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第五章 冷戦⑥

「梨紗!」

よっちゃんが、あたしを追いかけて控室へと入ってくる。

「どうしたの?安奈が喧嘩売ってきたんでしょ?」

「栞が、ソープで働いてるって……」

「栞ちゃんが?」

「ごめんね、店騒がしちゃって。大丈夫?」

「うん、大丈夫だけど……一人で帰れる?」

「ありがと、よっちゃん。帰れるよ」

よっちゃんは、納得したようなしていないような顔をしながらも店へと戻っていった。


悲しいんじゃない。

悔しい。

安奈……。

あたし、絶対にあんたなんかに負けない。


あたしは、その足でマチルダへと向かうのだった。


「いらっしゃいませ。ご指名は?」

マチルダの内勤にそう聞かれ、

「安奈。藤崎安奈」

あたしは、答えた。

店の奥へと案内される。


マチルダ……。

初めて、その店内へと入った。

綺麗な店内。

光り輝くシャンデリア。

そして、すぐに安奈がやってきた。


「梨紗さん?!どうしたの?何、早退してわざわざ来てくれたわけ?」

私服に着替えてきたあたしを、まじまじと見つめる安奈。

「指名には指名で返さないとね。安奈、今日あたしスーパーライトへ行くわ」

「え?」

「さっき、指名したいならしてもいいって言ってたじゃないの。あたしに負けたくないんでしょ?一哉を賭けて勝負するのが、一番いいんじゃない?」

「……いいわよ。飲み比べでもする?」

「先に入って待ってるわ、あんたが来るの」

それだけ言い、十分もいることもなくあたしは席を立った。

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