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[連載物] ダブルピン〜その2

その女性の前髪にダブルピンがついていた。

 これは一般の人が見てもそんなに気にはならない事案なのかもしれない。自分は美容師である。サロンでのダブルピンの存在はカラーやパーマの施術をするときに肩にかけるタオルを首の前で合わせて止める役割を果たしている。日々使っているダブルピンを思いがけない場所で、思いがけないときに見るとやはり気になってしょうがない。気になるポイントとして2つある。まずは、

①そのダブルピンを美容師以外の一般の人がどのようにして手に入れたのか。あと、

②なぜそこについているのか。

 気になるポイント①から、まず妄想にふけてみよう。もしかするとこの人はOLではないのかもしれない。そもそも通勤ラッシュを逃れたこの時間に電車に乗っている事自体、一般的なOLではないという一つの裏付けになる。もしかして美容関係のディーラーしかも◯-ZONEに務める方なのか。たまたま職場にあったダブルピンがポケットに入っていたのか。「お世話になります。」と心の中でつぶやいてみたりもしてみた。   ※◯-ZONE~美容師むけ商材店

 その女性は電車のドアの前で身を寄せ、スマホを片手に今日という1日をスタートしているかのように見える。ニュースやエンタメ、誰かのブログを読んでいるのだろうか。けして見た目の印象的に株価をチェックしていそうな感じの女性には見えない。

 次に気になるポイント②についてだ。これが今回の肝になる部分であると考える。まずはこれは意図的な行為なのかどうかということだ。この女性を見たときに、昔見たことある風景を思い出した。もう何年前のことかは思い出せないが、住んでいるところの駅の改札に入るときに前髪にカーラーを巻いている女性を目撃した。見た感じOLだ。巻きたての長い髪をなびかせ、さっそうと歩くその女性は改札を抜け階段を上がっていった。声をかけることのできる程の距離感ではなかったため、教えてあげることはできず諦め、自分は駅に隣接するパン屋さんへ行ったことを思い出した。今、目の当たりにしていることと、それによって思い出したことで共通して言えることは、朝の通勤時に前髪に何かがついているということだ。ただちょっとした違和感を感じた。その違和感とは両者の違いについてだ。普段のサロンワークでも前髪がストレートすぎる方には朝出かける前にカーラーを使うことをお客様に提案する。ただ家を出る時に外すことまでは伝えていない。それは常識的にカーラーをつけて家の外に出るという行為は考えられないからだ。唯一屋外で前髪にカーラーを付けた女性を見るとすれば、ロケーション撮影に向かうモデルくらいだ。という常識的な考えからすると、カーラーをつけていた女性は、「外し忘れていた」ということに他ならない。

つづく


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