ききとどけるもの
この世の中には、「見届けなくてはならない」ものがある。
・・・と思うと、人はどんないそがしさもぶっ飛ばして、そこにゆける。
たとえば、「我が子の誕生」。
子が生まれた時、僕は初めて90分番組の総合演出を任され、VTRの編集佳境だったが、妻からの「病院に行く」という連絡を受けて、すぐに向かった。妻もはじめての経験、ひとりにさせたくない、という思いがまずあったし、テレビマンとしても、絶対にこの経験の方が大事だと思った。そして実際そうだった。病院に行ってかなりの時間が過ぎた後に、子の産声を聞いた時、「これが人の最初に発する音なんだ」と、感動と発見が押し寄せ、それ以来、音に、声に、とびきり敏感になったと思う。耳を、ひらかされたのだ。(なお、VTRの編集は長男誕生後に恐ろしい勢いで進めた。48時間ぐらいぶっ続けでやったと思うが、うれしさと責任で何もこわいものは無かった)
第2子の時も、ドキュメンタリーとしては最も大型な番組のディレクターを務めていた。その最も大事なロケの出発直前が、予定日。もし生まれてこなかったら、あちこちに頼み込んで、ロケを遅らせることもできるようにしていたし、無理を言って後発隊にしてもらって3日遅れで向かうことにしていた。そして、ロケ出発の3日前に、誕生。ちょうどその日に空港で出発を迎えていた先発隊のみなさんに連絡したら、10人ぐらいのチームの仲間たちがみんな代わるがわる電話に出てくれて「よかったな!」「おめでとう!」「待ってるぜ!」と声をかけてくれた。あの音も、わすれない。とびきりのやさしさに包まれたとき、人は気恥ずかしくて、目や顔を瞑ってしまいがちだけど、耳は塞がない。耳は、人の感情をもっともしっかりと受け止めることのできる器官だ。電話越しの祝いの言葉が花咲いたように聞こえて、流れる涙も止められず、ありがとうございます、ありがとうございます、と繰り返した。
ここまで書いてきて、気づく。
最初に「見届けなくてはならない」と書いたけれど、
どうやら「見」届けた光景よりも、
「聞き」届けた音、声のほうが、心にふかく、響き続けるようだ。
響き続ける。響く。Echo。
そういえば、かの人が氷上をいつも去る時に最後に残すのは
「ありがとうございました!!!!!!!!」というとびきりの感謝の叫びだ。あの声も、いつもいつも、いつまでも、響き続ける。
2024年12月7日、
ぼくはどうしても「見届けたい」し、
「聞き届け」てこの先ずっと心に響かせたい音のために、
さいたま新都心へと急いでいた。
それは、これのためだ。
ICE STORY、第3章。
第1章で受けた衝撃はあまりに凄まじかった。
「ショウ」とは言えない。まさに、「物語」。
たったひとりで、東京ドームで、「物語」を演じ切る。
その演出を考え抜き、実現する。
同じくディレクターであり表現者である人生を生きて続ける上での、
遠き遠き背中を見せられた。
そして第2章。
さいたまには滅多にいかないが、あの日の記憶があるから、きょう第3章を目指す足取りも期待で満ち満ちてしまうぐらい、未曾有にして興奮の体験だった。
普段は仕事をツメツメにしているので、ICE STORYの現場にも駆けつけることばかり。でもきょう、第3章に際しては、どうしても先に手に入れたいものがあり、すこし早く向かった。それが、これだ。
第3章の公演の前に読む事ができる、とされたストーリーブック。本当に丁寧に、開催の何日前に申し込んだら間に合う、という案内までされていた。(更に、すこし過ぎても間に合わせてくれていたそうだから、すごい。すごすぎる)
なのだけど、年末仕事突貫(最大飽和時は大小合わせて28番組が重なっていた。おかしい。)三昧で事前入手に間に合わず悔恨をしていたら、、、なんと、会場でも入手できる、と教えて頂き、入手した。46ページ。
僕には他人に自慢できるかもしれない技が1つだけあって、
「読むのが異常に早い」。
番組の資料も、だいたい「アナザーストーリーズ」とかだと過去のインタビュー資料を全部読むのでA4裏表で1000〜2000ページぐらいいくのだけど、
たぶん2時間ぐらいで読み切る。読みながら片手に付箋を持って、気になったところにバンバン貼っていき、今度はその付箋を貼ったものを精読する、というのが通常。
だがこのストーリーブックには参った。
読むのはすぐ読めた。4分ぐらい。
でも、付箋が足りなくなる。どのページにも貼りたくなる。
そしてこれは本当に「先に読んで」良いものなのか?というぐらい、
きょうの第3章の「予告」がされている。
入手から入場まで時間のある間、「精読」に移った。
そこで考えた。
誰もが気になるであろう「2つ」と、
これは世紀の発見ではないかと僕が思った「1つ」、
あわせて「3つ」のことを。
誰もが気になる2つとは、もちろんこのストーリーブックを読んだ人には伝わるだろう。「VGH」と「257」。
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