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自治体が生理の貧困に向き合うために。ナプキン配布だけで終わらない、浜松市のアプローチは?

生理についてみんなで学ぶ──そんな動きが、日本各地に広がりつつあります。
 
「#NoBagForMe」プロジェクトの一環として2020年からスタートした企業向け研修プログラム『みんなの生理研修』。生理にまつわる知識向上や、職場での相互理解の促進を目指し、これまでさまざまな企業で実施されてきました。
 
そして2021年に入って以降、「みんなの生理研修」の受講を望む声が、自治体や大学からも届くようになりました。
 
社会が今、タブー視されていた生理と真っ直ぐに向き合いつつある。この社会的な動きの背景には、いったい何があるのでしょうか? 全3回の連載で、「みんなの生理研修」の広がりについてレポートしていきます。

年齢・性別問わずのオープンな市民向け研修@浜松市
 

市民が誰でも参加可能な公開イベント「生理のこと 気軽ni学ぼう」を開催したのは、静岡県浜松市です。6月27日と7月4日の2日間で、10代〜70、80代まで、性別問わず、延べ100名程度が参加。
 
ソフィによる動画講義や、来場者参加によるワークショップで、カラダの仕組みや生理ケアの基礎知識を知るとともに、生理で体調の優れない人とのコミュニケーションやサポートの方法について、熱心に意見を交わしていました。
 
生理ケア用品の展示ブースは大盛況。近年広まり始め、ユニ・チャームからも今年発売されたばかりの月経カップ「ソフィ ソフトカップ」は、女性でも実物を初めて見る方が多いようで、みなさん興味津々の様子です。

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なかには親子一緒に参加されている人も。ご家庭内での性教育の場としても、このイベントを役立ててもらえたようです。
 
今回のイベントの大きな特徴は、これまで企業ごとにクローズドで実施されてきた「みんなの生理研修」とは異なり、組織の外に開かれたイベントであること。
 
なぜ市民の方々に向けたオープンな場を目指したのか。その狙いについて、まずはイベントの企画から運営までを担当した責任者にお話を聞きました。


「生理の貧困」で困っている人は本当にいるのか?

 
イベントを手掛けたのは、NPO法人・浜松男女共同参画推進協会の理事長をつとめる道喜(どうき)道恵さんです。

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きっかけは、今年の始めにメディアで取り上げられた「生理の貧困」だったそう。

「最初は、浜松市の男女共同参画課の方々との立ち話で『生理の貧困が話題ですよね。市としてどうしていきますか?』なんて話していたんです。

私たちの活動場所でもある『あいホール(浜松市男女共同参画・文化芸術活動推進センター)』は、静岡県の西部エリアにおける男女センターの拠点。こういったテーマへの取り組みは大きな役割だと考えて、市と企画を考え始めたのです」(道喜さん)

しかし、そこから今回のイベントにたどり着くまでも、さまざまなハードルがありました。

市の職員の中から「本当に『生理の貧困』と呼ばれるものがあるのか? 本当に困っている人はいるのか?」といった声が上がったほか、いざ市として取り組むとしても、担当するのは福祉課か、それとも男女共同参画課なのかといった議論が起こったのです。
 
そこで道喜さんたちは、まず他の自治体での取り組みを調べてみることに。
 
「ほとんどの自治体が行っていたのは、防災備蓄品の生理用ナプキンの無償配布のみでした。でも、配って終わりは違う。それでは、課題の根本的な解決にはならないのではないか?と感じたのです」と道喜さんは振り返ります。
 
男女共同参画の視点で、生理の貧困にアプローチする意義とは何か? 議論を重ねた末に、リプロダクティブヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の視点を取り入れたプロジェクト型のアプローチとして、『はままつの「生理」を学ぶプロジェクト』の実施が決まったと言います。

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企画の一番の目的は、「生理の貧困の実態を知る」ことでした。
 
「まずは実態の見えない『生理の貧困』について、もっと知っていかなければなりません。当事者の方々の声を聞くための、継続的なコミュニケーションを念頭に置いていました。そこから、アンケートやイベントといった具体的な手段が決まっていったのです。
 
生理用品を入手できない背景には、経済的な理由ももちろんありますが、その一端には性別を問わず“生理に対する理解の浅さ”もあるのではないか。そう考えて今回、浜松市民のみなさんに、生理について学んでもらえるイベントを開催することにしました」(道喜さん)
 
自治体開催として珍しい「生理について学ぶイベント」には、想定の数倍ともなる申し込みがあったとのこと。有志で集まった参加者たちは、このイベントからいったい何を考えたのでしょうか? 

生理との向き合い方は、経営課題にも 


会場で参加者が記入した「あの頃の私に伝えたい、次のあなたに伝えたいメッセージ」には、さまざまな声が寄せられました。
 
「生理ははずかしいことではないですよ!」「お父さんも買いやすい生理用品を希望します」など、その多くは、生理のつらさを一人で抱える女性への温かいメッセージです。

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女性同士でも、なかなか生理について気兼ねなく話すのは難しいもの。男性参加者は、何を思ったのでしょう。

市内でオフィス関連事業を営む40代の杉田策弘(やすひろ)さんは、経営者として「会社として生理にどう向き合えばいいのかには、いまだに悩んでいます」と語ります。
 
「うちの会社は今、私以外の従業員が全員女性なんです。それぞれリモートワークなので、朝礼では集まったときに『体調どう?』と声をかけるんですが、みんな毎日『元気です』としか言わないんですよ。子どもの熱なら休むのに、自分の体調不良だと休まずに頑張ってしまう。
 
ワークショップで他の企業の方から『生理休暇があっても取得されない』といった話を聞いたので、どこの企業も同じように課題を抱えているのでしょうね。
 
まずは福利厚生として、ウェルネス休暇を作ろうと計画中ですが、時間単位で取得可能にして、ジムに行ったりするのもOKという形を考えています。そのほうが女性も休暇を取りやすいのではないかな、と」(杉田さん)
 
生理と向き合うには、「必ずしも生理だけにフォーカスするのがベストな選択ではない」と杉田さんは言います。
 
「もっと広い健康について語れば、性別を問わないテーマになります。健康の一環として生理を捉えるほうが、社内のコミュニケーションや福利厚生もうまくいくような気がします」(杉田さん)

継続的なサポートと“女性の視点”の広がりを


生理の貧困の実態を知るべく、浜松市が主催した生理を学ぶプロジェクト。イベントに賛同した浜松市議会議員の鈴木めぐみさんは、生理の貧困の背景には、女性を取り巻くさまざまな社会問題があると指摘します。

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「生理用品を買えない状況は、単純に経済的に苦しいだけが理由ではありません。貧困家庭でなくても、父子家庭で相談がしづらかったり、あるいはDVや虐待だったりという要因が隠れているかもしれないのです。
 実際に、市の相談窓口には『夫が財布を握っていて、何にいくら使ったのかすべて報告しなければならない。スーパーへ買物には行けても、自分のための生活必需品を購入するのが難しい』といった声が寄せられたこともあります」(鈴木さん)
 
浜松市では、あいホールでの生理用品の無償配布に際しても、当事者の声に耳を傾け、実態の理解に努めています。また、コロナ禍で困窮したひとり親家庭などの食糧支援を8月にスタートし、そこでも必要に応じて生理用品を渡したり、女性弁護士に相談できる環境を用意したりするなど、包括的な女性支援を行っています。
 
こうした社会課題にアプローチしていくためには、「議会や地域に、もっと“女性の視点”が入らなければなりません」と鈴木さん。
 
「浜松市議会は現在、46人中12人が女性市議です。以前は女性がたった3人だけの時代もありましたが、40代〜60代まで幅広く、在任中に出産した市議もいます。議会は変わりつつありますが、自治会や町内会にはまだまだ女性が入れていないように感じます。

メンバーが高齢の男性ばかりでは、災害時の女性用の備えとして、何を用意すればいいか、トイレはどうすればいいかもわかりません。そうした状況に現場も悩んでいますし、今回のような女性のカラダについて学ぶ機会は、地域へのサポートにもなると感じています」(鈴木さん)

生理の貧困については、これから浜松市だけでなく、静岡県内での女性議員の連携を強めていきたいとのこと。鈴木さんは「女性の集まりだからこそ提言できることがある」と言います。過去には、女性議員たちの声がきっかけで、市役所内のトイレ設備の大規模な改修が実施されたりもしたのだとか。

男性社会で見落とされていた困りごとに、こうして一つひとつ声を上げていくのが、鈴木さんたちの役目なのです。

今回のイベント等の結果をもとに、浜松市での来期の取組内容や予算策定などが進んでいきます。すでに10月には、今回のプロジェクトの報告会として、助産師会の方を招いたトークセッション等のイベント企画の実施も決まったとのこと。

いつか、みなさんの住む街でもイベントが開催されるかもしれません。より多くの方々が生理について学ぶ機会を得られるように、ユニ・チャームも「みんなの生理研修」の輪をもっと大きく広げていきます。

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「みんなの生理研修2021」お申し込み受付中
 

「みんなの生理研修」実施初年度の2020年は、サイボウズ様やLINE様など複数の企業で開催し、受講者の満足度は9割以上となりました。
 
2021年も、受講を希望される企業のお申し込みを開始しています。今年は「動画などで好きな日時に自由に受講できると良い」というお声にお応えし、ご活用しやすい研修動画をご用意しました。
 
お申し込みは以下のフォームから。お申し込みをお待ちしています!

文:中道薫
写真提供:浜松市

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