SNSで注目を集める企業に学ぶ、社内外で共感される採用広報とは?
「一人ひとりの多様な個性やスタイルを、働く環境でも大切にしながら、活躍できる人が増える世の中にしていきたい」という株式会社No Company創業者、秋山真の想いの下に2022年11月30日「THINK STYLE for U-30」が開催されました。今回は、SESSION2「SNSで注目を集める企業に学ぶ、社内外で共感される採用広報とは?」で株式会社グッドパッチの高野葉子氏、ラクスル株式会社の松本藍氏が行ったトークセッションをレポートいたします。モデレーターはスローガン株式会社の西川ジョニー雄介氏が務めました。
採用・働き方に関する情報発信がSNS上でエンゲージメントしている(「いいね」などをされている)2社が、自社の価値観をどのように工夫しながら社内・外に発信して共感を集めているのか。社員と連携した発信を進めるナレッジや、入社後にギャップを生まないための採用広報活動の秘訣などについてセッションを行いました。
PX(people experience)を最重視した背景
西川 ジョニー 雄介氏(以下、西川):「PX」とは、働いているメンバーの体験を考えていくことを指しますが、重要視するきっかけはそれぞれ何でしたか?
高野葉子氏(以下、高野):実は、過去に2年半くらい組織崩壊しておりまして……経営陣含めメンバーみんなが人に向き合うことの大切さに気づき、人に向き合うことに逃げない、という思いでPRチームと併設する形でPXチームを作りました。メンバーだけでなく、株主やクライアント、候補者まで含んで「People」とし、みなさんにどういった体験を提供できるか考えています。
西川:採用広報の面でPXを意識される点はありますか?
高野:まずはメンバーが自分の会社や仕事に誇りを持っていきいきとしている状態をつくり、それを発信していくことを目指しています。約2年間で大小何十個もの施策を実施し、企業から大切にされていると感じてもらえる機会を作りました。例えば、元々掲げていたバリューを取り下げてみんなで再構築し、社内イベントや全社総会などタッチポイントになるものはすべてリニューアルしました。
松本藍氏(以下、松本):ラクスルは、ビジョンに共感いただいて入社につながることが多いという特徴があります。創立当初はまだスタートアップも多くなく、その中で入社いただくためにはビジョンを掲げることで、同じ夢を見ている方に共感してもらうことが重要でした。「ビジョンに共感し、実現するために何をしてもいいよ」という環境があることが始まりだったのかなと思います。現在はグローバルを含めと500人を超える規模ですので、今後は入社された方が成長できて、長く活躍してくれる環境にしていくために組織開発に取り組んでいます。
西川:どのような効果が、どのくらいの期間で出るのかわかりにくい分、取り組めない企業もあるのかなと思うのですが、社内外での変化はありましたか?
高野:最初の1年は「なんかやってるなぁ」という感じでした。ただやり続けていくことで、従業員の満足度やモチベーションが上がっていく様子は数字でも表れています。次に、自社を友達に紹介してくれたり、SNS投稿やイベント登壇をしたいと言ってくれたりと、組織に属している自己肯定感が高まっていく印象です。
西川:社内メンバーの体験をよくしていくと、跳ね返りの手応えを感じますか?
松本:この13年間でラクスルを卒業された方もいますが、ラクスルでの経験が、人生の中で分岐点になったと言っていただけるようになりました。
高野:従業員のモチベーションが高いと、クライアントにもよりよいものを提供できると考えています。デザイナーの卒業生の中でも、「グッドパッチ卒業生」として働いてくださる方もいて、コミュニティが循環しており、仕事は人が中心になって回しているんだなと実感します。
西川:PXをよくしていくと、社員が自発的に発信したくなるものなのでしょうか?
高野:そうですね。会社からメンバーにSNSの活用を頼んでいるわけではなく、社名を入れても入れなくても問題ないのですが、社名を入れて発信してくれる方が多いのは、エンゲージメントが高かったり、モチベーションを持てているからなんだろうなと思います。
西川:メディアに出す意味として、登壇者の仕事内容が社内でもわかりやすく理解できるようになるということ以外に、インタビューや登壇などに協力してもらうことで、社内でのエンゲージメントが上がるとも聞くのですがいかがですか?
高野:いい影響があると思います。自分がやってきたことを言語化してまとめ、相手に伝えるという経験は社員にとって大切。30代以下のメンバーでも積極的に新卒採用の面談に出てもらっています。
松本:時間をかけて発信した内容は、社内で褒め合い、上司からフィードバックしてもらうようにしています。イベントに登壇しても応援されないと悲しいですし、その日の出来もわからないので、経営陣や上司にSlackで積極的にシェアし、登壇者自身にも貢献できていることを伝えています。
HRコミュニケーションで意識している「スタイル」とは?
西川:どういった方針を持ちながら、社内外に発信をされていますか?
松本:バリューにあたる「RAKSUL Style」というビジョンを分解した行動指針を、2017年頃の組織崩壊を経て掲げました。「Reality(解像度)、System(仕組み)、Co-Operation(互助連携)」という3つの構成は、社内でかなり浸透しています。ラクスルで必要なものを明文化することで、バリューに関する内容を発信してくれるメンバーもいます。
西川:メンバー個人が発信する上で、会社としてガイドラインなどは設けていますか?
松本:非公開情報は言わない、誹謗中傷はしないなどのどの会社でも言われていることはガイドラインとして公開しています。一方社員を信じて任せていますし、タイムリーに発信していってほしいので、メンバーの発信1つ1つに広報チェックが入ることはありません。ただ、社員同士がSNSを見ていてお互いに注意を促す場面はあります。
高野:グッドパッチでも、困った際に参考にするガイドラインはありますが、基本はおまかせしています。グッドパッチはデザインの会社で、デザインは相手に届ける仕事なので、届ける相手が誰で、どういう目的で、どういう状況に置かれている方なのかなどの解像度を持って発信することがカルチャーとして根付いています。「Inspire with why(Whyが人を動かす)」というバリューがあるので、ガイドラインにおいても「してはいけないこと」ではなく、「なぜしてはいけないのか」を伝えています。SNSの場合なら、グッドパッチという名前を使って発信することには、どういう責任が生まれ、どういう見られ方をするのか共通認識を持ち、みんなで守ってきた看板をどう活かして発信していくのか、内定者から役員まで合意を取るようにしています。
西川:新卒や中途などで入社すぐのメンバーだと躊躇したり、それにより発信が偏ることもありますが、発信しやすくなるために実施していることはありますか?
高野:発信はいいことだ! どんな人でも歓迎! という空気づくりが重要です。なぜか毎年内定者が、どういうポートフォリオを作ってどのように就職活動をしたかブログを書いてくれるのですが、内定者が書いた記事をメンバーが見て、自分たちも頑張ろうと思えているみたいで、ボトムアップの発信を歓迎する雰囲気づくりはできているのかなと。
松本:ラクスルの場合、ミドルシニアが会社のことを積極的に発信することで、その人の人となりを知ることができたり、営業や採用面で好循環が生まれたりするということを社内に示しています。それによって若手の発信も見習う形で増えておりますし、みんなでシェアして応援していこうという空気感の醸成はできているかなと。
西川:No Companyが毎月出しているリサーチ「THINK for HR NEWS」でも、2社はSNS上でエンゲージメントを獲得していることがわかっているのですが、他社と違うところってありますか?
松本:人によってエンゲージメントが生まれる内容が違うので、一人ひとりがSNSを研究しつつ、伝えたいことをどう伝えるのがいいのか、PDCAを回していた時期もありました。
高野:グッドパッチでは、選考フローで面接官として出てくる社員のストーリーを公開するようにしています。候補者は履歴書を丁寧に書いてくださるので、面接官側のインタビュー記事をシェアしています。
社内外に共感される情報発信の実践方法
西川:「人×媒体×メッセージ」が重要なときに、人については社内でよく分かると思いますが、媒体や露出先に関してはどのような基準で選定されていますか?
松本:FastGrowさんにもご協力をいただきながら、ラクスルは3年ほど前から「BizDev(ビズデブ)」という職種を打ち出しています。当社のCOOがスタートアップにおけるBizDevを語り(人)×スタートアップに強い媒体(Fastgrow)にて×スタートアップには領域を規定しない役割が必要であると根気強く発信してきました。
このように募集している職種の方が好むメディアを選び、かつメディアに合致しそうな人がメッセージを発信するということを意識して働きかけています。
高野:作り手である編集者さんや記者さんが、どういったことに興味・関心があって、どのようなコンテンツ作りをされているかを伺います。その方たちを通して読者の方に届きますので、作り手と読者がどんな情報を必要としているのかも解像度高く見るようにしています。また、誰のために、何のために、どういうシチュエーションでといった5W1Hの掛け算で考えないと結果が0になってしまうので注意が必要。あとは、登壇者がどの媒体に出たいかも重要ですよね。みんなが好きな媒体なども聞いたりしています。
西川:学生向けと社会人向けとでは変わりますか?
高野:新卒採用も担当しており、面談や面接、採用イベントを行っていますが、学生さんはすごくSNSを見られていますよね。共感される記事を作るためには、ターゲットとなる方から徹底的に聞くことが重要。今回のテーマのようにターゲットがU-30の場合なら、U-30 の社内メンバーに興味関心のあることや、普段見ているものなどの価値観がわかる内容を聞きます。採用においては面談や面接、採用イベントに参加してくださった方の満足度をチェックするようにしたり、多く出た質問に関しては回答となるコンテンツを作ったり、人事と広報で連携しています。
松本:第二新卒含め、ラクスルでどういった成長をしていって、どのスピードでどんなポジションになったのかという実績にみなさん興味を持っている印象です。若いうちからでも権限を持ってチャレンジができるという面を出していくと、キャリアを気にしているU-30には刺さりやすいので、新卒メンバーでも意識して、外部に発信していっています。
西川:取材依頼が来た際、より共感度の高いコンテンツにするために社内で事前にやっておくべき準備はありますか?
高野:登壇するメンバーが自信を持って話せることが重要なので、会社としての狙いや届けたい先、登壇するメリットなどをインプットしています。
松本:会社として伝えたい内容は媒体さんに伝えつつ、登壇者が不安がっているときは本人が納得できるまで壁打ちし、その方の目線で「載って嬉しいと思えるか」を一緒に考えています。
「発信する」の前に「聞くこと」から始める
西川:もし仮にU-30向けに採用広報を実施していない会社を受け持つことになった場合、まず何から始めますか?
松本:1年前にエンジニアの技術広報を任されたときは、まずどんな媒体を見ているか、なぜ入社したかなど幅広く現場やエンジニアのことを知ることから始めました。あとは社内の味方を見つけて、採用広報で外に出ることが自分のためにもなり、会社のためにもなるということに共感してもらいその方から社内に流れを作るよう努めました。採用広報の実現には、上司が認めてくれているという状態であることも重要。もし仮に「イベント登壇するのに時間を使うなんて何事だ!」と言われてしまうとみんなが不幸になってしまうので、私たちから話をして、上司も認めてくれていて、みんなで盛り上がっているムーブメントを作れるようはじめに心がけました。
高野:私も自分のDay1を思い出していたのですが……人事の経験がなかったのでたくさん聞きましたね。よくある質問は何か、起きてはいけないギャップは何か、生まれやすい誤解や今ある課題など。毎週1本記事を書く作業を2年間続けました。それでも毎回聞かれる質問がある場合は、伝わっていないということなので、コミュニケーションができていないことになります。また、コンテンツが溜まってきたら面談前にお送りしたり、面談後にフォローアップのお土産として渡すなどするようにしました。公開時にSNSでシェアするだけなく、内容をアップデートしながらでも使い続けることは本当に大切です。
西川:最後に、より共感度の高い採用広報を目指していきたいという方向けにメッセージなどお願いします。
高野:共感を生む上では、どういう人で、どんな視点を持って、どんなことをしているのかを聞くことで社員への解像度を高めることが欠かせないという点が、松本さんとも共通していたので改めて自信になりました。社員の解像度を上げる取り組みは、今後もやっていきたいです!
松本:まずは、メッセージや記事に対して周りの社員やSNSの外にいる方に共感されるかという視点を持ちつつも、自分が共感できるか、良いと信じられるかも大切です。採用広報は時間のかかるものなので、明日の結果ではなく、数年後にどうなっていたいかを経営陣と合意した上で足を動かすことが大事なんだろうなと。数年後に向けてみなさんとがんばれたらと思います!
あわせて読みたい!
メルカリ・岩田翔平氏、LayerX・柴山嶺氏、No Company・秋山で行った「組織ビジョンを言語化する大切さ」に関してのセッションレポートは、HRzineさんにて公開されております。
パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社・杉山秀樹氏、株式会社マネーフォワード・石原千亜希氏、No Company・秋山で行った「人事のあるべきスタイル」に関してのセッションレポートはこちら。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?