見出し画像

箱の中身はなんだろな 後編

「髪型が決定されました。髪は染めますか?」
さすがに俺も社会人だ。染めることはもうできない。少なくとも今の会社では。おれはなんだか寂しい気分で「染めない」を選択する。
「ただいまより散髪を開始します。ワンタッチバックルをしてロックをしてください」
これも勿論、取説通り。ワンタッチバックルとはヘルメットのあの顎紐でカチッてやるやつのこと。へーそんな名前がついていたんだと俺は感心してしまった。
言われたとおりにロックをした。
ヴーン。AHM(全自動散髪機:Automatic Haircut Machine)は穏やかな重低音を立てて動き出した。
俺は独り洗面所にて作業台に座りスマホを見ていた。頭さえ動かさなければ何をしていても良いのだ。あの散髪屋での切った髪が服に付かないように巻いてくれるあれ(カットクロスというらしい)の中で無限の手遊びをする必要はもうない。
5分ほど経った頃だろうか。スマホをいじっていたこともありあっという間に感じた。
「終了しました。お疲れさまでした。ロックを解除します」
ワンタッチなんとかとかいうあごひものやつが勝手にとれた。
さあ、どうなった?俺は鏡の前に立つ。まだAHMは装着したまま。記念すべき初回。俺は目をつぶった。本当に頼んだとおりになっているだろうか?AHMを頭からとりはずし、さあご対面。俺は瞼をゆっくりと、ゆっくりと持ち上げた。


……え?
なにこれ………………
俺は目を疑った。
角刈りになってる………………



角刈りイメージ

え?
ちょ、え?
えぇえええええ~~っ。
どうしよ、どうしよ。
え?どゆこと?まじでどゆこと?なんで?
なんで角刈りなん?

違う、確かに俺はもっとイケてる髪型を選んだ。少なくとも角刈りにはしてない。やばいやばいやばいやばい明日からどうしよう……

ふぅうううう。冷静になれ。俺は深く深呼吸した。
鏡には角刈りの俺が映っている。
とりあえず、手遅れだが、原因を探ろう。俺は取説を見る。しかし、どこにもどんな髪型を選んでも角刈りになるという表示は無い。となると、製品の不具合か………………
ふざけんなよ。もう、え?どうするの、俺どうすんの?明日会社なんですけど。角刈りで行くの?人生初角刈り出社?まじでどうしよどうしよ?怒りより恐怖が勝つわこんなの。全自動散髪機(AHM)じゃなくて全自動角刈り機(AKM)だったってこと?いらねーよそんなのどうしてくれるんだよ……

ふと俺は製品のレビューを検索しようとした。するとこんなメールが画面に表示されていた。


お詫びと自主回収のお知らせ

お客様各位

平素より、弊社商品をご愛用いただき、誠にありがとうございます。
この度弊社にて販売いたしました全自動散髪機(AHM)におきまして、ごくまれにではございますが、お客様の指定した髪型と散髪終了後の髪型が異なる恐れがあり、最悪の場合角刈りになってしまうことが判明いたしました。
お客様には大変ご心配、ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんが、直ちに使用を中止していただきますようお願い申し上げます。

お客様には、ご迷惑をおかけいたしますことを深くお詫び申し上げます………………(以下略)



なんだそれは………………!
最悪の場合角刈りになってしまうって……
俺はごくまれの最悪の中でも最悪のケースに該当してしまったということか………………!
嗚呼、こんなことならおとなしく散髪屋に行けばよかった。角刈りになるくらいなら散髪屋にいって微妙な髪型にしてもらうほうが100倍ましだった……

俺は……俺は……いったい明日からどうやって生きて行けばいいんだ……!



箱の中身はなんだろな 完


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?