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2021年8月21日(土)・塚本監督オンライントークレポート@高田世界館

7年目の『野火』この日の塚本監督オンライントークは現存する日本最古級の映画館、上越の高田世界館さんです。MC上野支配人の進行でトークを行いました。

2021年8月21日(土) 14:00の回上映後
会場:高田世界館
MC:上野支配人

上野支配人の呼び込みで大きな拍手に迎えられ塚本監督がスクリーンに登場。はじめてご鑑賞の方に挙手をいただくと7~8割ほど。上野支配人は「毎年新しいお客様にお越しいただいて本当にうれしく思っています。」と述べました。
 
丸6年たって7回目の上映となった『野火』について上野支配人は「毎年毎年感じ方も変わってくるでしょうし、世相にあわせて今年1年を振り返ってみても世界のあちこちで紛争がおきてたりします。この『野火』という作品は戦場にいるかのような体験できるような肉体に迫ってくるような描写がすごく多くなっている作品です。戦争が遠くなってると言いつつもある意味ではあちこちで戦争が起こってるという中で私たちは日本というある種平和な国にいるわけですが、戦争の恐ろしさを体感する上では重要な作品ではないかと。観られたお客様もそう思っていただけたのではないかなと思っております。」と語り、「7年目であらためて感じてること」を尋ねました。
 
塚本監督は「戦後70年の年に最初の公開をしたわけですけれども、この映画自体はずーっとつくりたかった映画です。何か日本がだんだん戦争に近づいていくんじゃないかっていう危機感があって今つくんなきゃと一生懸命つくって公開したのがちょうど戦後70年の年です。その年というのは70って数字が明瞭なせいか戦後70年というのを強く意識するような世の中の雰囲気があったんですけど、71年72年ってなっていくともう少し戦争に対する意識が遠のいていっちゃうところもなきにしもあらずでした。ただそういう心配がなくなったかっていうと心配はより大きくなっていっているので、こうして毎年上映してくださる劇場さんがあることがまず本当にありがたく思ってます。1本の映画が7回もこうして毎年日本で30館もの映画館で上映してくださるのが奇跡のように思っています。お客様が毎年きてくださることに本当に感謝しております。ますます不安な世の中になっていくので、いろんなこと考えていただくきっかけとか材料にしていただけたらなと思っております。ひとつの答えを提示するような映画じゃないので、戦争に近づくっていうのはこういうことだけどこれからどうしますかってことの材料にしていただけたらありがたいなと思っています。」と答えました。

質問タイムでは原作を読んでいて映画は初見というお客様より「これをこういうふうに文字から映像を起こすんだなと。ここまですごかったんだっていうのが今はじめて視聴させていただいた感想です。大変貴重な体験をさせていただいたと思います。」とのご感想。塚本監督は「僕は原作を高校生のときに読んで、最初に受けた印象が年を取るごとに変わるかというとあまり変わらないまま、20代30代もすごく映画にしたくて40代で本当にしようと思ってがんばったんですけどできなかったんです。最終的に50代になるまで、最初読んだ印象とあまり違わないものが映画になったような感じです。ずーっとここだけは外さないで映画にしたいってところをぎりぎりそこだけつないでつくったような映画です。かなり経済的には厳しい状況でつくったんで、どうしてもあきらめられないところだけをつなげました。本当に原作の素晴らしさにどうしても近づきたいって思いでつくりました。」と答えました。質問者の方は戦闘のシーンについて「私が今まで観たどの映画よりも迫真さというか迫りくるものがあってこんなふうに映画撮れるんだなと。傍観するような視点じゃなくてその場にいるような感じで恐ろしく見させていただきました。」と続けました。塚本監督は「原作が田村一等兵の主観で描かれてるので、見える世界しかもう写ってないという。田村が歩いてると一方アメリカ兵は銃を持って待っているみたいなカットバック、行ったり来たりはなくて、弾はいきなり飛んできます。なにかお客様に田村と一緒に戦争を体験してもらうような雰囲気になればいいなと思ってそういう視点にしました。」と応えました。
 
また女性のお客様からは「非常にショッキングというか。言葉にならない部分が多くありました。2年ほど前に従軍していた祖父の日記を発見して少年時代から陸軍に入隊して最終的に南方に送られるっていうところで日記が終わってたんですね。やっぱり終戦間際に南方に送られることになったんですけど、そこでぷっつり日記が切れてる理由っていうのが、この映画観てわかったような気がします。監督がおっしゃってたように田村一等兵の主観で描かれていたっていう映画を観させていただくことができて同じような体験をしていたんだろうと感じたりしました。」というご感想をいただきました。
 
上野支配人からは「どこかに戦争とつながる方がまだいて、その自分のつながりの中で戦争映画特集にお越しいただけるというのはとてもありがたい。これがもしその若い人につないでいくときにどうつないでいくか。自分の祖父世代でいなくなってしまってる方々がほとんどなので、今後下の世代にどうつないでいけばいいのか」という課題が挙がり、塚本監督も「きっとつくる人にとっても大きな課題です。この『野火』に関しては僕は実際にフィリピンに行かれた方々のお話を聞けたから自分のオリジナルじゃなくて、あくまでも戦争に行かれた大岡昇平さんのすごい原作にまさにこの同じ戦争に行かれた方にインタビューをいっぱいして聞いた感触を入れて描くことができました。ここから先はなかなかお話くださる方がいらっしゃらなくなるんで、創作する上でどうしていったらいいかっていうのは結構大きな課題になってきちゃいますよね。それが自分にとっても課題でもあるなと思っていろいろ考えてる最中ですね。」と述べました。
 
上野支配人は「人間ていうのは忘れっぽくてその傷を負った瞬間はもうこうしないでおこうって思ったりもするんですけども、同じような繰り返しをしてしまう可能性もあるので、なんとかこう新しい傷をつくるんじゃなくて違うかたちで」と続け、塚本監督は「それが一番大事だと思うんですけどね。自分が最初の年からそうかなと思ってて今もやっぱり変わらないのは今おっしゃったように実際の戦争に行くとひどい痛い思いを必ずみなさんするわけです。その痛い思いをした方がいらっしゃる間はもう戦争するなんてとんでもない、このインタビューした人も絶対嫌だって言ってましたからそう思えるんですけど、いらっしゃらなくなってくるにつけ近づくのはもうどうしようもないのか。こないだ「はだしのゲン」の漫画を全部読んだんですけど戦争が終わって5年目からもう忘れ始めてるみたいですね。今75年経ってしまったのでその痛みを知ってる方が実際兵隊に行かれた方はもういなくなっちゃいそうなので、もうかなり近づいてると思うんです。あとは半藤一利さんとお話したときにまだ戦争を被害として、日本で例えば東京大空襲にあったとかいろんなところで空襲にあった方がいらっしゃる間はやっぱり痛みを知ってる方がいらっしゃるのでまだ戦争にぽんと行くことはないと思うけど、そういう方々さえも今後いらっしゃらなくなったらいよいよ危ないっていうようなことをおっしゃってました。本当にだんだん難しくなってきて、なんとかやっぱり伝えていく方法っていうのを、もう一回繰り返すっていうのはあまりにもばかみたいな話なんでなんかこう痛みを早めに本当の戦争じゃない方法で知る方法っていうのを。この映画をつくった目的が第一にはそんなところから来てます。観て下さった方にはそんなことが伝わったようなんで自分としてはこれつくってよかったなって思ってるんですけど、本当にどういうふうにするんだろうってことは難しい話になるかなと思ってます。」と応えました。
 
最後に高校生の方からのご感想。「最近の映画とかゲームとかもそうですけど戦争を扱うものってかっこいい部分を多く見せるものがある中で『野火』みたいに血なまぐさいというか泥臭い裏の部分といいますか目を向けたくないような部分を扱ってる作品が僕にはぐっときました。やっぱり戦争は怖いものだなと思いました。なくなってほしいなと思えるようなそんな考えさせる作品でした。」塚本監督は「お客さんって情熱的だったりとか何々のために命を張るみたいなものがわりとやっぱり好きだったりするので、それを映画として観るのはいいことだと思うんですけど、材料が戦争という本当にあるリアルな起こったら大変なものでそれをやっちゃうととても危険なことだと思ってます。ヒロイズムで戦争を描くのは本当にちょっと観ててぞっとするような気持になってしまいます。戦争体験者の方に話を聞くと本当にヒロイズムはないので。映画の中だけではあるんですけど、例えば兵隊さんが死んじゃうシーンで弾をうけて口からちょっと血を流して名台詞を言って死にます。実際の戦争では名台詞を言う暇なんかなくてそれもお腹にちょっと弾があたって口から血出すんじゃなくて、もうえげつないこれは嫌だなっていうかたちの体の崩れ方をして未来も才能もいっぱいある若い人たちが膿がいっぱいつまったまま不本意な体で亡くなるんです。それは第二次世界大戦で散々世界中でやったんでまた同じことをみすみす繰り返すようなことだけはしないようにするのが人類の歴史の英知だと思うんです。」と応えました。
 
最後に記念撮影をしてトークは終了しました。
 
高田世界館さん、ご来場のお客様、ありがとうございました!

高田世界館
http://takadasekaikan.com/

7年目の『野火』上映記録
8/21(土)
8/21(土) 上映後、塚本監督オンライントーク

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