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2021年8月14日(土)・塚本監督オンライントークレポート@宮崎キネマ館

7年目の『野火』この日のオンライン行脚4か所目、最後は宮崎キネマ館さんです。MC喜田支配人の進行でオンライントークを行いました。『野火』の上映は初年度ぶりです。

2021年8月14日(土) 14:50の回上映後
会場:宮崎キネマ館
MC:喜田支配人

2021年4月に移転リニューアルオープンをされた宮崎キネマ館さん。『野火』の上映は初年度ぶりです。お客様が場内で書かれた質問用紙をスタッフさんが集め続々と喜田支配人のところに届いてきます。
 
「当館では6年ぶりの『野火』になります。久しぶりにこの作品を拝見してすごい作品だなと改めて思いました。匂い立つような迫力に圧倒されておりました」という喜田支配人より「『野火』を続けてこられて監督の感触としてははじめの上映のころと今と何か変わってきたなということはございますでしょうか?」と問われ「今がやっぱりコロナのことでだいぶ厳しい状況ではあるんですけど、本当こんな状況の厳しい中に集まってくださるお客様におひとりおひとりにありがたいなって感謝があります。お客様自体は最初のころは年配のお客様が多かったんですけど、最初に上映した戦後70年というのはその年の中でもやっぱり今の状況って世の中おかしいよって方がだいぶいらして、お子さんをお持ちのお母さんとか若い人とかいろんな人が観てくださるようになっていって、お客様もどんどん推移していきました。2年目3年目とお客さんが減らないでどんどん増えていくような感じの状況があるのでいっぺんに多くの方に観ていただくことは難しいんですけど、こうして地道に活動して映画を上映していただけることで少しずつでもお客様がのびて来てくださることが非常に今ありがたいです。」と感謝を述べました。
 
はじめて『野火』をご鑑賞の方に挙手いただくと半分以上。「戦場の地獄を体験させていただいたような素晴らしい映画でした。戦争はしてはいけないと改めて思いました。人間が一番コワイ生き物だと感じています。」「あまりに濃密すぎて、言葉を失ってしまいました。今日ほど映画が臭いを感じられないことをありがたく思ったことはありません。戦争を知らない世代が増えていく時代に観るべき作品の1つだと感じます。」「人の醜い姿が全面に映し出される中で、自然の美しさがとくに際立ちました。」などのご感想があがりました。
 
(以下、一部抜粋、再構成、編集等をさせていただいています。)
 
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Q:ハエはどうやって演技指導したのですか?

塚本監督:僕のこの手ですね。切れた足の造形物があってそこのすぐ周りにスタッフが汚物を撒いて、そうすると本当のハエがうーっとたかってくるんですけど、そのハエを僕が足首に近づく演技をしながら手を動かすとちょうどその手の動きにあわせてハエがぷーんぷーんと舞うという。ああいうときに自分で演技してよかったなと。僕が尊敬する俳優さんを連れてきていたら本当の汚物をぶちまけるわけには到底いかなかったでしょうし、ハエをご自分の手で動かしてくださいなんて到底言えませんし、あの時だけは自分でやってよかったなと思う瞬間でございました。ハエはCGじゃなくて本当のハエなんですね。最初はハエだけはCGじゃないと無理かなと思ったんですけど、前の日に山の中の牛小屋みたいなところからスタッフが袋の中にハエをいっぱい集めて持ってきたんです。現場で袋をあけたのですが、ハエがみんな袋のすみっこによっちゃって全然出てこないんです。最後には汚物を持ってきて僕のまわりにぶちまけたら山の中から本当のハエがやってきて手で動かしたというそういう感じでございました。」

Q:コロナ禍で入院できず自宅療養を余儀なくされる人が実際に増えてきている現状が、映画の冒頭の野戦病院に行っては追い返される主人公の姿に重なってゾッとしました。

塚本監督:最初は戦争を描いた『野火』とコロナのことをそんなに結び付けて考えることもできないくらいコロナってものには翻弄されていたんですけど、時間が経ってくるとだんだんいろんなもののありようが見えてきて、今の状況ってかなりこの『野火』の冒頭シーンに似てますね。そうするとその後に起こってくることはって考えるとゾッとすることがありますよね。

Q:市川崑監督の『野火』を意識したことはありますか?

塚本監督:市川崑監督の『野火』は僕が高校生の時に原作を読んだときとだいたい同じころに観てすごく強い印象を受けました。当時僕は8ミリフィルムで映画を撮ってた映画小僧だったんですけど、そのときの映画にはもろに影響を与えて白黒の戦争を扱った映画をつくったりしてたんですね。ただこの『野火』ってことで考えると原作を読んだときに感じた印象と映画を観た感じとはちょっと違っていて。市川崑監督の映画は白黒で兵隊さんの心のありようにカメラが迫ってるんですけど、自分が原作を読んだとき(の印象)は圧倒的に美しいフィリピンの自然の中にいる卑小な本当に汚らしく何ともいえない異様なことをしている人間という自然と人間の対比だったので、そちらを描くべきと思って描きました。そこの入り方はかなり違うところかなと思いました。

Q:中村達也さんを他の作品でも配役されていますが、中村さんの役者としての魅力はなんでしょうか?

塚本監督:最初に出ていただいたのは『バレット・バレエ』という今から20年以上前の映画です。中村達也さんがまだ演技というものをしたことがないときに最初にお願いしました。ブランキー・ジェット・シティっていうバンドのある写真集があり、その中の中村さんがすごくかっこよくて、『バレット・バレエ』の映画のイメージそのものでした。僕は写真でイメージファイルみたいなものをつくってるんですけど、その中に中村達也さんの写真も入れてたんですね。あるときに中村さんをイメージとして考えるんじゃなくて本当に映画に出ていただいたらいいなと思って、一か八かお願いしてみたところ、引き受けてくださいました。その魅力はひとつでいうとかっこいいっていうことなんですけど、よく考えると僕の映画で中村さんてすごくかっこよく現れて最後ぼろぼろに崩壊していくんです。そのかっこよさと滅びの美みたいなことを体現されてる方かなと思っています。

Q:書店で働いていて毎年夏に原作の文庫本がフェアにのってくるのですが、3年で1冊も売れずに返品していました。小説ではなかなかにハードルの高い作品かと思います。映画にしなければと思われた理由を今一度伺いたいです。

塚本監督:売れないんですか!?意外でした。僕はやっぱり毎年読まれてるものかなと思っていたので。そしたらますます使命感を感じちゃうんですけど。あくまでも原作にインスパイアされてつくった映画ですので、原作に捧げる映画と言ってもいいと思っているものですから。この映画の『野火』はなるべく原作に近づけようと思ってつくった映画です。原作そのものの素晴らしさもぜひ味わっていただきたいと思うので、やっぱり原作も読んでいただけるように、何とか方法を考えないといけないなと新たに思いました。

Q:極限状態で戦友を「食う」という行為が描かれていますが、一方で負傷兵自ら「食われる」ことを望んだという事例をどう考えられますか?浅田次郎氏の小説(※)で「腹に収めて母国へ連れ帰ってくれ」と頼む場面があります。『野火』の撮影に当たり、そのような事例を聞くことがありましたか?

塚本監督:また新しい情報です。実は僕は聞いたことがなくて。こうして『野火』の上映を繰り返していてこうしてトークしてて一番実りのある瞬間だなと思うのが、それまで知らなかったことを知って自分の中にこう加えていって、実際そのときあったことがまた膨らんでいくことです。今の「自分の肉を食べてって」という話はちょっと聞いたことないですね。フィリピンの戦争の体験者の方に聞いたときもその話は聞いたことがなかったのと浅田次郎さんの小説も僕はちょっと知らなかったですね。ただ僕自身の実感として食べられるか食べるかっていう場所なわけですけど、自分が本当にもう1ミリも動けなくなっちゃったときに、もしそこに本当に大好きな親友がいたんだったら、なんかちょっと「食べてって」っていうのは実はあるなとつくりながら思ったことがちょっとあるという感じですね。でもそこに至るまでにはもっとこう熾烈なことがあると思うのでなかなかその思いに至るのは大変なことだなと思うんですけどね。読んでみないといけませんね。

Q:戦争が終わっても戦場で戦った人の心の中にはいつまでも暗く残る記憶があるのだと思うと何だかせつなく辛くなります。私は戦争映画はあまり好きではありませんが、二度と同じ過ちを繰り返さない為にも戦争を知らない世代へ語り継いでいく必要があるのを感じます。

塚本監督:本当にその通りです。フィリピンの戦争に行った方に僕インタビューしましたけどその方はもう亡くなってしまって、今一番怖いのは戦争を肉体の痛みとして体感されてる方がいらっしゃらなくなってきてると同時にやっぱり戦争の方に近づいていってるという感じがぬぐえないことです。何とかこう実感を持って戦争の恐ろしさを伝えられる方法っていうのを考えなきゃいけないなと思ってるところですね。『野火』はその自分のできるいちばん大事な仕事の一つだったんですけど、これからその戦争体験者の方の話を聞けなくても想像でつくってかなきゃいけない時代になってきます。それがきっと作り手にとっての大きな課題になっていくんだろうなというふうに思っています。

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(※)浅田次郎氏の短編集『帰郷』に収められている「金鵄のもとに」
後日質問者の方から劇場にお手紙をいただき教えていただきました。ありがとうございました!

宮崎キネマ館さん、ご来場のお客様、ありがとうございました!

宮崎キネマ館
宮崎キネマ館│TOP・上映中 (bunkahonpo.or.jp)

7年目の『野火』上映記録
8/13(金)~8/20(金)
8/14(土)上映後、塚本監督オンライントーク

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