和歌おきば 2019-09 (降順)

短歌

緋のたてる秋の彼岸の池の端の藍もしらなむその露草を

初鴨と化して寝ましを阿亀笹おふる丘辺のみづぼれ石に

道芝のあをに立ちたる曼珠沙華よりてぞみれば蟻もよんひき

古池にあそびたるこひめづる君そのただむきの筋もいとほし

三冬の身にもあはれは知られけりひかる綾子のくれなゐの文

まみえてし言ひまがへけるひばんがな咲くまでしれぬ陰路わきかな

あが君や善悪(さが)の彼岸にときわけてぬれたる秋の袖いかにせむ

うばたまの夜へつきぬるため息のあとにも秋は香かへたるかな

あらがひてひぐらし今日も生きめぐるなにしつるとて果なきかてふに

みづとりのうき寝にあふぐ天雲のゆくぞ追はまし夢はとんばう

ゆびをりて法師てふこゑかぞふればあちら十八あの蟬こ二十

あやまちをかさねしさきのまよひもりどうやら生はゆるされてゐる

おやすみと言ひ交ふがごと更待の翌夜の月とふと見合ひけり

雨音も身のぬれたるもまた楽しからずやオオサンショウウオ心

散らかせるまやものの山それが汝の副葬品とこゑ告げにけり

朝さりて雨そそくこそものうけれまくらに昨(きぞ)の香ぞのこりたる

ぽろぽろとおきうきとこのながめにやおもひでどものつぶだてりける

望月にいかでうれへぞおもふらむその行くすゑに隈みればかも

ももちなるあいやのほほろ雨彦のはひまつはるる思ひなるかな

あさもよひうき世の人の数なれどよべの頭痛のゆくぞうれしき

まこもぐさまことをてらひにごりたるよどのさはだになみづつかれそ

なぐるさの遠ざかりゆく野分よりこぼるる夏のなごりなるかな

ドウナツのぽかりあきたるあたらみの形而上学もろとも食けり

あるをだにゆるさせたまへもしはただくらきよみぢへうせさせたまへ

ながめふる歌やふつまにけうせぬる否こゑはてずとくるなりけり

ウーティスてふ人まつむしの音ぞ遠きマグつつむ手に虚をなだめつつ

しののめやさめて窓辺にころふせばむべあからひく朝といふらむ

しののめにさめてまちたる朝はむべあからひくこそかかるべからめ

たまぼこのしありくみちのくさまくら日日ふるたびにこのみぞおちぬる

夕露のおける田中に鳥うたふこゑききしめりそのうたごゑを

音にぞ鳴く虫に偲はゆ離思の嘆ただとはなむとしのにもの思ふ(沓冠)

みこも狭に茸ぞかがゆるいつか来む死と分解のしづかなにほひ

やすらけく茸(たけ)ぞかかふるつひにゆく道のかすかにきこえたるかも

朝ぼらけひよ鳴きたるに二度寝してヴァレリイのかほ落書(らくしょ)する夢

吹くほどに袖の氷ぞあつごゆる色なき風におつるあを息

ほむしろの夜寝にこがるる舟に世をうみもすぎなむ常夏のしま

夢にだに図南のつばさ張りゆきて君と鳳梨の野にあそばまし

かたことと寝息あやせる緩行のゆめぢだに世のうみこえてしか

ヘリオスの往ぬる駅舎の腰かけに次まつむしのこゑぞひびける

俳句

あさねがみ鵯けたたまし我ココア

白萩とうやうやしきや抜小路

はぎ調じくだる電車や仮枕

おやつなる初あんまんや秋彼岸

おきわびて軒はしづくのぽとりかな

ころ伏せば虫とテニスの遠音かな

秋雲や二重螺旋の耳飾り

がやがやと尾長立ちてし法師蝉

長歌(の試み)

むしの音も すみたる風も あまづたふ 日のかたぶきて 寝どころに 烏とびいそぐ 山かげの きはへ出でたる 夕星の か行きかく行き うつせみの みのまろびたる つゆしもの おきどころなき いのちなるかな
 かへし歌
たまぼこの しありくみちの くさまくら 日日ふるたびに このみぞおちぬる

かりこもの 思ひみだれて すみわぶる 世にふる身もぞ はれぬべき 秋の田なかに むかしより なづさへるうた こといでたらむ

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