB面として切り替わる)で表現されているのだが、なぜDISCなのかというところの謎解きにもなっている……と思う。自信がないのは私がそう解釈しただけの可能性があるから。
 

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