マガジンのカバー画像

感想

378
運営しているクリエイター

2019年10月の記事一覧

『ケイトが恐れるすべて』ピーター・スワンソン(著)務台夏子(訳)

ロンドンに住むケイトは、又従兄のコービンと住まいを交換し、半年間ボストンで暮らすことにする。だが、到着した翌日に、アパートメントの隣室の女性オードリーの死体が発見される。オードリーの友人と名乗る男や、アパートメントの向かいの棟の住人の話では、彼女とコービンは恋人同士だが、まわりには秘密にしていたという。そしてコービンはケイトに、オードリーとの関係を否定する。嘘をついているのは誰なのか? 見知らぬ他人に囲まれた、ケイトの悪夢の四日間が始まる。ミステリ界を席巻した『そしてミランダ

『天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉』小川一水(著)

謎の疫病の感染源は、出自不明の怪物イサリだった。太古から伝わる抗ウイルス薬で感染を食い止めたカドムだったが、臨時総督府にイサリを奪われてしまう。一方、首都オリゲネスの議員エランカもまた、ユレイン三世の圧政に疑問を抱いていた。彼女は自由人の集団《恋人たち》と知りあうが、ユレイン三世はその大規模な弾圧を開始する。新天地を求めて航海に出た《海の一統》のアクリラは、驚愕すべき光景を目にするが…… 革命勃発の巻。 読了後、「イヤSFやんけ!」と言ってしまった。作者の思惑通りに。セナ

『おうむの夢と操り人形 (年刊日本SF傑作選)』大森望、日下三蔵(編)

2018年の日本SF短編の精華を収録。今年度版には円城塔、斉藤直子、坂永雄一、三方行成、柴田勝家、高野史緒、田中啓文、飛浩隆、西崎憲、長谷敏司、藤井太洋、古橋秀之、日高トモキチ、水見稜、宮内悠介、宮部みゆきの短編作品のほか、肋骨凹介、道満晴明による漫画も収録。巻末には第10回創元SF短編賞の受賞作と選評を掲載。編者二人による各作品解説や年間日本SF概況、短編推薦作リストなど解説記事も充実した、2018年の日本SFが一望できる年刊ベスト・アンソロジー。 短編19篇の超ボリュー

『なめらかな世界と、その敵』伴名練(著)

いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描いた表題作のほか、脳科学を題材として伊藤計劃『ハーモニー』にトリビュートを捧げる「美亜羽へ贈る拳銃」、ソ連とアメリカの超高度人工知能がせめぎあう改変歴史ドラマ「シンギュラリティ・ソヴィエト」、未曾有の災害に巻き込まれた新幹線の乗客たちをめぐる書き下ろし「ひかりより速く、ゆるやかに」など、卓抜した筆致と想像力で綴られる全6篇。SFへの限りない憧憬が生んだ奇跡の才能、初の傑作集が満を持して登場。 表紙からラノベっぽいのか

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』丸山正樹(著)

荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。弱き人々の声なき声が聴こえてくる、感動の社会派ミステリー。 仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。彼は両親がろう者、兄もろう者という家庭で育ち、ただ一人の聴者として家族の「通訳者」であり続けてきたのだ。ろう者の法廷通訳を務めていたら若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始

『タイタン・プロジェクト』A・G・リドル(著)友廣純(訳)

作家のハーパーが乗ったロンドン行き三〇五便が墜落した。彼女と生き残った飛行機の乗客たちは助け合って救助を待つが、捜索隊はいっこうに現われない。それもそのはず、そこは人類が消えてしまった未来だったのだ! どうやらここは、ハーパーらが関わることになる全人類的大プロジェクトが実現したタイムラインらしい。なぜハーパーたちはここに連れてこられ、人類はどこに消えたのか?謎と興奮のタイムトラベルSF! タイタンという名前で宇宙SFかと思いきや、いきなり飛行機が墜落しサバイバルが始まる。し

『塔と重力』上田岳弘(著)

17歳の冬、僕らが眠るホテルは倒壊した。あの地震さえなければ、初体験の相手は美希子になるはずだった……。生き埋めからひとり生還した僕は20年後、Facebookを通じて大学の旧友と再会。彼女の記憶を抱えて生きる僕に彼が持ちかけた「あること」とは。繰り返される自然災害とテロ、21世紀の人類の苦悩の先に待つ希望。 純文学中編1つとSF短編2つ。純文学は苦手だと再認識。なにも心揺さぶられない。SFのような未知の発想に揺さぶられるのが好きだ。単に人間に興味がないからだろうか? 我な

『われらはレギオン1 AI探査機集合体』デニス・E・テイラー(著)金子浩 (訳)

ソフトウェア会社の社長兼プログラマーのボブ・ジョハンスンは、SF大会の会場で交通事故にあい死亡した。目覚めてみると、なんと117年後、キリスト教原理主義国家となったアメリカで、恒星間探査機の電子頭脳になっていた!はからずもほぼ無尽蔵の寿命と工業生産力を手に入れたボブは、人類の第2の居住地を探して近隣の星系を探索し、つぎつぎに新発見や新発明を成し遂げていく!傑作宇宙冒険SF、3部作開幕篇! めちゃくちゃ楽しい!徹夜で一気読みしてしまった。アンディー・ウィアー並にサクサク読める

『巨人たちの星』ジェイムズ・P・ホーガン(著)池央耿(訳)

冥王星の彼方から〈巨人たちの星〉のガニメアンの通信が再び届きはじめた。地球を知っているガニメアンとは接触していないにもかかわらず、相手は地球人の言葉のみならず、データ伝送コードを知りつくしている。ということは、この地球という惑星そのものが、どこかから監視されているに違いない……それも、もうかなり以前から……!! 5万年前月面で死んだ男たちの謎、月が地球の衛星になった謎、ミネルヴァを離れたガニメアンたちの謎など、からまったすべての謎の糸玉が、みごとに解きほぐされる。前2作で提示

『超動く家にて 宮内悠介短編集』宮内悠介(著)

「このままでは、洒落や冗談の通じないやつだと思われてしまわないだろうか」「深刻に、ぼくはくだらない話を書く必要に迫られていた」――雑誌『トランジスタ技術』を「圧縮」する謎競技をめぐる「トランジスタ技術の圧縮」、ヴァン・ダインの二十則が支配する世界で殺人を企てる男の話「法則」など全16編。日本SF大賞、吉川英治文学新人賞、三島由紀夫賞受賞、直木・芥川両賞の候補になるなど活躍めざましい著者による初の自選短編集。 初読み作家。タイトルに惹かれて手にとったが、バカSF短編集だった。

『復讐のトレイル』C.J.ボックス(著)野口百合子 (訳)

その遺体には頭部がなく、狩られた獲物たちと同じような「処理」が施されていた。まるで狩猟が生き物を面白半分に殺す行為だと世界に訴えるように。ワイオミング州知事からの特命を受けた猟区管理官ジョー・ピケットは、ハンター連続殺人の背後に卑劣な人間たちの深い闇が潜んでいることをつきとめていく。 盛り沢山で一気読みしてしまった。いつも通りの構成だが最高に面白い。利権が絡まない話は珍しいね。でも相変わらず内部は腐っている。 懐かしい人々の再登場、糞野郎どもの退場にスカッとした。ただし本

『わが母なるロージー』ピエール・ルメートル(著)橘明美 (訳)

パリで爆破事件が発生した。直後、警察に出頭した青年は、爆弾はあと6つ仕掛けられていると告げ、金を要求する。カミーユ・ヴェルーヴェン警部は、青年の真の狙いは他にあるとにらむが…。『その女アレックス』のカミーユ警部が一度だけの帰還を果たす。残酷にして意外、壮絶にして美しき終幕まで一気読み必至。 カミーユ警部三部作シリーズ、3.5作目の中編。時間軸は3作目の直前で、カミーユがパリでの爆破事件を追う。と思いきや、いきなり犯人が自首してくる超展開から心を鷲掴みにされる。 その後も当

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』デボラ・インストール(著)松原葉子 (訳)

AI(人工知能)の開発が進み、家事や仕事に就くアンドロイドが日々モデルチェンジする近未来のイギリス南部の村。弁護士として活躍する妻エイミーとは対照的に、親から譲り受けた家で漫然と過ごす三四歳のベン。そんな夫に妻は苛立ち夫婦は崩壊寸前。ある朝、ベンは自宅の庭で壊れかけた旧型ロボットのタングを発見。他のアンドロイドにはない「何か」をタングに感じたベンは、作り主を探そうと、アメリカへ。中年ダメ男とぽんこつ男の子ロボットの珍道中が始まった…。タングの愛らしさに世界中が虜になった、抱き