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2020年8月の記事一覧

『無限の境界』ロイス・マクマスター・ビジョルド(著)小木曽絢子(訳)

【ヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞「喪の山」、デイヴィス賞受賞「迷宮」収録】 勇気と智略を武器に難事に挑む傭兵提督マイルズが回想する冒険の数々。敵星の捕虜収容惑星からの一万人の大脱走の顛末を綴った表題作のほか、故郷の山村で起こった嬰児殺害事件の捜査に赴く「喪の山」、腐敗した商業惑星の遺伝子工学実験場への潜入行を描く「迷宮」など傑作3篇を収録。 『魔術師ペンリック』が面白かったので、他作も読んでみる。 ウィキによると、この人はヴォルコシガン・サガ(SF)と、五神教シリーズ(ファ

『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』宮澤伊織(著)

季節は、やがて冬へ。閏間冴月を信仰する団体による襲撃ののち、拠点となっていた〈山の牧場〉を調査する空魚と鳥子たち。裏世界はいまだに危険な謎だらけ、でもだからこそ未知の探検の魅力にも満ちている。それぞれの想いが深まるなか新たな怪異が――ここから先はもう戻れない、女子ふたり怪異探検サバイバル! お泊り、温泉、ラブホ回。サービス満点だなぁ。 裏世界探索は3巻の後日譚と、本格探索に向けた助走といった感じだが、百合方面は、鳥子が依存先を失い、それを埋めるかのように空魚に傾いていく。

『窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿1』マージェリー・アリンガム(著)猪俣美江子(訳)

クリスティ、セイヤーズらと並び、四大女流ミステリ作家のひとりに数えられるアリンガム。その名探偵アルバート・キャンピオンの魅力を存分に味わえる日本オリジナル短編集。 キャラが皆生き生きしており(特に女性)、不思議なほど魅力的。短編でこれほど人柄や愛嬌が溢れ出るのか、とちょっと吃驚。 また、地の文や会話が皮肉でユーモラス。まさにイギリス文学って感じがして大好き。 ミステリーとしてはややアンフェアなのだけど、ハウダニットものじゃないので問題なし。むしろ主人公キャンピオンの博識

『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』小川一水(著)

人類が宇宙へ広がってから6000年。辺境の巨大ガス惑星では、都市型宇宙船に住む周回者(サークス)たちが、大気を泳ぐ昏魚(ベッシュ)を捕えて暮らしていた。男女の夫婦者が漁をすると定められた社会で振られてばかりだった漁師のテラは、謎の家出少女ダイオードと出逢い、異例の女性ペアで強力な礎柱船(ピラーボート)に乗り組む。体格も性格も正反対のふたりは、誰も予想しなかった漁獲をあげることに――。日本SF大賞『天冥の標』作者が贈る、新たな宇宙の物語! 百合漁業SF。主人公たちは可愛く、ラ

『シンギュラリティ・トラップ』デニス・E・テイラー(著)金子浩(訳)

温暖化が進行し環境悪化に苦しむ22世紀の地球。貧しいコンピュータ技術者アイヴァン・プリチャードは、一攫千金を夢見て、小惑星帯へと向かう探鉱船〈マッド・アストラ〉に乗り組む。だが、探査の末、乗組員全員が大金持ちになれるほどの重金属を豊富に含む小惑星を発見したまさにその時、恐るべき悲劇がプリチャードを襲う……はるかな過去に超文明の尖兵が仕掛けた卑劣な罠に敢然と挑むひとりの男の孤独な戦いを描く! 『われらはレギオン』シリーズが面白かったので手に取る。 どうせボブ(われらはレギオ

『ボビーZの気怠く優雅な人生』ドン・ウィンズロウ(著)東江一紀(訳)

海兵隊あがりの冴えない泥棒ティム・カーニーは、服役中の刑務所で正当防衛のためにヘルズエンジェルズの男を殺し、塀の中にいながら命を狙われる身となった。生きのびる道はただひとつ。ティムの容姿が、南カリフォルニアの伝説的サーファーで麻薬組織の帝王、ボビーZにそっくりであることに目をつけた麻薬取締局の要求を飲み、Zの替え玉となることだった―。愛すべき悪党どもに、ミステリアスな女。波の音と風の匂い。気怠くも心地よいグルーヴ。ウィンズロウが新境地を切り拓いた最高傑作。 もうひたすら爽快

『面白いとは何か?面白く生きるには?』森博嗣(著)

本書では、「面白さ」が何なのか、どうやって生まれるのか、というメカニズムを考察し、それを作り出そうとしている人たちのヒントになることを目的として、大事なことや、そちらへ行かないようにという注意点を述べようと思う。 同時に、「面白さ」を知ること、生み出すことが、すなわち「生きる」ことの価値だという観点から、「面白い人生」についても、できるだけヒントになるような知見を、後半で言及したい。 ――「はじめに」より タイトル通りのことが滔々と語られる。もやっとした概念を綺麗に言語化す

『殺し屋、やってます。』石持浅海(著)

ひとりにつき650万円で承ります。ビジネスとして「殺し」を請け負う男、富澤。仕事は危なげなくこなすが、標的の奇妙な行動がどうも気になる―。殺し屋が解く日常の謎シリーズ、開幕。 殺し屋が日常の謎を解く、というのに惹かれ手に取る。北村薫の円紫師匠シリーズみたいなやつかな、と期待したが、それ程では無かった。サイコでブラックなオチが好きな人にはオススメかも。 ドライでビジネスライクに人を殺すサイコ気味な主人公が、些細な謎にひっかかりを覚える所が面白いが、肝心の謎部分が大した謎でも

『黄色い夜』宮内悠介(著)

東アフリカの大国エチオピアとの国境付近。龍一ことルイは、そこで知り合ったイタリア人の男・ピアッサとE国へ潜入した。バベルの塔を思わせる巨大な螺旋状の塔内に存在する無数のカジノが、その国の観光資源だった。そこは、砂漠のなかに屹立するギャンブラーたちの魔窟。上階へ行くほど賭け金は上がり、最上階では国王自らがディーラーとなり、国家予算規模の賭け金で勝てば、E国は自分のものになるという……。奪われたものを取り戻すために、そして、この国を乗っ取るために、巨大なカジノ・タワーの最上階を目

『影を呑んだ少女』フランシス・ハーディング(著)児玉敦子(訳)

幽霊を憑依させることのできる体質の少女メイクピースは、母亡きあと、父方の一族の屋敷に引きとられる。メイクピースが生まれる前に亡くなった父は、死者の霊をとりこむ能力をもつ古い一族の出だったのだ。一族の不気味さに我慢できなくなったメイクピースは、屋敷を逃げだそうとするが……。『嘘の木』でコスタ賞を受賞した著者が、十七世紀英国を舞台に、逞しく生きる少女の姿を描く歴史ファンタジー。 今作も、自ら運命を切り開いてゆく少女の物語なのだが、独力ではなく幽霊達と難局を乗り越えてゆくのが面白

『時のきざはし 現代中華SF傑作選』立原透耶(編)

本邦における中華SF紹介の第一人者たる立原透耶氏が、数多ある短編作品から十七篇の傑作を厳選。 劉慈欣と並び「中国SF四天王」と称される王晋康、韓松、何夕の三大家をはじめ、台湾SF界の長老・黄海から、ハードSFの江波、詩情に満ちた作風の潘海天、清朝スチームパンクの梁清散ら中堅・ベテラン作家、日本でもおなじみの陸秋槎、さらには糖匪、昼温ら、若手・女性作家の作品までを収録。 全編本邦初訳。表題作「時のきざはし」は、ここ数年次々と大きな賞を獲得している期待の新鋭、滕野の代表作のひとつ

『第五の季節』N.K.ジェミシン(著)小野田和子(訳)

これは、世界の終わりの物語―数百年ごとに“第五の季節”と呼ばれる破局的な天変地異が勃発し、文明を滅ぼす歴史がくりかえされてきた超大陸。その世界には、地球と通じる能力を持つがゆえに虐げられる“オロジェン”と呼ばれる人々がいた。そんな中、あらたな“季節”が到来しようとしていた…。前人未踏、3年連続で三部作すべてがヒューゴー賞受賞。新時代の破滅SF。 終末ファンタジー。エンタメ度は低め。「3年連続で三部作すべてがヒューゴー賞受賞」というので読んでみたが、やや期待はずれかな。世界観

『オクトローグ 酉島伝法作品集成』酉島伝法(著)

究極の独創的作家・酉島伝法、デビューから九年間に書かれた短篇を集成。異形の存在へと姿を変えられた受刑者の物語「環刑錮」、刷版工場に勤める男性の日常が次第に変容していく「金星の蟲」、書き下ろし作品「クリプトプラズム」など、全八篇。解説:大森望 酉島伝法初短編集。おぞましい(褒めてる)短編だけでなく、ウルトラマンやBLAME!のアンソロも含まれており、幅広い酉島伝法が楽しめた。今回も著者による挿絵付き。 酉島伝法の作品は、世界観と造語が独特なので、その世界に馴染むまで時間がか

『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』大森望(編)

男はいつもと違う色の天井の下で目覚めた。ここはウィネトカか?それとも……。人生を飛び飛びに生きる男女の奇妙な愛を描いた、SF史上に残る恋愛時間SFの表題作。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/星雲賞の三冠を獲得した、テッド・チャンのアラビアン・ナイトとハードSFを融合させた書籍初収録作、時間に囚われた究極の愛の形を描いたプリーストの名作ほか、永遠の叙情を残す傑作全13篇を収めた時間SFのショウケース。 予想を超えて傑作ぞろいだった。時間物というとパターンが出尽くしたようにも感じていた