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つくられるものがつくるものをつくる ③ 前編

三.くつ 
ぼくはくつ。今ぼくはとってもわくわくしてるんだ。なんでかって?
それはね。今日からぼくはくつとしての役目を果たすことになったからだ。彼の名前はたけし。数あるくつのなかからぼくを選んでくれた。それはもうキラキラした目で。「これを履いたら、速く走れるかなぁ?」ってお母さんに聞いていた。走れるさ。だってぼくがいるんだから。君の走りを精一杯サポートさせてもらうよ。ぼくは真っ赤なくつで光を反射していつも輝いていた。たけし君もそんな僕を気に入ってくれたのか、他のくつと迷ってはいたけど最後はぼくを選んでくれた。ぼくは他のくつにさよならのあっかんべーをしてたけし君と新しい旅に出た。

その日からぼくはたけし君と一緒に行動するようになった。
たけし君は小学生。ぼくと初めてたけし君が学校に行ったとき、
「あれ?たけし、新しいくつ買ったの?」とみんなに聞かれていた。
ぼくはなんだか晴れがましい気持ちになり、そして照れてしまった。

たけし君はぼくのことを丁寧に扱ってくれた。土埃がついた日はお家に帰るとブラシで土を払ってくれた。すこし払う力が強かったけどそれでもぼくは嬉しかった。ありがとう。たけし君。

ぼくがたけし君に選ばれて1カ月くらい経った。
今日は運動会だった。たけし君はこの日のためにたくさん努力してきた。たけし君は組対抗リレーで、赤組最後の走者だった。そんなすごい人に選ばれたなんてと驚き、ぼくはより一層たけし君のことを応援したくなった。
たけし君は毎朝お父さんと一緒に走り込みをしていた。
僕はたけし君のことを足元から応援していた。1秒でも早く走れるようにたけし君を応援していた。
たけし君はぼくの手入れをする時、時々ぼくに話しかけてくれた。
「頼むぞ~。お前となら1位をとれる。頑張ろうぜ」って。勿論ぼくの声はたけし君には聞こえないけどぼくは大きな声で「一緒に頑張ろう!」ってわくわくして応えてた。

そうして迎えた今日。
たけし君はリレーのことで頭がいっぱいなのか準備運動をことあるごとにしていた。時間が経つにつれてたけし君の緊張が高まっているのがよくわかった。

いよいよ運動会も終わりが近づいてきた。
リレー走者の入場が終わって、たけし君が並んでいると、隣に来た子が言った。
「たけし、お前またリレー走者に選ばれたのかよ?しかもアンカー?お前が?足遅いくせに?」
「……うるせぇよ」
「何度やっても結果は同じさ。去年は俺もお前もアンカーじゃなかったが、お前は俺に抜かれてそのせいでお前の組が負けた。お前の足が遅すぎたせいだ。んで、運の悪いことに俺の足が速かった。今年も無様に俺に抜かれるんだな。せいぜい名脇役であってくれよ。大根役者はいらねぇからな~」
そういってその子は白組の列に戻っていった。なんだあいつ。
たけし君は拳を強く握りしめていた。その悔しい思いはぼくにも伝わってきた。
絶対負けられないね。あんなやつぎゃふんと言わせてやろう。

いちについて。よーい。

パン!

いよいよリレーが始まった。


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