警察導入についての状況・問題点の整理と抗議


まえがき

 6月21日夜23時前ごろ、我々緊急アクションのメンバーを含む数十名が安田講堂前に集まり、総長に対面での対話と申し入れ書の受け取りを求める抗議の座り込み活動を行っていたところ、警視庁の警官が本郷キャンパスに入構しました。警官隊は20~30名はいそうな大部隊で、盾と警杖という暴動の鎮圧装備で入構してきました。この時点ではどうして警察が入構したかはいまだ不明でしたが、一旦はメンバーの情報保護の観点と公務執行妨害等による不当な逮捕のリスクを避けるため解散し、安田講堂前より撤退しました。

 その後、残った人が任意聴取を受けたり、守衛室に問い合わせたりする過程で警察の規模と入構目的が明らかになりました。警察は警備員が殴られたと聞いて入構してきたらしく、任意聴取では「警備員さんが殴られたのどこ?」と聞かれたそうです。一方で警備員側や守衛室は困惑しており、少なくとも警備員による通報ではないとのことでした。翌日には大学当局からの発表があり、警備員に対する暴行が行われたため警察を入構させた、という主張がなされました。

 今回の記事では、今回の警察導入に関して、我々の確認する事実と、立場と、主張を、Twitterへの引用RTなどで散見された疑問や意見などに対する反論という形をとって論じたいと思います。


1.問題点の整理

Q:今回、構内に警察権力が導入された事案はどのように問題であるのか?


A:本事案の第一の問題は、これが大学当局と学生との間で取り交わされている協定への明確な違反である、という点である。1969年(昭和44年)1月10日に秩父宮ラグビー場で行われた七学部集会において取り交わされた、所謂「東大確認書」において、「大学当局は、原則として学内『紛争』解決の手段として警察力を導入しないことを認める。」という条項がある。これには七学部(理・工・農・法・経・教養・教育)の代表団の署名とともに、当時の加藤一郎総長代行による署名があり、大学当局と学生との間における依然有効な協定として認められる。そのうえで、大学当局が盾及び警杖を持った、すなわち集会の弾圧を目的とすると思われるに足る装備の警官数十名を学内に導入したことは、この確認書への明白な違反である。

 そもそも確認書において定められている警察導入否定の根拠は、日本の最高法規である日本国憲法第23条である。23条が定める学問の自由を手段的に保障するために、大学の自治が保障されていると考えられている(渡辺康行ほか『憲法Ⅰ 基本権』第2版、2023年、220頁)。大学の構内は学術及び芸術の面においてその研究及び公開の自由を保障するため、大学の施設や学生の管理も大学の自主的な判断に基づいてなされることが認められている。

 東大ポポロ事件判決(最大判昭和38年5月22日刑集17巻4号370頁)は、大学の自治は「大学の施設と学生の管理についてもある程度で認められ、これらについてある程度で大学に自主的な秩序維持の権能が認められている」と判示した。警察作用との関係で、内部秩序の維持はまず大学自らの管理責任でなされるべきであり、これが不可能な場合にのみ警察権が発動されるべきである(佐藤幸治『日本国憲法論』第2版、2020年、276頁)。東京大学においても、学内への警察の立ち入りにあたっては大学当局の要請が必要であり、さらに駒場(教養学部)においては自治会長の立ち合いが必要である。したがって、後述するように虚偽の罪状において大学当局が警察を構内に導入し、非暴力的な集会および示威行動を弾圧したことは、いうまでもなく大問題である。


2.事実関係の確認

Q:警察は警備員に対する暴行が行われたため入構したのではないのか?


A:大学当局の発表によると、安田講堂構内への突入を図った学生らを制止しようとした警備員が怪我を負ったため警察に通報した、とのことである。しかし、当時安田講堂周辺を警備していた警備員はのべ3名(正面玄関前に2名常駐しており、途中で1名交代)であり、いずれの警備員とも身体接触を含む衝突が起こったり、暴行が行われたりした事実は確認できない。暴行及び通報が行われたとされる22時半過ぎには、学生たちは正面玄関前の警備員と談笑しており、大学当局の主張する暴行等の事案が発生していないことは明白である。

 また、警察側の公式発表によると通報内容は「学生数人が警備員と口論している」であったとのことであり、そもそも大学当局の主張は警察の発表とすら食い違っている。補足すればこれに関しても、示威行動の中で警備員及び大学職員にマイクを向け、今回の学費値上げ検討に係る意見を求めたことはあったが、警備員及び大学職員は終始無言であり、「口論」という事実は存在しないといえる。その後大学職員は無言で立ち去り、警備員との会話はあったが先述の通り日常会話の域を出ない内容であり、通報内容すら虚偽の誹りを免れないものである。

 そもそも暴行にせよ口論にせよ、先述の通り警察は盾及び警杖を持ち、数十人単位で入構をしてきている。普通に考えて、数人で行った暴行であるとか、生じた口論であるとか、そのような事案に動員する警察力ではない。これは警察比例の原則に反するものであり、結果的に集会が解散に追い込まれたことを考えると非常に不可解かつ納得のいかないものである。

Q:警備員に対する暴行は、本当になかったのか?

A:当時、安田講堂前及び裏口で抗議活動を行っていた学生は弊団体に所属する学生だけではないため、少なくとも弊団体の確認する限りにおいて、暴行はなかったと断言することはできる。先述の通り警備員に対しての我々の態度は暴力的とは程遠いものであったということは確実にいうことができる。本当に暴行があったならば大変遺憾であるから、大学当局側によって警備員の怪我の程度や、暴行が行われた現場、労災や治療の証明などを公開していただきたいと思う。


あとがき

 以上の通り、大学側の主張は矛盾が多く、結局のところ確認書違反を正当化できるような事実は存在しないといえます。大学当局は警察の導入という重大な決断に踏み切った以上、決断に足る確固たる根拠があるのならば具体的にこれを開示し、事件当夜に何が起こったのかを説明する義務があるでしょう。少なくとも現在の公式発表は、到底それに足るものとは言えません。

 我々はこれまで非暴力主義を貫き、あくまでも平和的な行動によって主張を行ってきましたし、それは今後ともいっさい変わることはありません。警察が介入せざるを得ないような暴力行為には、我々としても毅然として対処します。


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