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木になろう

2年前わしは1年間で3回も帰省した。
宮崎と横浜は離れているので飛行機を使わざるを得ない。
が、飛行機はなかなかに高い。
最安値のタイミングでもカミさんと2人で往復4万円かかるので「今週末行くよ」的なことは難しい。
ようやくワクチン接種ができるようになった頃なので大っぴらに帰省するのも何だか気が引ける。
けれどあいりきプログラムを実施するために福岡に行くことが決まりせっかく目と鼻の先まで来ているんだからと躊躇うことなく宮崎へ飛んで数年ぶりの実家でのんびりしていた。
特に出かけることもせずアマプラで映画を見たり、
自慢の庭で草むしりをしたりしながら親と話す時間が何だか今は愛おしかった。
当たり前のことだけど親と過ごせる時間には限りがあるから昼間はPCの設定を使いやすくしたりスマホの設定を調整したりと自分が無理なくできるやり方で親孝行をして夜は親父の晩酌に付き合いながら(わしは炭酸水)どうでもいいことを話したりオカンの手料理に舌鼓を打った。
The平和な家庭。
一時期は刃物を取り出すようなこともあったし、
オカンの心が疲弊していたこともあった。
そこからわしは精神障害者としてゼロから生まれ変わったような気持ちで過ごしてきたことが今に繋がったと思う。

ところで宮崎は民放が2局しかないので実家のテレビは基本NHKかNHKのBS。
そこで以前見た「ドキュメント72時間」の樹木葬の回について話をした。
すごく印象に残っていてわしは子なし夫婦だし、
墓を建てたところで誰も世話はしてくれない。
わしもカミさんもお花が好きなので樹木葬なら湿っぽくない。うちらにはいいよねという話だったんだけどなんと両親もその回を見ていて実際に樹木葬をやっているところを見に行っていた。
わしは一人っ子だしお墓はいずれ世話はできなくなる。
つまり似たようなロジックで同じようなことを考えていた。

「だったらみんなで木になりますか」
そんなことを言ってみたら
「あら、あんたにしてはいいこと言うわね」とオカンが笑顔になった。
オカン…相変わらず褒めてんだか何だかわからんぞ…。
親父、オカン、カミさん、わし
4人で木になろうかという話で家族3人すっかり盛り上がってしまった。
(この日カミさんはいなかった)

親父「ぼくはやっぱり桜だな。墓参りついでにお花見してくれ」
オカン「あら、なら私も桜でいいわよ」
わし「個人的には…曼殊沙華が…」
親父「君のは木じゃなくて花だろ。木だよ、樹木」
わし「分かってますよぅ…じゃあ金木犀か沈丁花」
オカン「あら今でも好きなの?」
わし「いい香りだからね。みんなに素敵な香りを届ける担当」
親父「君だけ季節が違うだろう。桜にしなさい。家族なんだから揃えるもんだろう」
わし「金木犀は秋だけど沈丁花は春だからいっかなぁなんて」
親父「君は相変わらず協調性がないなぁ大丈夫なのか?仕事場で」
わし「いや…まぁ…失業中なんで」
オカン「◯◯ちゃん(カミさん)どうするの?」
わし「一緒に見てたのよ、これを。こういうのいいねって。だからカミさんも木になってくれると思う」
オカン「あらそうなの、じゃあ◯◯ちゃんこそ桜じゃない」
親父「君だけだよ、勝手こと言ってるのは。君も桜だ。夏にセミが寄ってくるから寂しくないぞ」
わし「分かったよ、桜にするよ。でもセミはいらん」

というような話でひとしきり盛り上がった。
いつになるかは分からない。
けれど桜を植えるのはそう遠くないと思う。
両親ともに平均寿命まで10年を切った。
せめてカミさんとわしの還暦までは元気でいてほしいけど、その時は親父が91歳。
ちょっと難しいかもしれない。

親との関係は時に犯罪になるしネグレクトや虐待というネガティブな側面も持つ。
誰もが必ずしも親を、子を愛しているわけじゃない。
最近は母の日にSNSなどで「お母さんに感謝」的なことをしないでくれとポストする人もいる。
色々あったんだろうなぁと思う反面
それもまたいかがなものかと思う自分がいる。

親も人間なので聖人君子ばかりではない。
かといって悪鬼羅刹ばかりでもない。
というより混沌としている存在だと思う。
だからわしは気にせずこうして親との幸せな記憶を残す。

いつか4本の並んだ桜になって宮崎の春を告げたいと思う。
幸せですよ〜と告げたい。
「良かったらこの下でお弁当どうぞ!」とか言いたいなと思う。

我が家はこの形でいこう。
そんな話をした。
オカン「まぁあんたは昔からボーっとしてるからずーっと木みたいなもんね。アッハッハ」

オカン、そこで楽しそうに笑うなよ…。
まぁ…しょっちゅうボケ~っとしてるから…否定はしませんが…
まったくもぅ…。

どこか悲しい話を明るくできるのが我が家の血筋かもしれません。

数十年後、宮崎で横並びになった4本の桜を見つけたときは声をかけてください。
「相変わらずぼーっとしてますか?」と。

それでは今日はこのへんで。
アディオース!

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