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漫画で生理の話はタブー? 人気漫画家・末次由紀さんが生理を介して考える他者理解

「生理の日を快適に過ごすための最適解を見つけた」

そういって、漫画家の末次由紀さんが紹介したアイテムのひとつが、ソフィの「シンクロフィット」でした。末次先生が書かれた「買って人生が少し変わった品物」というタイトルのnoteは、SNS上でも大きな話題を集めました。

このnoteをきっかけに、末次先生へのインタビューを実施。インタビュアーは、彼女と仲の良いエッセイストの紫原明子さんが務めました。
生理への向き合い方から、少女漫画での生理の描かれ方、そして「我慢リレー」が続く社会における他者理解まで、たっぷり語っていただきました。

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シンクロフィットとの出会い

末次:私が初めて「シンクロフィット」に出会ったのは10年前くらい。友達に勧められて試したことがあったのですが、そのときはあまり良さが実感できなかったんです。
でも去年、漫画家の瀧波ユカリさんがSNSで話題にしていて、改めて試してみようと思い使ってみたら、もう手放せなくなって。純粋に「今の私にめちゃめちゃ必要なものだ!」と(笑)。

トイレの度に毎回ナプキンを捨てるより経済的だし、そのまま流せるのもいいですよね。私はズボラなのでナプキンを変えるタイミングを見誤って漏れてしまうこともあったのですが、これは「トイレに行くたび取り替えざるを得ない」という点もいい。ナプキンとは違うスタイルで助けてくれるから、その利便性をみんなにもわかってほしいな。

紫原:末次先生は競技かるたをテーマにした漫画も描かれていますが、かるたの選手にもおすすめですよね。競技中は常に中腰だし、大変だと思うんですよ。

漫画で「生理」を描くということ

末次:ただ、私が制作した漫画では、これまで一度も、生理があることを表現する絵やシーンを描いてこなかったんです。「いったいこれはどういうことだ」と、自分でも思いました。

末次:学校生活や競技かるたでも生理にはきっと苦労するはずなのに、これまでそういうシーンを描いたことがなかった──その話を他の漫画家さんにしてみたら、「世の中にはいろんな人がいて然るべきなのに、何気ない交差点のシーンでモブを描くときに、車椅子に乗っている人を描いたことがない。何の特徴もない普通の人を配置しようとする」とおっしゃっていて。

確かに、何気ない街のシーンに限らず、登場人物に足の不自由な人がいてもいいのに、そういうキャラクターは「情報量が多い」とされてしまい、作品の本筋に絡まないなら描かくていいのではないか、となってしまいます。「生理」も同じで、お腹が痛くてトイレにいくシーンがあったとして、そこから話が展開されるなら入れるべきかもしれないけれど、そうじゃないなら意味深すぎるので「生理=いらない特徴」としてしまっていた。でも、それは大きな間違いだったと気づきました

話の中でどう成立させるかは描かなくても、特段ピックアップされなくても、生理中の子が普通にいていい。特別視をしてほしいのではなく、ただ「いる」ということを、漫画のなかで描くべきだったなって、思いましたね。それを今までは、いらない設定だとして描いてこなかった。

男女半々の読者層がいる漫画で生理を描いたら、男性読者も「そういう日もあるんだ」と気づいたかもしれないし、男女混合の競技かるたに参加している男性も、「同じルールで戦っていても体の条件は同じじゃない」ということを知るきっかけになったかもしれない。私の目が粗かったのだなと、反省しました。

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紫原:物語の中で自然に生理の話題が出てくるようになるのが理想ですよね。コンテンツで描かれる生理はいつも「生理がこなくて妊娠の疑いがある」という感じで「困りごとの象徴」になってしまいます。

末次:ネガティブなイメージで出てきますよね。心配事とセットで。ちょっと怒ってると「お前生理だろ」みたいな表現もあって……カチンときますよね。

作り手がもっと、意識的になるように

末次:生理について語りやすい空気感がコンテンツで表現されると「こういうときはキョドキョドしなくていいんだ、当たり前の話なんだ」って思えますよね。知らず識らずのうちに男性は「生理=聞いてはいけない」というイメージがインプットされてしまっている。コンテンツでの生理の描かれ方が変わることで、いい影響が広がると理想ですよね。

そのためにも、やっぱり作り手の意識が変わらないとって思います。じゃないと、作品に表出されないんですよね。例えば会議のシーンなどでマジョリティ男性しかいない絵になっていないか、そうした違和感にちゃんと気づけているか? とか。

そういうことに私自身、もっと意識的にならないといけないなと思いましたし、そこに共感する描き手の方が増えれば、読者の方も、均一化された表現に違和感を抱くようになる日がきっとくると思います。

女性として、母として…生理とどう向き合う?

末次:私が初めて生理の存在を知ったのは、小学5年生くらいのときでした。授業で聞いて「これがこのあと何十年も続くのか……」と思いましたし、年上の女性たちはそれを隠しながら生活していて、自分も同じく隠しながら毎月不自由な思いをすることになるのか、と。最初は衝撃で、本当に純粋に「生理は嫌なもの」だと思いました。

でも、娘たちにはそんな思いをしてほしくないし、生理の負担は少しでも軽い方がいい。「今はこれがあるから大丈夫、なんとかなるよ」って言えるような商品があればと思って、いろいろアイテムを探しています。

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私は生理痛がひどくはないのですが、なかには辛くて倒れてしまう人もいますよね。もし自分の子供もそうなれば、苦しさをわかってあげたいし、相談される存在でありたいし、娘も息子も一緒にオープンに話せる親でありたいなと思っています。お腹が痛かったら病気かもしれないから、婦人科にいくことにも慣れてほしい。問題だと思ったものを無視せず、真正面から受け止められるように、私自身も勉強をしておこうと思っています。
オープンに話せることって、とても大事ですよね。生理痛が辛いのに誰にも言えず、我慢しすぎて子宮内膜症になってしまう人も少なくない。

紫原:生理痛は痛くて当たり前だと思って、失神するほど痛いのに「これくらい我慢しなきゃ」と口に出せない人がいる。これって社会問題ですよね。生理中の痛みにをどう対処すればいいのか、親とも友達ともシェアできない世の中の空気感があるからかも。

末次:痛みを訴えても「みんな痛みがある」と言われたりして、まともに受け取ってもらえないと、諦めてしまいますもんね。そんな状況が積み重なれば、自分でさえ自分のことを大事にできなくなってしまう。普通であれば痛みがない状態が当たり前なんだから、そうあるためにも「あなたの体は大事なんだよ」と、生理や性別は関係なく、みんなに言ってあげたいですね。

「我慢リレー」を断ち切り、「辛い」と言える社会へ


紫原:いろんな理由での「我慢リレー」が今、起きてしまっている気がします。痛みがあったり体調が悪かったりするのに「そんなの我慢しとけよ」って言われてずっと我慢をして、そうして我慢させられた人が他の人に我慢を強いて、その人は次の人へ……と。それは大人子供の関係性に問わず起きてしまう。でも子供はまず庇護されるべき対象だし、体調は気にかけてあげないとですよね。

末次:子供の頃にちゃんと労られる経験がないと、人を労れないんですよね。どこかで「我慢リレー」の連鎖を切らないと。

紫原:漫画など身近なコンテンツをきっかけに「生理についてもっとオープンに話していいんだ」と思えるようになるといいですよね。

末次:オープンな空気であることは本当に大事ですよね。私も仕事場では女性のアシスタントが多いので「今日は二日目なので辛いんですよね〜」という話もします。自分は生理痛がひどくなく、ケロっとしていることが多いので、そういう方には「わかってあげられなくてごめん…」と思いつつ、理解できるように感度を高めたいと思っています。
症状が人それぞれ違うから余計に難しいところではあるけど「それくらい動けるなら痛くないはず」とか、症状によって「信じる・信じない」が決まる世界からは、早く抜け出したいですよね。「本人が痛いって言ってるんだったら痛いんだ」って、信頼をベースにしたい

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紫原:生理に限らず、精神的に苦しんでいる人にも「まだがんばれるはず!」なんて言わずに「ちょっと休もう」って、誰でも言えるようになればいいですよね。「どこがギリギリかを見極めるごっこ」は、本当によくないなって思います。
コロナ禍の今、ただでさえ信頼関係を築きづらい状況のなかで、でも誰もが健康増進につとめなきゃいけなくて、そんなときに「ギリギリまで我慢する」とか言ってる場合じゃないですよね。

末次:みんなもっと、自分のこの苦しさは当たり前なのか、自分ひとりで困難を解決できないままでいるのは正しいのか、立ち止まって考えてみてほしい。そして周りにもし、誰にも相談できなくて一人で苦悩を抱えている人がいたら、声をかけてあげたい。自分自身にそんな余裕があるかどうかも、大事なことだと思います。

私の漫画でも、自分の気持ちに不器用だったり、弱みを見せられなかったりするキャラクターはいて、彼らは誰かとぶつかることで初めて自分の気持ちに気づいたりします。そういう人たちの成長を描くことが、作品として大事なこと。

それこそ性別問わずみんなに、「気持ち悪かったり苦しかったりする状況を、飲み込むな。心と頭で捉えて、誰かに辛いって言っていいんだ」って伝えたい。これからもそんな漫画を描いていきたいです。

執筆:川口あい
取材:2021年9月


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