アスリートが抱える生理とジェンダーの悩み。サッカー選手の下山田志帆さんと産婦人科医の高尾美穂さんが語ったこと
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アスリートが抱える生理とジェンダーの悩み。サッカー選手の下山田志帆さんと産婦人科医の高尾美穂さんが語ったこと

#NoBagForMe PROJECT

「大学まではナプキン一筋で選択肢がなかった」と語るサッカー選手の下山田さん。後にタンポンやピルを知って試したことで、アスリートとしての競技生活は「すごく楽になった」と話します。

下山田さんが、産婦人科医でスポーツドクターの高尾美穂先生と対談。アスリートが抱える様々な生理の悩みや、ピルの理解を深めながら、身体やジェンダーについてオープンに話せるようになるにはどうすればいいか、語り合いました。

(取材・文:笹川かおり、写真:豊田和志)

アスリートが抱える生理の悩み

――下山田さんは、これまでどんな生理用品を使ってきましたか? どんな悩みがありましたか?

下山田さん(以下、下山田):ナプキン以外の選択肢を知ったのは、20歳を超えたくらいから。大学まではナプキン一筋というか、それしか選択肢がない状態でした。大学に入って、チームメイトがタンポンをつけていることを知って、めっちゃ楽じゃんと気づいて。今年に入ってピルを知って飲みはじめました。

サッカー選手は、普通はユニフォームの下にスパッツをはくんですけど、私はあまりスパッツが好きじゃなくて。「スパッツをはくとナプキンが押さえられる」という選手もいるんですけど、私ははいてなかったから、note(「エースを止めるか、ナプキンを止めるか…アスリートと生理の付き合い方を考えてみた。」)に書いたように、大事な場面で落とした経験もあります。

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高尾さん(以下、高尾):サッカーは競技時間が長いからね。

下山田:汗で、めちゃくちゃ蒸れるんです。あと雨の日にスライディングすると、ナプキンが膨らんでオムツをはいているみたいに重い。ずっと塊と一緒にプレーしなきゃいけなくて、すごく苦痛というか不快な経験だなと。

高尾:アスリートに「生理で困っていることは?」とアンケートをとると、「ズレる」と「漏れる」が上位にくるの。「お腹が痛い」とかの悩みより上にくるのが、この2つの物理的な悩みなのね。できるだけズレないようにスパッツと生理用ナプキンを一緒にしたものをスポーツブランドと開発したこともあるけど、スパッツが嫌な選手もいるよね。

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下山田:会社でアンケートをとったときは、アスリート545人から回答があって、97%が「生理用品に悩んでる」と答えて、そのほとんどが「漏れる」「ズレる」、あとは「ムレる」でした。

やっぱりナプキンを使っている人の割合は多いですね。タンポンは入れられるようになるまでのハードルが高くて、同じ年代でも、「スライディングしたら、もっと刺さるんじゃないの?」と質問した人や、「何度も試したけど無理だった」という人もいました。

高尾:スライディングして奥に入るわけがないんだよね。腟の向きは個人差がある。例えば、真正面とか、ちょっと上向きとか下向きとか。(※編集注:タンポンは、個人ごとの「するっと入る向き」を見つけられれば誰でも使えます!)

あと、「ウェアが白いと嫌」という悩みもあるよね。柔道でも、白い柔道着の内側に赤いシミがついちゃうのはよくあることだって言ってた。

下山田:柔道着の色は、変えられないですもんね。

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高尾:古い話だけど、マラソンのレース中に生理がきちゃった選手がいて。長距離の陸上選手は、ずっと生理がきてない人も多くて、いきなり生理が来たりするわけ。日本代表のユニフォームは白いパンツだったんだけど、それがきっかけで女子は下が赤のパンツに変わったの。

下山田:陸上はユニフォームが短いですよね。短距離は、(スタート前に)セットしてお尻を上げるのが、すごく気になるという話を聞いて、たしかにそうだなと。あと野球は、ユニフォームは結構ピッチリしていて白が多い。競技によって全然悩みが違う。

高尾:試合の長さや休憩までの時間も影響するよね。サッカーは試合時間が超長いけど、野球は交代で戻って来られるから、まだマシかもしれない。

ピルを使い始めたきっかけ

――今年、下山田さんがピルを使いはじめたのは、なぜですか?

下山田:ずっと生理痛はあったんですけど、ここ1、2年ですごく重くなってきて、朝起きても立ち上がれない状態だったんです。でも、副作用が怖かったり、頭痛や吐き気があったらどうしようって思ったりして。そんなときに新型コロナウイルスの影響で3カ月くらいチーム活動がなくなったので、何かあったとしても練習がないからどうにかなるし、始めるなら今しかないのかも、と。

高尾:どんな競技でも「オフの間に慣れて」って勧めるよ。シーズン真っ只中には始められないもんね。

下山田:正直、飲み忘れた次の日に2錠飲んだら、強い吐き気もあったんです。だから、この時期に始めてよかったなと思います。それ以外は本当に何もない。今、体調はめちゃくちゃいいですね。生理痛もないし、不正出血が出たとしても少しだけ。試合に被っても量は多くない。めちゃくちゃ楽で、なんで今まで飲んでなかったんだろうと思います。

高尾:婦人科医からすると、生理はコントロールできるものだから、ピルを飲んでおいて、ここで生理が来たらいいなってときに、飲まずに出血を起こして、またピルを飲み始めればいい、みたいな感じ。慣れちゃうと何でもないよね。

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アスリートが知っておきたいピルのこと

――生理について知識や理解を深める人も増えてきましたが、アスリートに情報はまだまだ届いていないと感じることはありますか?

高尾:地域差があると思わない? 地方で講演すると、全部話し終わった後に、「でもピルって……」って質問がよく来るの。今の2時間なんだったの? みたいな(笑)。

下山田:中高生や学生は、地域差はあると思います。

高尾:講演では、「生理は何で必要なの?」「生理が来ないと困るよ」「生理の仕組みで困る時期は、生理中と生理前」ということと、「対策方法はこんなものがあるよ」って話をするね。対策方法はほぼピルなんだよ。ピルを理解しておくと、その延長線上で他の選択肢もあるとわかるから、まず知ってもらうことが大事だね。

タンポンやピルにしても、周りに使っている人がいると、「どうなの?」みたいな話が日常的にできるよね。チームスポーツで誰かがいい経験をしていると大きい。周りの選手が「超ラクだよ」と言ってくれると、心配が解消された状態でクリニックに来てくれる。

「生理痛が重いんです」と相談に来て、こちらから「ピルどうですか」と話をするときは、抵抗が強いこともあるね。本人が乗り気じゃないと続く率も低い。ピルを処方されて家に帰っても「おばあちゃんにダメって言われた」っていう選手もいるからね。

下山田:実家に帰ったときに、「最近、ピルを飲み始めたんだよね」と伝えたら、母に「やめなよ、危ないよ。血栓できるよ」みたいなことを言われましたね。でも「そういう確率もあるかもしれないけど、ピルを飲み始めて生理痛も減ったんだよ」と逆に教えています。

高尾:ピルが日本で使えるようになったのは1999年で、さらに治療目的で生理痛に使おう、となったのは2006年で最近の話。お母さんより上の世代は、知らなくて当然なんだよ。当時はなかったんだもん。だから、「昔の人は無知」みたいな言い方じゃなくて、「今はこうなんだよ」って教えてあげるのがいいよね。

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下山田:当初は、リスクも高かったんですか?

高尾:ピルは世界的には1960年ごろから存在しているんだけど、当時は「中用量ピル」の倍量のホルモン量が入った「高用量ピル」だったから、血栓症を起こすリスクが高い時代だった。それから含有しているエストロゲンの量をどんどん減らして、今は安全性に関しては10万件あたり何人のリスクになっているね。

アスリートがピルと出会う機会は、試合のときに生理をズラしたい「月経移動」が多いの。月経移動は、ホルモン量がしっかり入っている「中用量ピル」を使わないとできなくて、気持ち悪くなったり、むくんだりすることもあるんだけど、継続的に使う「低用量ピル」は、中用量の2.5分の1ほど。目的が全然違うから、違うものとして認識するといいと思う。

日本には、「ピルで生理を来なくさせるのは自然じゃない」みたいなイメージあるじゃない? でもピルは、生理を止めているわけでも、出さないようにしているわけでもない。生理の出血は、出ていく準備をして使われなかったから出ていくもの。ピルの場合は、そもそも準備をされたものが少ないから、あまり出ていかないんだよね。

オンライン診療の前に考えたいこと

――下山田さんは、低容量ピルのオンライン診療サービス「スマルナ」を利用しているそうですね。

下山田:スマルナを使っているのは、産婦人科医に行きたくないのと、家に届く楽さの2つの理由ですね。個人的に、産婦人科に行くハードルがすごく高いんです。感覚的な話なので分からないかもしれないですけど、女性が行く場所での視線がめちゃくちゃ嫌なんですよ。トイレも一緒なんですけど、受付の人にギョッとされたりするし、待合室も嫌ですね。

高尾:(同性のパートナーがいることを)オープンにしているから、なんとなく世間の目が気になるのもある?

下山田:むしろ楽になったかもしれないです。絶対行きたくない場所から、しょうがないけど行く場所になった感はあります。昔は本当に行きたくなかったですね。

高尾:産婦人科と名前がついていると、たしかに行きづらいよね。今はウィメンズクリニックとかライフクリニックとか、名前を工夫しているところもあるね。

産婦人科医としては、飲みはじめが一番血栓のリスクが高いし、最初にホルモンのことを理解してもらって、選択して飲んでもらいたいから、ちゃんと質問もできる対面の医者がいいと思うんだけどね。最初にクリニックで処方してもらって、あとはオンラインとか、そういうかたちになるのはいいと思うけどね。

下山田:今はスマルナを使っていますけど、最初は子宮頸がんの検査をして、先生から直接話を聞いて、ついでに「ピルはどうですか?」と質問したんです。アスリートは最初の診察は必要なんじゃないかな。自分が使いたいものと使わざるを得ないものを、うまく選択したほうがいいんだろうなと思います。

高尾:私たち女性の産婦人科医は、医学的な知識を持っていて、なおかつ自分でも試せるわけ。私自身は今までに7種類くらいのピルを使っていて、どれがどういう感じになるかを体感できてるもん。そんな人に相談してみるのもおすすめですけどね。

指導者の意識はどう変わった?

――スポーツの世界では、選手たちに教える指導者も正しい知識を求められますね。

高尾:女性アスリートの育成支援が本格的になされるようになって、今やっと6年くらいなんですよ。2013年に東京オリンピックが決まって、2011年に女子W杯でなでしこが優勝したのね。それで女子の育成に予算がついたの。もちろん男子よりは少ないけど、初めて社会的な動きがあったんだよね。

だから、2012年のロンドン・オリンピックと、2016年のリオ・オリンピックのデータを比べるとピルの使用率は上がったね。フランスの約85%とは比べものにならないけど、ロンドンでは約6%だったものが、リオでは30%を下回るくらいになった。

取り組んできた内容としては、指導者への講義は多かったですね。当然、選手の方が指導者より圧倒的に人数は多いし、指導者が正しいことを知ったうえで指導するのが望ましいから。

そしたら次に起きたのは、男性の指導者は、自分が経験していないこととして、女性アスリートが困っていることを知ろうとするんだけど、女性の指導者は、「生理痛、自分も知ってるわよ」って感じになるんだよね。上の世代は「生理なんか我慢しろ」が当たり前の世代だから、そういうスタンスの女性の指導者にも正しく知ってほしいってなったんだよね。

下山田:それは、すごく分かります。

高尾:自分が経験したことがすべてと思っちゃうのよ。例えば、妊娠・出産も、他の人と自分の経験は絶対違うわけ。自分の経験とは違う経験をする人が世の中にいるという想像力、これが1番大事なんだよ。多様性のベースはここにあると思う。

下山田:今までは、指導者の言ったことを鵜呑みにするしかなかったと思うんですけど、最近は、選手が「生理痛、めっちゃ痛いんですよね」と話して、監督が「俺はそうゆうの知らないよ」と言ったら、「先生、そんなことも知らないの? ダサいっすよ」って言う光景を目の当たりにしますね。

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高尾:すごくいいね。

下山田:若い世代にとって生理の話をするのは普通だし、その流れはいいんじゃないかな。若い世代からSNSから情報を拾って、#NoBagForMe プロジェクトみたいなおしゃれで触れたくなる情報によって、上の世代も知りたくなる流れは自然だし、誰も傷つかないし楽しく学べる感じがします。

アスリートが生理やジェンダーを発信する意義

――下山田さんが、生理やジェンダーについて発信しようと思ったのはなぜですか?

下山田:LGBTQに関しての発信をする中で、LGBTQの問題とジェンダー問題が地続きだということが伝わる術を探していたんです。LGBTQが抱えている悩みは、ジェンダーの問題と地続きだなと感じていて、女性だから男性だから、みたいな箱を決められることによって、そこに当てはまらない苦しみが生まれていると感じて。このつながりをうまく表現して問題提起したいと思ったときに、生理は分かりやすい問題だなと。

性別関係なく身体のことを話したいのに、生理用品は、女性らしいプロダクトが多かったりして、女性とも話しづらくて。実際に起きている身体の話なら、わかりやすくていろんな人と話せるトピックだなと思って。

高尾:今の社会人は、最終的にパフォーマンスを出すことが求められるから、アスリートがパフォーマンスを最大化する方法として(生理を)語るのは、社会の中でも受け入れられやすいと思う。マイナスをゼロに、ゼロからプラスにするイメージだよね。

下山田:まさしく。今までマイナスになっていたことが気づいてもらえてなかった。スポーツ選手が生理の話をすると理解してもらいやすい。例えば、男性に「女性アスリートはナプキンをつけて暑いなか走っているんですよ」と話すと、「それは大変だ」とわかってもらえる。そういう役割は担えると思います。

実際に、「ピル飲もうと思います」と(選手から)連絡をもらうことも結構あったり、チームメイトから「記事読んだよ」って報告されたりして、オープンに話せるようになってきたので、発信してすごくよかったと思います。

高尾:私は、日本では「性教育」という言葉自体が、すごく受け入れにくい言葉だと思う。多分みんな、「性教育」っていう響きが苦手なんだよね。そう考えたときに、アスリートの生理の話は、「パフォーマンスを上げるためにどうすればいいか」を考えられる。真正面から「性教育を学びなさい」と伝えるより、ゴールが1個先にあるから、スポーツドクターとしては好きな方向性だよね。

身体の変化を知れば、アスリートはコンディションのいいとき悪いときを、あっという間に「ああ、だからか」と当てはめられるわけ。アスリートは頭が良くてちょっと理屈っぽい人が多いから、自分で納得するとすごく前向きになれる。

下山田:日々、反省して試しての毎日なので、原因を突き詰めて、そのために何をするかを考えるのは得意だと思います。

高尾:そもそもの目的があやふやだと、手段として選ぶ感覚がないし、選んだとしても納得がいかないよね。早く走りたいとか、調子の悪いときをなくして勝ちたいとか、アスリートは成し得たいことがはっきりしているから、ちゃんと話すと納得してくれる。

我慢する時間はもったいない時代

――下山田さんは、生理用パンツも独自に開発されていますね。

下山田:生理用パンツは、去年の10月に、(吸水パンツの)ムーンパンツを見たときに、めちゃくちゃ画期的だなと思って。ナプキンに苦しめられてきたけど、「パンツで済むのが1番いいじゃん」って、今までの当たり前をひっくり返されたような衝撃だったんです。

ただホームページ見たときに、普段はいているものとは全然違うデザインが並んでいて。女子サッカー界にいてボーイッシュな選手が多く存在することも知っていたし、新しい選択肢からはぶかれる選手が出てくると思って、今は生理用パンツの開発に全力を注いでいます。

高尾:スポーツの世界には、ボーイッシュな子も多いよね。フリフリとかピンクとかのデザインをはきたくない人もいるよね。

下山田:選手に限らず、そういう人は多いと思います。そのパンツを全員にはいてほしいというよりは、選択肢の1つとして提示したいなと。その過程で、生理についてもっと話していいよねと伝えていきたいですね。アスリートが自由に選べて、その情報にアクセスできる状況をつくりたいです。

生理用パンツ以外にも、月経カップやピルなどの選択肢はあるし、女性アスリートというと、ピンクのイメージになりがちだけど、短髪で真っ黒な服が好きな人もいる。ジェンダーのステレオタイプに限らないコミュニティにしたいし、それを居心地がいいと思ってくれるアスリートは絶対にいるので、その声を拾い集めていきたいですね。

高尾:私は婦人科のスポーツドクターだけど、最終的なゴールはどこかと言えば、わざわざ「女性」とつける必要がない社会や環境だと思ってる。男性と女性の身体がそれぞれ違うこと自体、今まで意識されてこなかったし、女性アスリート支援によって動いてもらえる部分があったんだけど、本当は女性と言わなくてもアスリートとしてのサポートが当たり前にある社会がゴールなんだろうな。

アスリートが違和感を感じたら、それがジェンダーの問題であろうが、生理痛の問題であろうが、本来は全部課題として認識するべきこと。考えてもしょうがないと我慢してきたのが、私より上の世代だと思う。だけど、我慢する時間はもったいない時代になっているから、課題をどう取り扱っていくかを模索して、つながれる場があることが大事だなと思う。

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