DEEP 【完全版】

 強い陽射しに輝く海原に飛び込んだのは、とびきり暑かった8月の事。

 どう考えても奇跡としか思えない。黒く美しく輝く髪、頭の先から足先まで美しく描く曲線。美人でスタイルも抜群の女性が、まさか僕の彼女になってくれるなんて。

 その夏、そんな彼女と海に来ることが出来た。美しい彼女と美しい海、それもまた一つの奇跡。

 彼女は一足先に駆け出し、砂浜を抜けて海に入っていった。駆け出した彼女の美しい曲線を、他の男達の視線が追いかける。僕はそれらに嫉妬した。僕は、遅れてたどり着いた波打ち際で、砂浜を振り返り思った。海に入れば彼女の姿は僕だけのものになる。

画像1


 彼女の総てを独り占めしたい。欲望と嫉妬に昂っているこの気持ちは、海に飛び込めば鎮められるのだろうか。
 彼女の方に向き直り、海の中に少しずつ身を沈めていく。水面が腰骨に達した辺りで、大きく息を吸い込み頭から一気に潜る。身に付けているのはゴーグル一つ。海の中は青く輝いていた。その澄んだ青さが、僕の昂った気持ちを鎮めてくれているように思えた。ふと見上げると、息をのむ程に美しい、そそる彼女のボディラインが見えた。

 あまりにも美しいその曲線に見惚れてしまった僕は、何かにヤラれてしまったのだろうか。どのくらい潜っているのかもわからなくなった。

 彼女の美しさに、思わず吐き出した感嘆のため息は、キラキラと輝く気泡となった。小さな気泡が結合して大きな気泡となる。僕が彼女のことをもっと深く知りたいと想う気持ちが大きくなっていくように。
 更に美しさを増したその光景を目の前に、気泡が上昇しているのか、僕が沈んでいるのかもわからなくなった。海の青さが少しずつ増していく。蒼く深い海の底に落ちていくようだ。






【フォロワー還元祭】タイタン杯に参加した記事の完全版です。
 ※タイタン杯は終了しています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?